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今生の別

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喪服姿の敦と智、高校の制服を着た莉愛が参列者達に頭を下げ、謝意を示した。

ごく小さな規模で始まった通夜は、滞りなく進行した。
奥の和室では、吉川や三嶋など、故人が生前に親しくしていた人達に、食事と酒が振る舞われた。 


「それにしてもなあ、敦

お前の親父とお袋さんは本当に偉かったぞ。
ワシ等全員が止めた有機農業に挑戦してなあ、結局志半ばで親父さんは死んじまったが、ちゃんと道筋付けるところまで持ってたんだからな」


吉川が言うと、隣にいた蒲田が

「あれは光江さんの功績だよ

文句一つ言わずに旦那を支え続けてよぉ、挙げ句の果てに借金も何もかも苦労を自分が背負って畑を守り通した…

ワシは頭が上がらんよ」

と、故人の労を讃えた。


「いやいや、敦
お前も大したもんだ。
借金だらけの畑を引き継いで、ここまど持ち直してきたんだから。
有機農業に見切りをつけるのも勇気がいったと思うぞ。
ただ、智さんというよく出来た奥さんの頑張りがあってこそっていうのを忘れちゃいかんぞ。
一生大事にしろよ」

三嶋は奥で料理や皿を運び、忙しく動き回る智を見ながら言った。

「…」

敦は何も言葉を発せず、ただ、少しだけ頭を下げ、三嶋の空いたグラスにビールを注いだ。



「ところで、敦

お前んとこに働きに来てる親子だけどよ

あの母親の方はどえらい美人で、農作業にも慣れとるんだろ?
ええ人に来てもろたのう。」


「ええ、まあ

本当に助かっています。」

敦はまた、三島の言葉に、元気なく反応した。





莉愛は制服姿で、誰も居なくなった通夜の会場で一人、椅子に座り元気なく光江の遺影を見つめていた。

皆に慰められても、生きているうちに会えなかった責任を感じ、悲しみと悔しさの入り混じった涙を流しては、ハンカチで目頭を押さえていた。


そのとき、入り口のドアが開き、人が入ってくる気配があった。

もう終わったのに…と、思いながら振り返ると、中に入ってきたのは由香里と恵太だった。


由香里も恵太も喪服を持ってきておらず、また、光江とは面識もなかった事から、通夜には出ず、家で留守を守っていた。


「莉愛ちゃん

お弁当作ってきたから食べて」


「由香里さん…

あの、大丈夫ですので」


「ダメよ、食べないと
今日何も食べてないんでしょ?

莉愛ちゃんが元気ないと、お婆様も悲しまれるわよ。」


それを聞くと、莉愛はまた涙が止まらなくなり、声を出して泣き出した。


「莉愛ちゃん…」

恵太は莉愛の背中を摩りながら、心配そうにその姿を見つめた。

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