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フロイライン

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幸福論

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「遥が幸せに暮らせるんだったら私は何も言うことはないけどねえ。」


奈津子は、遥の結婚話を聞いて心配そうに言った。


「ワタシ、勝手に自分を抑えるっていうか諦めてきたのよ、人生そのものに。

女じゃないこともそうだけど、引け目を感じて…
でも、大学の時に女になるって決めて、周りの人の優しさもあって女性として就職も出来た。

だから、自分の信じる道を進みたいって、今はそう思ってる。」


「そうなのかい。
だったらええんじゃけどね」


「うん。
ありがとうお母さん。」


「今日は、遥と二人で乾杯しようと思って、料理も頑張って作ったのよ。」


「えっ、嬉しい」


「でも、乾杯しようって言ってんのに、お酒買うの忘れてた」


「えーっ、大丈夫?
お母さん」

遥が笑って言うと、奈津子は立ち上がり


「ちょっと、ゆめに行って買うてくるけぇ、遥はゆっくりしとって。」


と、言った。


「ワタシも行く。

駅の方を見たいし」


「なんも変わってないよ。アンタがいたときから。」


「いいの。
地元を離れてると、そういうところも懐かしく思うのよ。」


遥も立ち上がりながら言った。



二人は車で、駅の裏側にある量販店に向かい、屋外駐車場に車を停めた。


「ああ、懐かしいわ。

東京にはゆめ無いんだもん。」


「そうじゃね。
広島発祥やもんね」


奈津子は車の施錠をし、マイバックを手に提げながら言った。


ここは地元で一番大きなスーパーで、東京の中心部ではお目にかかれない大規模店舗だ。


「ワタシがいつも行くのは食品専門のスーパーで、コンビニに毛の生えたような大きさなのよ。」


「そりゃあっちは土地が高いから、駐車場の確保なんて出来ないからしょうがないわよ。

そもそも車で行く必要もないか」


奈津子はカートにカゴをセットして押しながら言った。


「あ、お母さん、ワタシが押すわ。」


そのときである。


「石川さん」

と、自分たちの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

遥が慌てて顔を向けると、そこには近所に住んでいる樋口という奈津子と同年代の女性が立っていた。


「あら、樋口さん
こんにちは」


「こんにちは」


挨拶を交わした二人だったが、すぐに遥の存在に気づいた樋口は、遥に視線を向けてきた。

遥は慌てて頭を下げた。


「えっ、石川さん

ひょっとして遥君のお嫁さん?」

樋口は、遥本人とは全く気づかず、的外れな事を言った。

奈津子は遥を見て、少し困った顔をしたが、すぐに

「違うわよ、樋口さん

この子は遥」

と、笑いながら答えたのだった。
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