face/face ―彼の名はまだ、希望か絶望かも知らない―

モノ

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救世の演者

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 船を降り、やっと目隠しと耳栓が外される。長らく刺激を受けなかった感覚器が一斉に光と音を拾う。白い霧は本土現実を見せないように海岸いっぱいに広がっている。この神秘の演出に船に乗り込んだ人々は言葉を失い促されるまま島の中央へと進んでいく。

「おい、大丈夫か」

トウヤが寄り添うようにして近距離に来る。そして私にしか聞こえない音量で呟く。

「ここからが本番だ。周囲の警戒怠るな」
「了解」

 表情は呆然とさせながらも小声で潜入官としてのコミュニケーションを取る。まだ私たちは何も見ていない。これから起こりうることを正確に記録し、外部へと持ち帰る。そう心の中で唱えながら不自然なほど白い砂浜をただただ歩いて行った。
 
 ここでの暮らしは礼拝堂でいもしない神に祈ることから始まるらしい。早速大勢が集まる礼拝堂の後ろに並び、前の人に倣いひざまづく。
 老若男女の祈る声がこだまし広い礼拝堂全体に響き渡る。集団で洗脳された空間であり、私はその中での異物だ。それを悟らせないように朗々とどこかで聞いたような祝詞を読み上げ敬虔な信者を演じる。
 
 異様に揃った祈りの合唱がぴたっとやみ一転。

 礼拝堂は静寂に包まれる。ひざまづいた姿勢を崩さず周囲をじっくり観察する。静かに涙を流すもの、熱気に当てられたように見上げるもの、必死に祈るものその人々の視線は一点に、壇上に向けられている。その視線上には大柄な神父がいた。黒衣を纏い信者たちを見つめる様子はまさに神の代弁者とでもいうような風体だ。

「神の子の奇跡をご照覧あれ」

 低く神父の声が響き渡ると奥から作り物のように綺麗な少年が出てきた。ふわふわとした金髪にエメラルドグリーンの瞳、白地に金刺繍が入った豪奢な衣を纏ったその姿は天使が実在すると言われれば信じてしまいそうな神秘が付帯していた。

 少年が手際よく十字架に磔にされると一気に周囲から炎が吹き出す。信者の中には悲鳴をあげるものもいるがほとんどは奇跡とやらを見ている。一緒に船に乗った人達は動揺を隠せないがこの異様な光景と落ち着き払う信者たちを見て動けないでいるようだ。

 服に防火の細工が施されているのか、少年が火に焼かれる様子はない。
「これこそ神の加護!信じるものは奇跡を手に入れるのです!敬虔なる神の信徒たちよ、今日も祈り神への奉仕へ励むのです」と吠えるように神父が語る。
その光景に痛いほどの音量の拍手が巻き起こる。

 無防備な少年を、わざわざ火にくべるような演出で“楽園”を謳うのなら――
私は、地獄と呼ばれる本土にいた方が、まだマシだ。

 
 少年の表情や炎を観察し、点火してから確実に熱さが少年の感覚器官に到達するであろう時間。少年は無反応で微笑むのみ。もし仮に少年に奇跡とやらが起こったとしても周囲の縄や床などに少しも影響がないとは考えにくい。炎自体は立体映像か何かなのではないだろうか。ペテン集団と騙された人間。偽りの信仰の火種を白日の元に晒せるのも時間の問題だ。そう考えた私は周りの信者と感動を語りあいなら、トウヤに目配せをし、静かに舞台の控え室の方向へと足を進めた。
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