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1-4 反乱の狼煙
75 ハク先生・前
しおりを挟む前回、ラムレイの軍が来たとき、アッカ村はひどい目にあった。
村人や孤児たちが怯えるかもしれないと思って、第二騎士団が来る前に、フェルトとリンと一緒にアッカ村に伝えにきたのだ。とりあえず村長に話し、村全体におおまかなことを伝えてもらった。
村人たちは不安がっていたが、まあ……不安なのは仕方がないことだ。でも、第二騎士団が平民で構成されていることを伝えると、幾分か不安も和らいだようだった。
村の様子だけでも見回って帰ろうと思いながら、民家の角を曲がったとき、見知らぬ男にぶつかった。
「おっと、すみません。ちょっと見学していたもので」
「……見学?」
「アッカ村が開拓をはじめているという話を小耳に挟みましてね。孤児を集めているという話も聞いたので、興味があって見学に。ああ、銀色の髪に紫の瞳――、もちろん、あなたのことも」
フェルトが警戒して、ピリッとした空気が流れた。
落ち着いた優しげな風貌、ゆるくウェーブのかかった水色の髪を、うしろで縛っている。丸めがね。服装は平民の服だが、所作がきれいだ。
なんとなく、心当たりがあるなと俺は思った。こんなところまで見学に来るやつで、見知らぬやつだというのに、村人も大して警戒している雰囲気がない。誰かの知り合いなのだろう。
おそらく、ベラとオリバーの――。
「こっちに移転でもするのか?」
「ッ……ご察しが早いようで。そのつもりはありませんでしたが……どうにも不思議なことがたくさん起きているようですので確認に」
「まあ、減るものではないし、いくらでもどうぞ。ただ、ベラもオリバーも今は出かけてていないんだ」
おそらく、この人物が、貴族の元教師だっていう『ハク先生』だろう、と思った。
俺はフェルトに「大丈夫だ」と目線で示すと、リンと一緒に少しだけ離れてもらった。なんとなく……この男をフェルトに近づかせたくないのは、俺のほうだった。
しかし、このタイミングでこの村の見学に来るだなんて、その背景を勘ぐってしまう。
「私のことはなんて聞いてますか?」
「先生としか」
「どういう印象ですか?」
「怖い人。あんまり関わりたくない」
にこにこと人畜無害そうな笑顔を浮かべていたハク先生だったが、俺の言葉を聞いて、きょとんとした顔になった。
「……怖い、ですか? 優しそうとか、弱そうとか……そういうことはよく言われるのですが。それはまたどうして?」
「理想のために、人を駒のように考えることのできる人間は、面倒だから」
何度も思ったことだ。
ベラとオリバーの考え方はおかしい。この時代にあっていないし、元孤児の持てる視点ではない。
たまたま俺が関わったやつらが変な可能性もあるけど、その孤児院出身のやつらはみんな職につき孤児院に還元する……と、オリバーが言っていたのを聞いたことを思い出す。別にオリバーとベラだけではなく、おそらくその孤児院出身のやつらの視点は、ほぼ全員おかしいんだろう、という推論に行きついていた。
孤児院というのだから、元はみんな〝孤児〟なのだ。
孤児っていうことは、子どもだ。子どもがそんな視点を持つことができるようになるのは、教育が施されているからだ。
おかしな視点を持ったやつの教育が、オリバーにもベラにも染みついている。
――別に悪いことではない。
それに、オリバーとベラを見てればわかる。別に悪いことを教えられているわけではない。人格はいたって真っ当なのだ。ただ、『ハク先生』とやらには、関わりたくないと思っていただけで。
「………………ふふ……ふッあははは!」
「ほら、もうその笑い方が面倒だ。なんかすんなら勝手にやれ。俺を表には出すな」
この男はおそらく、まだ三十代後半だろう。そんなに年を取っていないことを考えると、一体どれくらいの孤児を育てたのかはわからない。最初から上手くいったわけでもないだろうし、孤児院出身のやつらがどれくらいこいつに教育されているのかも、わからない。
ただ、そういうやつが教育を施した駒を国中にばらまき、なにを待っているのかということだけは……明らかだ。
タイミングを待っているんだ。
――――『革命』の。
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