新 或る実験の記録

始まりのとき

国が衰退する一番の原因は、経済不況、大きな災害、戦争など色々あると思うけど、最も深刻なのは、人口の減少だそうだ。
だから少子化対策など、国は躍起になっているが、どれも上手くいってない。
自力でどうにもならない場合、外国からの移民に頼るっていう方法もあるけど、治安の乱れなどの理由から積極的になれないという。

そんな中、何年か前に或る製薬会社が性転換薬を開発した。
その薬は男を女に染色体から完璧に性転換させてしまうもので、生理もあれば妊娠も出来る。

起死回生の薬だったが、実用化を急ぐあまり、組織ぐるみで違法な事を繰り返し、さらに、人口減少計画を進めていた事が併せて発覚したために、時の総理をはじめとする多くの政治家や各界のトップなどが逮捕されてしまった。


散々叩かれ、政党二つが潰れるくらいの騒ぎになった事件だったが、性転換薬に関しては研究が続けられ、先日、正式にその使用が認可された。

その知らせに性同一性障害の人やニューハーフ達は歓喜し、女性への性転換を申請した。

しかし、ここで大きな問題が発覚する。

それらの人達は完全に性転換する事が出来ず、妊孕性が無いことが判明した。

人口問題の切り札と考えていた国は衝撃を受け、さらなる研究を続けたが、結論として、性自認が男性という、いわゆる普通の男性だけが完全な性転換が可能だということがわかったのだ。

それらの人は当然自らの意思で性転換などするわけがなく、また計画に支障が生じたのだ。

事態を憂慮した国は、批判を浴びながらも、性転換に応じ、さらに子供を産んだ者に多額の支援金を渡す事を決定。

先月、第一回目の募集が行われた。

18歳から30歳までの健康な男性が対象で、面接および幾つもの検査を経て対象者が選ばれる事になっている。


俺の名前は菅原乃亜…

どこにでもいるようなごく普通の男子高校生だ。
大学受験を目前に控えていたんだけど、ある事情があって今回の募集に手を挙げた。

適性検査は全て合格。

あとは最終面接を受けるだけだ。