ニューハーフ極道ZERO

フロイライン

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代理戦争編

慣性

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多喜は多村に銃口を向け、多村の側のボディーガードも銃を出したが、もう一人のボディーガードが多喜の前に立たされており、それが障害物となって多喜を確実に捉えられない状況にあった。


だが、多村は、自分に銃口が向けられているのに悠然としており、ソファーにどっかと深く腰掛けたままだった。


「多喜、千載一遇のチャンスとはこの事だぜ。

今、俺を撃ち殺せば、全ての問題が解決する。
さあ、撃ちな。」


「…」


多喜は撃つことが出来なかった…


「多喜、テメェはそういう人間だよ。
一人の人間としては素晴らしいが、ヤクザとしては致命的といえるくらい甘すぎる。
いや、弱すぎる。

お前の負けだ。」


多村は多喜の前に立つボディーガードに目配せし、多喜の銃を奪い取らせた。
そして、もう一人のボディーガードが近づいていき、多喜の右腕を押さえつけて、その自由を奪った。


「残念だったな。

だが、お前のそういう部分はキライじゃねえぜ。

とりあえず、この抗争が終了するまでは、監禁させてもらうぜ。」


多村はボディーガード二人に命じ、多喜を拘束させた。


「お前ら、コイツを例の場所にぶち込んどけ。」

多喜は二人に両脇から抱えられて外に連れて行かれた。

部屋を出る際、多村は

「しばらくの間、大西と仲良くしとけや」

と、言ってニヤリと笑った。


多喜が監禁部屋に連れて行かれた後、多村は満足げにタバコに火をつけた。

だが、ライターをテーブルに置くことが出来ず、そのまま体が固まった。


「やっぱり監禁部屋は近くに存在してたんですね。
あんまり遠いと、側近が長時間離れちまって、あなたの身が危険になりますからね。」


「りよ、亮輔!

テメェ…」

多喜と入れ替わるように室内に侵入してきたのは、亮輔だった。

「おかげさまで、男に戻れました。
顔はまだ綾香仕様のままですが」

亮輔は先ほどの多喜と同じように多村に銃口を向けて立っていた。


「お前らグルだったのか…

多喜がわざと捕まり、外に連れて行ってる隙に入れ替わりでお前がここに来るっていう…」

「正解です。

直前まではこうなる予定じゃなかったんですが、さっき偶然に多喜と会いましてね。
聞くと、単独であなたの元へ行くって言うんで、少しばかり打ち合わせをさせてもらって、この作戦を取らせてもらいました。」


「…」


多村はさっきの多喜とのやり取りとは打って変わって、額から汗を流して固まってしまった。

何故なら、亮輔は多喜と違い、自分を殺すのに躊躇しない人間だとわかっていたからだ。


ボディーガードの二人が多喜を監禁して戻ってくるまで約30分

独力でこの状況を切り抜けなければならない。

多村はここに来て、初めて窮地に陥った。
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