face/face ―彼の名はまだ、希望か絶望かも知らない―

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牙を研ぐ祈り

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 困ったように下がる眉、きょろきょろとあたりを忙しなく見渡し、しかし足取りだけは舞台裏に向かう。今すぐに神の奇跡とやらの跡地に行けば薬品や機材など証拠になるものが見つかる可能性がある。

 万が一にも奇跡などは存在していないと言えるが裏どりは早いうちがいい。それに潜入が長引くと信用はしてもらえるが顔を覚えられて動きにくくなるのも事実。今のうちに道に迷った信者のふりをして何か見つけても素知らぬふりをしておけば何かの処遇を受けることもないだろう。

「おい、何をしている!」

 威圧的な男性の声が後ろからかけられる。まるで救いの光でもあるように後ろを不安そうに振り返り、頭を下げる。

「ああ、申し訳ありません。道に迷ってしまい……神官様にお会いできるなんて神のお導きですわ!」

 いかにも感銘を受けました。不安が晴れましたという声色を作り神官を見る。その背後には先ほどの神の奇跡とやらを受けた少年ともう一人神官らしき制服を着た人物がいる。

「おい、お前。仕方ないから出口まで同行しろ。ルミエル様こちらへ」
「はっ、君こちらへ」

 どうやら少年の後ろにいる神官の方が部下なのか顎でつかうような命令をしてさっさと少年を連れ立って上司の神官は歩いていく。その刹那、少年とすれ違う。目に浮かぶのは慈愛と隠しきれない嘲りと嫌悪。にこっと天使のように微笑む少年はそこだけ切り取れば絵画のようであった。

「ありがとうございます。ルミエル様と神官様のその優しさに感謝を」

 祈るように手を合わせて部下の神官についていく。今はこれでいい。神官の中にも警戒心が薄く信者が何をしているかを全く気にしていないものがいる。もう一つはルミエル様とやらはお綺麗なだけではないという情報。これは長期任務だ、焦って功をせいてはいけない。おそらく信者から情報を集めているであろうトウヤとの情報共有で見えてくることもあるだろう。仮面をつけたもの同士、こちらが先にあの綺麗な天使様の厚そうな面の皮を剥がすことが復讐への……いや、任務遂行への一歩かもしれない。そんなことを考えながら部下の神官に声をかける。

「本日来たばかりでして貴方様がいてくれて助かりました。ルミエル様も奇跡も本当に美しくて私この島に来てよかったです」

「ああ、君もここで救われるといい。神からの福音をよく聞き、従って過ごすことで救済はなされる」

「はい、神の御心のままに。使命を全うしますわ」

「君みたいな人がいてくれると嬉しいよ。最近やれ食べ物だ、金だとうるさいやつが多くてね。おっと、そのものたちも改心して神に仕えて救済されるのだから心配はいらないよ」

「ええ、本当に素敵」

ああ、反吐が出る。偽りの救済など何にもならないのに。この誰かの自分勝手な醜さこそが私を奮い立たせる。この箱庭ごとそのうち潰す。少しでも情報を引き出せるよう礼拝堂の出口まで従順な羊の皮を被って、牙をこっそりと研ぐのだった。
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