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第四話 月蝕〜マスカレード・ナイト
#7 罠に堕ちる生贄
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「ちょっと! こんなの、聞いてないからっ!」
蝶子とDがつくりあげた架空人格、花。
スイッチになっているのは名前だ。
「花」と呼ばれれば処女官能小説家・花になり、「蝶子」と呼ばれれば百戦錬磨の女王・蝶子に戻る。Dにそう仕込まれた。
「馬鹿馬鹿馬鹿っ……!」
フロアにざわめきが広がる。
それはそうだろう。
最初から抵抗らしい抵抗もできず、ただ怯えて震えていた。
ついさっきまで、哀れなまでにただされるがまま、男たちの意のままに喘がされては泣いていた子羊のような生贄が、突然、語気も激しく反抗してきたのだ。
「ちょっ、何考えてるのよっ!」
「何って、野暮だなあ。決まってるでしょ? これからあなたを犯すんですよ。みんなの見てる前で」
「寝ぼけたこと言ってないで、さっさと放しなさい!」
「この状況で、まだそんな強気なこと言えるんだ。ぞくぞくするねぇ」
だが、絶対的な捕食者の前では、それすらもショーのスパイスにされてしまうのは当然のことだったろう。
「D、本気で怒るわよ。いい加減になさい!」
「蝶子さん、怒った顔も綺麗だね」
「D!!」
「その強気な目が、屈辱と絶望でどんな風にまみれてゆくか。ああ、たまらないな」
「こんなことしてただで済むと思っ……んっ、んむっ」
女の口の塞ぎ方など、他にない。
ぢゅっ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅく、ちゅく、ちゅく、ぢゅっ、ぢゅっ──
「ん、ぅ、っ、は、んんっ、……あっ」
口の弱い蝶子が、Dのキスに抗いきれるわけがなく。
強気な攻勢も長くは続かない。
ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ、くちゅ、ちゅ、ぢゅ、ぢゅうぅ──
「あ、あぁ……、は、ぁ……、ああぁ」
陥落が時間の問題なのは誰の目にも明らかだった。
肩を怒らせて威勢よく逆らっていた女が、トップソムリエのキス責めにあい、少しずつ少しずつ、しかし確実にくったりと堕ちていくさまは、男たちを最高に興奮させた。
フロアから滾る男どもの声が飛ぶ。
「いいぞ」
「たっぷりわからせてやれ」
「マスクをはずせ」
「顔を見せろ」
蝶子はぎくりと震えた。
「そうだ、見せろ!」
「花をはずむぞ」
「どうする? 蝶子さん」
Dが蝶子の耳をくすぐり、マスクの紐をくいとひっぱった。
「晒してみる? いま顔を見られたら、きっと死ぬほど羞ずかしいよね」
「嫌、それだけはいや…」
声が震える。
「そう? でも、蝶子さんの書く羞恥プレイはとってもエロいよ。ああいう羞ずかしいのがイイんでしょ? 実際どんなに感じるか、試してみない?」
ぶんぶんと首を振り、「だって」と蝶子はかぼそく声を震わせた。
「……誰にも見せないって、言ったじゃない」
「……」
あの日。初めてキスした日。
ただでも口の弱い蝶子は、彼の巧みな舌戯でとろとろにされた。
抱き上げられて別室にさらわれるとき、自分の肩に顔を埋めさせてDは甘く囁いたのだ。
──そんな顔、誰にも見せないから。
あんなことを言っておいて、しておいて。
なのにどうしてこんなことを。
さすがの蝶子にも、もう強がる余裕は残っていなかった。
「……お願い」
それは蝶子がけっして口にしない懇願のことばだ。
これがどれほどのことか、Dならわかるはずだ。
なのに。
「ん、そうだったね」
一度はそう言っておきながら。
蝶子が目に見えてほっと油断した、その瞬間──。
「だから、僕にだけ見せて」
非情にも、ぱさりとマスクが剥ぎ取られた。
「あっ」
(ちょ、嘘っ……!)
呆然と目を見開く顔を手挟んで、Dはすかさず唇を重ねた。
「ああ、やっぱり」
あまりにも一瞬のことで、そして客席に背を向けたDの体に隠れて、たしかに蝶子の顔はフロアの男達の誰にも見られはしなかっただろう。
だが、彼の目にはすべてが晒されていた。
発情しきった女の顔をした、蝶子のすべてが。
「やっぱりかわいい。なんていい顔をするんだろう」
たまらない、と唇の隙間に流し込む。
「でも、もっとだ」
ぢゅうぅ、ぢゅっ、ぢゅっ、ちゅく、ちゅく──
「僕のことだけ考えて」
両耳にDの指が入ってきた。
栓をするように塞がれ、外界の音が途絶える。
ちゅく、ちゅく、ちゅく、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅぅっ──
(嘘、これ、音が……)
ちゅく、ちゅく、ぴちゃ、くちゅ、ぢゅぷ──
キスの音だけが増幅されて、蝶子の中に反響する。
「……っ、ふ、……ぅっ、はぁ」
(だめ……)
「最高だよ、蝶子」
とろんと虚ろな目に、犯されるままの無防備な口。
力の差をわからせるようなキスが、そうしてどれだけ続いたろう。
「めちゃくちゃにしてあげる。もっと堕ちきったあなたを見せて」
──ぬぷ……
また指で貫かれた。
「あああんっ!」
「もうよさそうだね。とろとろだ。それに、とんでもなくうねってる」
Dは、とろけんばかりの笑みをこぼして、蝶子の乱れた前髪を整えた。
「ごめんね。でもあなたが悪いんだよ。あなたがあんまりピュアだから」
ちゅちゅちゅ、ちゅちゅ、ちゅっ、ちゅく、ぢゅぅ、ぢゅうぅっ──
「詰めの甘い女王様」
「ん、っ……、はぁ、んうっ」
「あの蝶子さんが、まさかこんな弱点を持ってたなんて。キスひとつで、こんなにぐずぐずに堕ちるなんて」
「あ、んぅ、ふっ、はっ……」
「僕らは悪い大人だし、男だからね」
ぴちゃ、くちゅ、ぢゅぢゅぢゅ、ぢゅうぅっ──
「ねえ、蝶子。あんまり綺麗すぎて」
「ん! んんんっ…」
「汚したくなる」
ぐい、と脚が押し開かれた。
次ページへ続く
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蝶子とDがつくりあげた架空人格、花。
スイッチになっているのは名前だ。
「花」と呼ばれれば処女官能小説家・花になり、「蝶子」と呼ばれれば百戦錬磨の女王・蝶子に戻る。Dにそう仕込まれた。
「馬鹿馬鹿馬鹿っ……!」
フロアにざわめきが広がる。
それはそうだろう。
最初から抵抗らしい抵抗もできず、ただ怯えて震えていた。
ついさっきまで、哀れなまでにただされるがまま、男たちの意のままに喘がされては泣いていた子羊のような生贄が、突然、語気も激しく反抗してきたのだ。
「ちょっ、何考えてるのよっ!」
「何って、野暮だなあ。決まってるでしょ? これからあなたを犯すんですよ。みんなの見てる前で」
「寝ぼけたこと言ってないで、さっさと放しなさい!」
「この状況で、まだそんな強気なこと言えるんだ。ぞくぞくするねぇ」
だが、絶対的な捕食者の前では、それすらもショーのスパイスにされてしまうのは当然のことだったろう。
「D、本気で怒るわよ。いい加減になさい!」
「蝶子さん、怒った顔も綺麗だね」
「D!!」
「その強気な目が、屈辱と絶望でどんな風にまみれてゆくか。ああ、たまらないな」
「こんなことしてただで済むと思っ……んっ、んむっ」
女の口の塞ぎ方など、他にない。
ぢゅっ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅく、ちゅく、ちゅく、ぢゅっ、ぢゅっ──
「ん、ぅ、っ、は、んんっ、……あっ」
口の弱い蝶子が、Dのキスに抗いきれるわけがなく。
強気な攻勢も長くは続かない。
ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ、くちゅ、ちゅ、ぢゅ、ぢゅうぅ──
「あ、あぁ……、は、ぁ……、ああぁ」
陥落が時間の問題なのは誰の目にも明らかだった。
肩を怒らせて威勢よく逆らっていた女が、トップソムリエのキス責めにあい、少しずつ少しずつ、しかし確実にくったりと堕ちていくさまは、男たちを最高に興奮させた。
フロアから滾る男どもの声が飛ぶ。
「いいぞ」
「たっぷりわからせてやれ」
「マスクをはずせ」
「顔を見せろ」
蝶子はぎくりと震えた。
「そうだ、見せろ!」
「花をはずむぞ」
「どうする? 蝶子さん」
Dが蝶子の耳をくすぐり、マスクの紐をくいとひっぱった。
「晒してみる? いま顔を見られたら、きっと死ぬほど羞ずかしいよね」
「嫌、それだけはいや…」
声が震える。
「そう? でも、蝶子さんの書く羞恥プレイはとってもエロいよ。ああいう羞ずかしいのがイイんでしょ? 実際どんなに感じるか、試してみない?」
ぶんぶんと首を振り、「だって」と蝶子はかぼそく声を震わせた。
「……誰にも見せないって、言ったじゃない」
「……」
あの日。初めてキスした日。
ただでも口の弱い蝶子は、彼の巧みな舌戯でとろとろにされた。
抱き上げられて別室にさらわれるとき、自分の肩に顔を埋めさせてDは甘く囁いたのだ。
──そんな顔、誰にも見せないから。
あんなことを言っておいて、しておいて。
なのにどうしてこんなことを。
さすがの蝶子にも、もう強がる余裕は残っていなかった。
「……お願い」
それは蝶子がけっして口にしない懇願のことばだ。
これがどれほどのことか、Dならわかるはずだ。
なのに。
「ん、そうだったね」
一度はそう言っておきながら。
蝶子が目に見えてほっと油断した、その瞬間──。
「だから、僕にだけ見せて」
非情にも、ぱさりとマスクが剥ぎ取られた。
「あっ」
(ちょ、嘘っ……!)
呆然と目を見開く顔を手挟んで、Dはすかさず唇を重ねた。
「ああ、やっぱり」
あまりにも一瞬のことで、そして客席に背を向けたDの体に隠れて、たしかに蝶子の顔はフロアの男達の誰にも見られはしなかっただろう。
だが、彼の目にはすべてが晒されていた。
発情しきった女の顔をした、蝶子のすべてが。
「やっぱりかわいい。なんていい顔をするんだろう」
たまらない、と唇の隙間に流し込む。
「でも、もっとだ」
ぢゅうぅ、ぢゅっ、ぢゅっ、ちゅく、ちゅく──
「僕のことだけ考えて」
両耳にDの指が入ってきた。
栓をするように塞がれ、外界の音が途絶える。
ちゅく、ちゅく、ちゅく、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅぅっ──
(嘘、これ、音が……)
ちゅく、ちゅく、ぴちゃ、くちゅ、ぢゅぷ──
キスの音だけが増幅されて、蝶子の中に反響する。
「……っ、ふ、……ぅっ、はぁ」
(だめ……)
「最高だよ、蝶子」
とろんと虚ろな目に、犯されるままの無防備な口。
力の差をわからせるようなキスが、そうしてどれだけ続いたろう。
「めちゃくちゃにしてあげる。もっと堕ちきったあなたを見せて」
──ぬぷ……
また指で貫かれた。
「あああんっ!」
「もうよさそうだね。とろとろだ。それに、とんでもなくうねってる」
Dは、とろけんばかりの笑みをこぼして、蝶子の乱れた前髪を整えた。
「ごめんね。でもあなたが悪いんだよ。あなたがあんまりピュアだから」
ちゅちゅちゅ、ちゅちゅ、ちゅっ、ちゅく、ぢゅぅ、ぢゅうぅっ──
「詰めの甘い女王様」
「ん、っ……、はぁ、んうっ」
「あの蝶子さんが、まさかこんな弱点を持ってたなんて。キスひとつで、こんなにぐずぐずに堕ちるなんて」
「あ、んぅ、ふっ、はっ……」
「僕らは悪い大人だし、男だからね」
ぴちゃ、くちゅ、ぢゅぢゅぢゅ、ぢゅうぅっ──
「ねえ、蝶子。あんまり綺麗すぎて」
「ん! んんんっ…」
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