ハカイジ

方向舵

半年前


地下勤務を選択したレンは、面接終了後、部屋に案内され、翌日までここに居ていいと指示を受けた。


ビジネスホテルの一室のように、ベッドやテレビ、冷蔵庫が部屋に完備され、ユニットバス、トイレもあった。

外から施錠はされていたが、この空間で自由に過ごす事を許され、夜には食事も運ばれてきた。

刑務所のような劣悪な環境に置かれると思っていたレンだったが、些か拍子抜けしてしまった。


しかし、後に知ったことだが、地上階での工場勤務を選択した場合は、まさに刑務所、いや、それ以上の環境下に身を置かねばならず、地下階を選択した事はラッキー以外の何物でもなかった。


翌朝を迎えるまでは。


朝食が運ばれてきて、それを食べ終わると、すぐに係官に呼び出され、医務室に連れて行かれた。


「おはようございます。」


中には、白衣を着た眼鏡の男性が居り、レンは慌てて頭を下げた。


「平野蓮さんですね。」


「はい、そうです」


「私は、この施設の産業医をしております、坂本と申します。
それでは、早速ですが、ここに寝て下さい。」

坂本は後ろの診察台を指差した。


「あの、何を…」


「簡単な検診です。」

坂本はパソコンを打ちながら淡々と答えた。


レンは言葉に従い、診察台に仰向けに寝た。


そして…


そこからの記憶はない。