face/face ―彼の名はまだ、希望か絶望かも知らない―

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仮面越しの安息

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 静かな自室。ベッドと簡素な机、洗面台以外は何もない部屋、自分の腹部から聞こえるささやかな消化音が空腹感をさらに駆り立てる。飲まず食わずで過ごす訓練は受けているが、ただ何もせずにトウヤの帰りを待つだけの時間でもあって空虚さが増して感じられる。

 21時、信者たちが寝静まったためGPSにて島の位置を特定した後方支援部隊より届けられた物資を回収しに行くこととなった。元々教団に出された食事は信用しない前提であったため計画は順調に進んでいる。
 一人で待っているのはトウヤが物資回収は一人で行くと言って聞かなかったため仕方なく送り出したのである。トウヤはできるだけ任務の割り振りを私にしない悪癖がある。今日の舞台裏への潜入は女の私の方が怪しまれないという采配だったが、いつも危険性が高いことは自分でやりたがる。悔しいが身のこなしや索敵能力、いざというときの判断能力など私がトウヤに劣るところなど沢山ある。足を引っ張らないようにするのが大事なのはわかっている。でも――突きつけられる無力さが、怒りにも似た虚しさを呼び起こすのだ。

 やはり空腹は悪い方向に考えを持っていく。栄養補給をして思考を切り替える方が建設的だ。そう思っているとトウヤのノックが聞こえる。二人で決めた合図であり、そっと開けると素早い身のこなしで入り、音を立てずにドアを閉める。無言で渡された盗聴器探査機を当てて、安全確認。

「はぁー」

どちらとともなくため息が出た。

「ただいまハニー、君のために美味しいご飯をとってきたよ」
「おかえりダーリン、メープル味がいい」

渡されるブロック型保存食。見慣れたものに安心してしまう。二人でもそもそと咀嚼しながら本日の報告会を行う。

「いやー、1日目おつかれさん。長かったな」
「ほんと1日でもおかしいとこ多すぎ、子供向けの間違い探しかっての」
「うんうん、お前の害のない奥さん演技も鳥肌だったぞ」
「どういう意味だ」

 素に戻るこの時間が何よりものストレス発散だ。一人の任務だとこうやって息抜きする時間がないからちゃんと信者の私ではなく公安の私がいると安心してしまう。さて公安としての私も仕事をするとしよう。

「今日の礼拝後の舞台裏だけど探索する前に見つかって連れ戻された。でもあのルミエルっていう金髪。なんつーか、信者を見下してる感じ。あと神官はスパイや潜入がいることが眼中にないっていう印象」

「そうか、単にみくびっているのか。洗脳や薬物でどうとでもなると踏んでいるのかといったところだな。あの金髪の小僧は神の子って呼ばれてて教団でもなかなかの地位らしい。観察を強化対象だな。あとは食事の時に出てきたお嬢さんだが」

「あの子の言葉に何かトリガーがあるのか、食事に何かはいってるのかまだ確定はできない」

「イヌカイにスープを浸したガーゼと簡易報告書送っといた」

「え?私の吐き出したやつじゃないよな?」

 いつもなら気にしない。でもイヌカイだけは別なのだ。多分喜ぶ、そして理性と本能の狭間で揺れながら舐めるか検討する。そんな残念な男だ。任務のためなら送るのは仕方ないが成分分析後、速やかに捨てて欲しい。

「うん、俺のやつ。ちゃんと報告書にも書いといたから口に含まないと思う」

「うわぁ、最上級のキモい想定」

「ははっ、常に最悪の想定をしとくもんだよ」

 とりあえず最速で明日には結果が届くはず。食事の安否確認はひとまず保留だ。

「まずは信頼を得て上層部のところに潜り込む。情報が命だ、突っ走るなよ」

「わかった」

最後は言葉少なく会話をし、寝る準備を整える。休める時に休むのが鉄則である。お互いの意図を察した私たちは浅めではあるが眠りについた。
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