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第三話 禁忌〜蝶子の不覚

#2 キスに溺れて

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 ぬろぬろと舌が出入りし、蝶子の口内をほしいままに舐め尽くす。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぢゅぅっ……

 吸いつき、舐め上げ、絡みついて、また吸って。

 開かされた口は、顎ごと男の手中だ。
 あふれる唾液が節ばった手を濡らしていく。

「っ、は、ぅ、……ふ」

 熱く激しいばかりではない。
 ねっとりと絡んだかと思えば、柔らかくくすぐったり、優しく啄んだりと、不規則な緩急で、蝶子を翻弄した。

「ふ、はっ、んぅ」

 蝶子は、口が弱いのだ。
 とくにキスに耐性がない。

 だからNGにしていたのに。

(うそ……どうしよう、これ、だめ……)

 小さな口の中に侵入を許してしまえば、もう抵抗などできはしない。
 まして、Dの超絶舌戯を手加減なくふるわれては。

(ちが、こんなはずじゃ)

 今さら悔やんでも、もう遅い。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ──

(あたま、まわんない……)

 蕩けきった表情が、すべてを暴露していた。

「とろっとろだね。何そのかわいい顔。そんな顔、初めて見たよ」
「あ、っ、ふ……」
「何なら中イキより悦さそうだよね?」
「っ」

(こんなキス、知らない…)

 膝がふるえ、身体がずり落ちていく。

「おっと」

 ぐ、と受け止めたのは、脚の間を押し上げる男の膝だ。
 濡れに濡れてあふれた蜜が、ぐちゅんと淫らな音をたてた。

「あんっ……!!」

 ぐいっ、ぐいっ、と捏ね上げられて、もう何も考えられない。
 脚の力が抜けていく。

「だめだよ。しゃんと立ってて」
「あっ……」
「オフィスの会議室なんだから」

 スカートの中に入り込んだ手が、ガーターベルトをなぞって這い上がる。
 細い紐で軽く結えられただけの下着は危ういほどに頼りなく、紐が指先に引っかかっただけで、はらりと儚くほどけそうだ。

「でも、なのに中はこんなエロい下着とか」
「あっ!」
「最高」

 申し訳程度の小さな布地をすり抜けて、蜜したたる花唇に指が呑まれていく。

 ぬぷ──

「あっ…! んっ!!!」

 びくびくびくっ──

 どぷ、と溢れて、膝がかくんと落ちた。

 がくがくと震える身体を下から貫く指は、いったい彼女を支えているのか、崩しているのか、どちらもなのか。

「あああああああああっ」

「ね、花ちゃんも口弱いのかな」
「ぇ…?」
「あのうぶな子に同じことしたら、どうなるかなと思っ…」

 皆まで言わせず、蝶子がDの口をふさいだ。

「他の女(こ)の話なんかしないで」

 拗ねた瞳で見上げる蝶子は、いつもの強気な女王様とはまるで別人だ。
 濡れて震える扇情的な唇に、Dがゆっくりと触れにいく。

「そうだね。ごめん。僕が悪い」

 同じ貴女だよ、と心の中では思ったのか、どうか。
 熱い吐息で覆い尽くす男の表情は、身震いするほど甘く艶麗だった。

「蝶子さん」
「ん、っ……!」

 途方もなく濃厚なキスが延々と続いた。
 熱く濃く、深くて甘い。
 さっきまでは、まだなお子供騙しだったのだと、思い知らされる。
 中をまさぐる罪な指も、ぞわぞわと蠢きつづけていた。

「あ! んっ!」
「指、何本挿入ってるかわかる?」

 尋ねておきながら、濡れた唇を唇で塞いで、また濃厚なキスを重ねる。
 答えさせる気があるのか、ないのか。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、ぢゅ、ぢゅ、ぢゅぅっ……

「すごい、中もきゅんきゅん言ってる。もっと欲しいって」
「っ、ふぁ、っ……!」

(あっ、また…)

 ゆるく抉られるたびに上がる嬌声は、口づけに飲み込まれて淫らにくぐもる。

「んっ、ぅ、んんっ……!」

(うそ、これ、イクの……とまんない)

 ゆさん、と揺られて、とうとう芯が抜けるように体が崩れた。

(だめ、もう……)

 そんなことはわかっていた。
 そうでなくとも口は弱いのだ。
 キスに堕ちると負けてしまう。
 そうなるともう押しとどめるすべがない。
 崩れ落ちる。
 ただの女になってしまう。
 だからここでは禁忌にしていたのに。

(こんなの、無理……)

「蝶子」

 甘く呼び捨てる声は、とどめの一撃だった。

 蝶子はたまらないようにして、また唇を求めた。

「もう設定とか、いいからっ…」

 びくんびくんと痙攣止まらぬ体をよじって。
 いやいや、と首を振る様は、もはや駄々をこねる子供でしかない。

「い、ぱい、シて…」

 しぐさばかりか、焦れた口調まで子供のように幼く頑是なく。
 なのに甘く蕩けた表情と濡れた目と唇は男をくらくらさせるほど色っぽく、乱れた服に包まれた身体はむしゃぶりつきたくなるほど蠱惑的だった。

「おねが……、もう…」

 かぶせて覆い尽くした深いキスがDのこたえだ。
 あふれた唾液が顎に伝う。

「ん、んっ、ふ、う…」

「蝶子」

 遊び慣れた大人の余裕と欲を隠さない、普段の気丈な蝶子とはまるで別人。
 といって、うぶで生真面目な花とも違う。

 いじらしくて健気としか言いようのない、こんな可憐な蝶子を見たことがなかった。

「いいよ。いっぱいシてあげる。だから」

 熱く掠れた声、早い息遣い、汗ばむ肌。
 Dのそんな姿もまた常ではないのだが。

「ベッド行こう」

 返事も待たずに抱き上げて、こくんと幼く頷いた頭を引き寄せた。

「肩に顔埋めてて」

──そんな顔、誰にも見せないから。

 蝶子の地肌にそう囁いて、Dは小さな部屋を出た。
 手近にいたスタッフに「VIP使うよ」と言い投げて大股に廊下をいくDの前に、海が割れるように道がひらけていった。宝物のように抱えられた蝶子の髪がさらさらとなびく。

 そして連れていかれた静かな部屋の広いベッドで、また飽きることなくキスを交わした。
 二人の熱い夜はいつ果てたのか、その日、Ilinxで蝶子の帰る姿を見た者はいない。



第三話 終


お読みくださりありがとうございます。
蝶子さんが甘堕ちしてしまうお話でした。
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