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シャルアちゃんマジ天使

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「かみさま、今日も1日元気に過ごせました。ありがとうございました」

 俺の像の目の前で膝を付き、両手を組んで拙い滑舌で言う感謝の言葉に胸を押さえる。先日3歳になったばかりの可愛い幼女、シャルア・リステちゃんである。
 フワフワの赤毛にくりくりの大きな青い瞳。まだ発達しきっていないぷにぷにの腕と脚。可愛いの権化である。

「天使か」
「隣に本物の天使がいるのにそれを言いますか」
「お前は天使は天使でも堕天使だろうが」

 天界にてその様子を眺め、可愛さに悶絶するのが今の俺の日課だ。神手不足のために神の勧誘を受け、すっかり神様になった俺の唯一の楽しみである。
 隣にいるのは天使の翼を持ち、頭に輪っかを浮かべているThe Angel天使の容貌の男の娘だ。俺の部下なのだが、サボり魔でドSな性格であり手を焼いている。こいつは天使ではなく堕天使である。その輪っかをトンカチで粉々にしてココアに混ぜて飲んでやろうか。
 俺が配属されたのは辺境の地にある村で、村人はわずか15人、うち12人は老人で過疎化が進んでいる。村で唯一の若い夫婦は熱心な信者で、毎日のように俺が奉られている村唯一の教会に足を運んでいる。その夫婦に子供が生まれ、両親の影響により子供も熱心な信者となった。その子供こそがシャルアちゃんである。

「可愛い……そういやぁ最近、食中毒が流行ってるらしいな」
「まぁ夏ですしね。貴方様の仰る冷蔵庫とやらがないこの世界では、魔法の使えない者は冷やすことができません故」
「めっちゃ苦しいらしいじゃん、俺神様だからよくわかんないけど」
「症状としては、嘔吐、下痢、発熱に蕁麻疹などが挙げられます」
「そんな苦しい思いをシャルアちゃんにさせるわけにはいかないな!」
「はぁ!?アンタまた加護を追加する気ですか!?馬鹿か!?」
「誰が馬鹿だ堕天使!」
「誰が堕天使ですか邪神!」

 ムカついたので神の鞭で縛り上げる。ぐぎぎーとうめき声が聞こえるが気にしない。
 ちょいちょい、と指を振って『毒無効』の加護を与える。これで毒の概念を持つものをすべて無効にした。食中毒はおろか魔物の毒も効くことはないし、菌も毒とみなされるので病気になることもない。ついでにありとあらゆる病気にならない加護もつけておこう。

「わぁ!身体がポカポカする!」

 そう言ってシャルアちゃんが笑った。

「んぎゃわいぃいいいいいいい!!」
「ロリコン……」
「消されたいのか」
「すみませんでした」




           *





「ふんふーんふんふーん♪」

 両親と手をつなぎ、笑顔で鼻歌を歌いながら歩くシャルアちゃん。天使である。

「んんッ……!!」
「ロリコン……」
「消されたいのか」
「すみませんでした」

 頭を下げる堕天使を無視して、視線をシャルアちゃんに戻す。今日は月に一度の買い出しの日で、リステ一家は近くの大きな宿場町に来ている。生憎天気は曇りだが、シャルアちゃんの笑顔でプラマイゼロどころかプラスに100ポイントだ。シャルアちゃんの笑顔はプライスレス。
 たくさん加護をあげているとはいえ、道中森の中を行くからには魔物に遭遇しないか心配であったが、杞憂だったようだ。加護をつけるには対象者が教会にいないといけないので、また次に教会に来たときに『魔物避け』の加護をあげることにする。スライムはおろか魔王でさえも近づけさせはしない。神にとっては魔王など虫ケラも同然だ。

「あ!勇者様だ!」
「あら本当、勇者様御一行だわ」
「運がいいなシャルア、握手でもしてもらうか?」
「うん!」

 シャルアちゃんが指を指した方向には、売店でポーションを買い足している勇者パーティーがいた。確かに実力者ではあるようだが、まだまだ魔王には届かないだろう。それもそうだ、旅の途中であるのだから。 
 魔王に干渉することはパワーバランス的に無理なので、勇者には是非とも頑張ってシャルアちゃんの安全を守っていただきたい。

「勇者様!こんにちは!」

 シャルアちゃんはてこてこと勇者の元へ行き、右手を上げて元気よく言った。可愛い、天使か。否、天使だ。

「こんにちは!元気だね」
「うん!シャルアかみさまに守ってもらってるから元気だもん!」

 勇者青年は膝をついて、シャルアちゃんと目線を同じにしている。よかろう、合格だ。

「神様?」
「うん、かみさま!かみさまのおかげでシャルア怪我してもすぐ治るし、風邪もひかないんだよ!」
「へぇー、凄いのね!」

 魔女も参加した。中々の別嬪である。だがシャルアちゃんには敵わない。
 
「きゃあああああああああ!!」

 突然。
 女性の悲鳴が響いた。原因は腐敗臭のする狼の魔物。魔物は女性の腕を切りつけて、地面を血でコーティングした。
 咄嗟に勇者が剣を抜き、他の面々も武器を構える。魔女は詠唱の準備に入った。勇者はリステ一家を後ろに庇い、方向転換して向かってくる魔物に剣先を向ける。

「大丈夫だ、俺達が絶対に守る!」
「どうか動かないで、私達を信じて!」

 正しい判断だ。ここでパニックになって逃げ惑われれば、守るものも守れなくなる。
 だがな勇者達よ、お前たちの出番はない。なぜならシャルアちゃんがいる。

「むぅ……せっかく勇者様とお話ししてたのに!邪魔しないで!!」

 ぶしゃあ、と。

「…………え?」
 
 勇者は目を丸くしている。無理もない、突然魔物が穴という穴から血を噴き出させ、死んだのだから。ドサリドサリと倒れていく魔物は、5体目にして全滅した。
 唖然としている勇者パーティー、そして両親をよそに、シャルアちゃんは切りつけられた女性に駆け寄る。

「大丈夫?お姉さん!」
「え、えぇ……」
「今シャルアが治してあげるね!ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでけ!」

 シャルアちゃんの手から緑色の光が溢れ、収まった頃には傷が跡形もなく消えていた。白衣は着ていないが天使であることに変わりはない。

「な……あ……?あれは、何……魔法、じゃない……?」

 混乱している魔女。両親も唖然としている。唯一機能している勇者が、シャルアちゃんに駆け寄った。

「あの魔物は、君が……?」
「ふぇ?……わかんない」
「お姉さんの傷を治したのは?」
「かみさまがくれたの!怪我しちゃった小鳥さんをね、シャルア助けたかったの。だからかみさまにお願いしたら、身体がポカポカして、怪我を治せるようになったの!」
「“かみさま”……って?」
「かみさまはかみさまだよ?」

 勇者が頭を抱えた。そして俺も頭を抱えている。

「加護をあげすぎたか……?」
「今更気づいたんです?というか、今までどれくらいの加護を与えたんですか?」
「えーっと、『毒無効毒が効かない加護』に『病耐性病気にならない加護』。それから『敵排除敵を排除する加護』に『完全回復傷を治す加護』だろ。あー、確か『雨よけ雨に打たれない加護』なんかもつけたか。あとは『完全防御攻撃を受けない加護』とか、そんでもって」
「加護つけすぎだろアンタ!人間やめちゃうでしょう!」
「確かに!こいつはまずい、なんとかしないと!」

 このあとしばらく、不自然でない形で加護を取り払う作業に追われた。
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