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第四話 月蝕〜マスカレード・ナイト
#6 蝶子の召喚 ※
しおりを挟む第二ラウンドでは四つん這いにさせられ、第三ラウンドはまた最初と同じはりつけ。第四ラウンドは膝を立てて脚を開かれた。第五ラウンドが終わった頃には、もうすっかりぐずぐずになり、スイッチが壊れたようにびくんびくんと痙攣を繰りかえすばかり。マスクごしでもわかる焦点のとんだ目が、強いライトをガラス玉のように反射していた。
客席は大いに沸き、さらなるプレイを求める。
「いいぞ。もっとやれ」
「もう本番でいいじゃないか」
「いや、じっくり可愛がってやるんだ。たっぷり焦らしてな。次はプレイフィンガーでどうだ?」
「それよりマスクをはずせ。花をはずむぞ」
ステージに花が一輪、また一輪と投げ込まれる。
「ほら、花、聞こえる? 素敵だって。とっても期待されてるよ。君が可愛いから、皆さん、もっと君を喜ばせてあげたいとおっしゃってる」
はーっ、はーっ、と熱い息をこぼして、虚な目でDを見上げた。
「もうちょっと頑張ろう? ね?」
腰に響く濡れた声。熱くとろけるまなざし。
どんな女もうっとりさせてしまう美しい笑み。
そうして優しく甘く囁きながら、しかしDの両手は何の躊躇いもなく、ワンピースを引き裂いた。
びりびりびりっ──
ニットを引き裂く鋭い音が、フロアに響く。
穴だらけになっていたワンピースは下から裂かれ、剥ぎ取られ、一糸まとわぬマシュマロのような裸体が壇上にさらされた。
「あっ……」
ぴくん、と白い身体が跳ねた。だが動きは弱々しい。
手足の枷が外されても、自分で腕を下ろすことすらできない。
「かわいそうに。こんなガチガチにこわばって」
頭上に上げたままがくがくと震える腕を、Dがさすりはじめた。
「怖かったね」
薄く赤らんだ手首を静かに包み、そっと撫でる。
その撫で方が、あまりにもやさしい。
(どうしてそんなにやさしく触れるの)
こんな目に遭わせた張本人のくせに。
触れられたところから、全身に沁みていく。
じんわりと伝わるぬくもりに、涙が滲んだ。
そうして緩んだ身体は不覚にもとろりと蜜をこぼす。
(あっ……)
今さらのように羞恥が彼女を襲った。
「かわいいよ、花」
充分ほぐれるまで待ち、腕が下ろされた。
次は脚だ。
節ばった指が大きく開かされたままの足首を労わる。
だが、Dの目は違うところに向けられていた。
十時十分の時計の針のように開いた両脚の、その奥に。
口元に妖艶な笑みが閃く。そして、
「そんなに怖かったのに、こんなに濡れたんだ」
ぬぷん───
「んあっ……!」
あんなに優しく触れていた指が、前触れも容赦もなく貫き、掻き回してきた。
「ああんっ!」
「大変だ。濡れてるなんてもんじゃないね」
「ああっ、ああああっ、あっ!!」
「ああ、でもかたい」
ぐりゅぐりゅと掻き回す指遣いは、乱暴ではないが、手加減などするつもりもないのは明らかだった。
「あ! んっ! ひぁっ」
「こんなにずぶずぶになっててもかたいとか、あるんだね」
「いやああぁ……あ! あっ! ああっ」
「気持ちがついてきてないんだね。心と身体はつながってるから。かわいそうに」
「あんっ」
「でも、それだけ身体は素直だってことだ」
ぐ、と捏ねる指に、またとろりと蜜があふれる。
「んあっ」
「いいね。堕としがいがある」
「や、ぁ……」
「うんと気持ちよくなれるように、とろとろのふかふかにしてあげる」
音を立てて指が抜かれた。
小さな顎が、くい、と捕まり、震える唇をDの指がなぞる。
「え」
「でも困ったな。花ちゃんにベロチューしたら、あのひとが拗ねちゃうんだよね」
どうしよっか、と言いながら、見せつけるように唇を舐めるDの表情は、マスクに隠れてわからない。
「まあ、じゃあ、仕方ないよね。今だけ、ちょっとだけ……」
つい、と耳元に口が寄せられた。
「ね、蝶子さん」
(……っ?!)
「なっ…!」
深く優しく、しかし強い声が呼ぶ。
「蝶子。おいで」
耳に直接注がれる囁きは、他の誰にも聞こえていないだろう。
だが、彼女の悲鳴は、フロア中に響く。
「ちょ、嘘、いや────っ!」
次ページへ続く
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