異世界を印刷で無双する/社畜が転生先で「つまり印刷機で魔法陣を大量印刷すれば無双できるのでは」と気づいたがまさかのラスボスに戸惑いを隠せない

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第三章 印刷戦線

第46話 刻限

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半日もしないうちに、絢理はエックホーフ領を過ぎ、快走印刷株式会社・板橋工場へと戻ってきた。初めこそ恐怖でしがみついていたが、街を出て障害物がなくなってからは、速度にも慣れ、快適な旅だった。
夜通しの移動で一瞬寝落ちしたが、転倒することもなく無事だったのは魔法陣が優秀だったのだろう。
工場への敷居を跨ぎながら、絢理はフーゴの話を反芻していた。
出発間際、魔法陣を発動させる前に、ふと絢理は思いついたように尋ねた。

「これ、高い系層とは聞きましたが、具体的には何番目なんです? 一番強いやつですか?」

フーゴは苦笑して応じた。

「いや、系層で言えば、そいつは4番目だな。それでも滅多にお目にかかれない貴重品だよ」

ちなみに、とフーゴは続けた。

「最高系層の魔法陣は異界級って言ってな」
「……は?」
「何だよ、聞いたことでもあったか? 異界級。この世のものでは太刀打ちできない、まるで異世界から呼び寄せたかの如き魔法って呼ばれてるよ。まあ、それこそ世の中に存在してるかも怪しいけどな」

絢理は、開いた口が塞がらない。ポカンと口を開けたまま、思わず自分自身を指さした。
意図がわからず、フーゴは首を傾げる。

「何だよ?」
「いえ……」

この印刷工場も、異界から見れば超常技術のオーパーツに他ならない。
異界級とのネーミングと、戸叶絢理が印刷工場という絶対的な力を持って転生してきたこととは、偶然の一致とは思えない。

「何なんですかねー、私たちって」

独りごちながら、オフセット印刷機を見上げる。当然、印刷機が答えを返して来ることはないが。

「まあ、今は印刷を始めましょう。クライアントが待ってますしね」

彼女はまだ知らない。
三日という納期が既に破綻しており、今すぐにでもファーデンへ戻らねばならないという、致命的な事実を。
 
   ◆

「出なさい」

伶俐な声が室内に届き、タビタは目を覚ました。
ベッドから身を起こして、朝日が登っていることを窓外に確認する。一夜明け、状況は好転しただろうか。
大森林ヴィスガルド内、エルフの起居する城の一室で、彼女は過ごしていた。捕虜とはいえ位のある要人である。タビタとファーデン三世はエルフから丁重な扱いを受けていた。
子爵とは別室だし、用意された部屋も牢獄ではなくしっかりと設られた客室である。
流石に部屋の外には出られないよう窓と扉とは施錠されていたが、手錠や足枷の類はない。
タビタは扉の方を改めて見やる。

「貴方自ら起こしてくれるとは意外だったわ」

扉を開けて彼女に呼びかけたのは、昨夜この城まで連行したイニアスだった。

「状況が変わったのでな。急遽、呼び立てすることとなった」

その一言でタビタが顔を明るくし、イニアスの方へと歩を進める。

「もしかしてもう見つかったの、犯人?」

状況が好転したのだろうと解釈したタビタは、しかし、表情を曇らせる。
数歩を進んだことで、イニアスの背後にファーデン三世が控えているのが見て取れたのだ。彼は、沈鬱な顔を青ざめさせていた。
タビタが足を止め、気を引き締める。
改めてイニアスと正対する。

「逆ってわけか」
「まさしく」

短く頷き、イニアスは淡々と告げた。

「武装した人間どもが大挙してこの大森林に向かっているとの報を得た。が、罪人を連れている様子はないようだ。信じがたいことではあるが、どうやら戦うつもりらしい。我々も迎撃の準備を始めているところだ」

タビタは、彼の視線が首元へ集中するのを感じた。思わず、首をすくめて一歩を退く。
窓外へ視線を転じる。
そこに救いなど、ありはしないのに。
しかし彼女は、そこにあるはずのない影へ向かって小さく毒づいた。

「全く、何モタモタしてんのよ……!」
「処刑せねばなるまい。気の毒ではあるがね」

<続>
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