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難題
しおりを挟む「へえ、ここに住んでるんだ…」
綾香は部屋の中をキョロキョロ見渡しながら
亮輔に言った。
「うん。退院してからずっとね。」
亮輔は再整形手術後、多村の別宅である、このマンションで生活していた。
多村自身は本宅で生活しているので、めったに来ることはなかった。
「で、今日はどうしたの?
よく、ここに来る許しが出たね。」
亮輔は慣れた手つきでコーヒーを入れ、綾香に差し出しながら言った。
「パパに用事頼まれてね、それを取りに来たのよ。
でも、あれだね
亮ちゃん、ホント女の子になっちゃったね。
顔も益々私とそっくりだし‥」
「… 外見もそうだけど、今となっては男のときに何考えてたとか、全然思い出せないんだよ。」
亮輔は少し寂しそうな表情を浮かべ、コーヒーを一口飲んだ。
「それとさあ、亮ちゃんに言わなきゃいけないことがあって。
私、 来月パパと結婚することになったの…」
そう言った綾香の表情があまりにも暗かったので、亮輔は不思議に感じた。
「どうしたんだよ? いつするかは別として、前から決まってたことだろ?」
「あのさあ… 私…やっぱり、パパと結婚するのイヤなの…」
「えっ!?」
「だから逃げちゃおうっと思って…」
「お、おい… 逃げるって、私を見てみなよ!
性転換までさせられて、こんなヒドい目に遭わされたんだ。
綾香だってそうだったろ!? 次は絶対に殺されちゃうぞ!」
「それでも… やっぱりパパと一生すごすことなんて、とてもじゃないけど耐えられないわ…」
「で、どうするつもりなんだ?」
「ホントは亮ちゃんと一緒に遠いところに逃げたかったんだけど… 今となってはそれもムリだろうし。」
綾香は亮輔の胸や顔に視線をやりながら寂しそうに言った。
「確かに… 昔の私なら綾香と一緒に逃げたかもしれない。
でも、今はもうそんな勇気は全くないわ。」
亮輔の偽らざる気持ちだった。
男としての証を心身共に失ってしまった今、ただ、臆病で従順な女の部分だけが残っている。
「亮ちゃん、一緒に来てくれなんて言わないわ。私が逃げるのを手伝ってほしいの…」
綾香の決意は相当固そうだった。
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