【R18】眩惑の蝶と花──また墓穴を掘りました?!

umi

文字の大きさ
26 / 46
第四話 月蝕〜マスカレード・ナイト

#7 罠に堕ちる生贄 ※

しおりを挟む
「ちょっと! こんなの、聞いてないからっ!」

 蝶子とDがつくりあげた架空人格、花。
 スイッチになっているのは名前だ。
 「花」と呼ばれれば処女官能小説家・花になり、「蝶子」と呼ばれれば百戦錬磨の女王・蝶子に戻る。Dにそう仕込まれた。

「馬鹿馬鹿馬鹿っ……!」

 フロアにざわめきが広がる。
 それはそうだろう。
 最初から抵抗らしい抵抗もできず、ただ怯えて震えていた。
 ついさっきまで、哀れなまでにただされるがまま、男たちの意のままに喘がされては泣いていた子羊のような生贄が、突然、語気も激しく反抗してきたのだ。

「ちょっ、何考えてるのよっ!」
「何って、野暮だなあ。決まってるでしょ? これからあなたを犯すんですよ。みんなの見てる前で」
「寝ぼけたこと言ってないで、さっさと放しなさい!」
「この状況で、まだそんな強気なこと言えるんだ。ぞくぞくするねぇ」

 だが、絶対的な捕食者の前では、それすらもショーのスパイスにされてしまうのは当然のことだったろう。

「D、本気で怒るわよ。いい加減になさい!」
「蝶子さん、怒った顔も綺麗だね」
「D!!」
「その強気な目が、屈辱と絶望でどんな風にまみれてゆくか。ああ、たまらないな」
「こんなことしてただで済むと思っ……んっ、んむっ」

 女の口の塞ぎ方など、他にない。

 ぢゅっ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅく、ちゅく、ちゅく、ぢゅっ、ぢゅっ──

「ん、ぅ、っ、は、んんっ、……あっ」

 口の弱い蝶子が、Dのキスに抗いきれるわけがなく。
 強気な攻勢も長くは続かない。

 ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ、くちゅ、ちゅ、ぢゅ、ぢゅうぅ──

「あ、あぁ……、は、ぁ……、ああぁ」

 陥落が時間の問題なのは誰の目にも明らかだった。

 肩を怒らせて威勢よく逆らっていた女が、トップソムリエのキス責めにあい、少しずつ少しずつ、しかし確実にくったりと堕ちていくさまは、男たちを最高に興奮させた。

 フロアから滾る男どもの声が飛ぶ。

「いいぞ」
「たっぷりわからせてやれ」
「マスクをはずせ」
「顔を見せろ」

 蝶子はぎくりと震えた。

「そうだ、見せろ!」
「花をはずむぞ」

「どうする? 蝶子さん」

 Dが蝶子の耳をくすぐり、マスクの紐をくいとひっぱった。

「晒してみる? いま顔を見られたら、きっと死ぬほど羞ずかしいよね」
「嫌、それだけはいや…」

 声が震える。

「そう? でも、蝶子さんの書く羞恥プレイはとってもエロいよ。ああいう羞ずかしいのがイイんでしょ? 実際どんなに感じるか、試してみない?」

 ぶんぶんと首を振り、「だって」と蝶子はかぼそく声を震わせた。

「……誰にも見せないって、言ったじゃない」
「……」

 あの日。初めてキスした日。
 ただでも口の弱い蝶子は、彼の巧みな舌戯でとろとろにされた。
 抱き上げられて別室にさらわれるとき、自分の肩に顔を埋めさせてDは甘く囁いたのだ。

 ──そんな顔、誰にも見せないから。

 あんなことを言っておいて、しておいて。
 なのにどうしてこんなことを。

 さすがの蝶子にも、もう強がる余裕は残っていなかった。

「……お願い」

 それは蝶子がけっして口にしない懇願のことばだ。
 これがどれほどのことか、Dならわかるはずだ。

 なのに。

「ん、そうだったね」

 一度はそう言っておきながら。
 蝶子が目に見えてほっと油断した、その瞬間──。

「だから、僕にだけ見せて」

 非情にも、ぱさりとマスクが剥ぎ取られた。

「あっ」

(ちょ、嘘っ……!)

 呆然と目を見開く顔を手挟んで、Dはすかさず唇を重ねた。

「ああ、やっぱり」

 あまりにも一瞬のことで、そして客席に背を向けたDの体に隠れて、たしかに蝶子の顔はフロアの男達の誰にも見られはしなかっただろう。

 だが、彼の目にはすべてが晒されていた。
 発情しきった女の顔をした、蝶子のすべてが。

「やっぱりかわいい。なんていい顔をするんだろう」

 たまらない、と唇の隙間に流し込む。

「でも、もっとだ」

 ぢゅうぅ、ぢゅっ、ぢゅっ、ちゅく、ちゅく──

「僕のことだけ考えて」

 両耳にDの指が入ってきた。
 栓をするように塞がれ、外界の音が途絶える。

 ちゅく、ちゅく、ちゅく、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅぅっ──

(嘘、これ、音が……)

 ちゅく、ちゅく、ぴちゃ、くちゅ、ぢゅぷ──

 キスの音だけが増幅されて、蝶子の中に反響する。

「……っ、ふ、……ぅっ、はぁ」

(だめ……)

「最高だよ、蝶子」

 とろんと虚ろな目に、犯されるままの無防備な口。
 力の差をわからせるようなキスが、そうしてどれだけ続いたろう。

「めちゃくちゃにしてあげる。もっと堕ちきったあなたを見せて」

 ──ぬぷ……

 また指で貫かれた。

「あああんっ!」

「もうよさそうだね。とろとろだ。それに、とんでもなくうねってる」

 Dは、とろけんばかりの笑みをこぼして、蝶子の乱れた前髪を整えた。

「ごめんね。でもあなたが悪いんだよ。あなたがあんまりピュアだから」

 ちゅちゅちゅ、ちゅちゅ、ちゅっ、ちゅく、ぢゅぅ、ぢゅうぅっ──

「詰めの甘い女王様」
「ん、っ……、はぁ、んうっ」
「あの蝶子さんが、まさかこんな弱点を持ってたなんて。キスひとつで、こんなにぐずぐずに堕ちるなんて」
「あ、んぅ、ふっ、はっ……」

「僕らは悪い大人だし、男だからね」

 ぴちゃ、くちゅ、ぢゅぢゅぢゅ、ぢゅうぅっ──

「ねえ、蝶子。あんまり綺麗すぎて」

「ん! んんんっ…」

「汚したくなる」

 ぐい、と脚が押し開かれた。



次ページへ続く


読んでくださりありがとうございます!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...