15 / 22
ふたりきりだね
01
しおりを挟むぎゅっと目を閉じる。
頬にふれる雪哉の手がそっと動いて、梓の唇の輪郭をなぞった。ぴくりと身体が反応してしまう。唇に息がかかる。
鼓動は最高潮に高鳴ってうるさいくらいだ。
「――っ!」
けたたましい音が聞こえてきて、梓はパチリと目を開く。するとすぐ近くで梓を見つめる雪哉の顔があった。梓は身体を固くしながら、ゆっくり彼から離れていく。
「……あ、で、電話!」
鳴っているのは音楽から察するに梓のスマートフォンだ。梓は立ち上がり、リビングへと戻った。まだ胸がどきどきと騒がしい。
スマートフォンを手にとると、母親からの電話だった。すぐに通話ボタンを押す。
「も、もしもし? お母さんどうしたの?」
『梓? あのね今日は夜中に帰る予定だったんだけど、急患が入っちゃったから明日の昼になりそうなの。それだけ。雪哉くんにもよろしくね』
「う、うんわかった」
用件のみですぐに切れる電話。
母は明日の昼まで家に帰らないらしい。
なんていうタイミングで鳴るのだと残念なような、ほっとしたような複雑な気持ちでため息を吐く。
「どうしたの?」
雪哉は立ち上がることができたらしい。リビングにまで梓の様子を見に来た。緊張している梓は振り返らずに答える。
「お母さんが仕事で明日のお昼まで帰らないんだって」
「そう」
梓は雪哉に背を向けたまま動くことができない。
「俺……ちょっと酔い冷ましてくる」
背後で雪哉の声がした。
「う、うん」
そのままリビングのドアが開く音がした。梓がようやく振り返った時雪哉がリビングを出て行く背中が見えた。
ドアが閉まると同時に、梓は床に座り込む。緊張の糸が解けた。
自分の顔を両手で覆い、呼吸を整える。
きっと電話がなければキスをしていた。
そうしたらどうなっていただろう。
考えるだけでも胸が苦しい。
「……そうだ、お風呂入ろ……」
梓は思い出したようにつぶやいた。
明日は土曜日で学校も予定もないけれど、お風呂には入らないと気持ち悪い。雪哉は部屋で休んでいるだろうし、今のうちだ。梓がお風呂に入っている間に眠ってくれたら都合が良い。今日は顔を合わせる余裕がない。
キスしていいのに、と思っていたのに、いざされそうになると心臓が破裂しそうになるほど緊張する。元カレの優人ともキスはしたことあったけれど、こんな気持ちになった覚えはない。緊張したしドキドキもしたけれど、それだけだった。
こんなに、胸が張り裂けそうになるなんて。
1
あなたにおすすめの小説
暁はコーヒーの香り
氷室龍
恋愛
一之瀬明日香 28歳 営業二課主任
大口契約が決まり、打ち上げと称して皆で美味しくお酒を飲んでいたのだが…。
色々ハイスペックなのを隠してるOLとそんな彼女をどうにかしてモノにしたくてたまらなかったおっさん上司の体の関係から始まるお話
『眼鏡の日』『ネクタイの日』『コーヒーの日』ってワードから思い付きで書きました。
トキメキは突然に
氷室龍
恋愛
一之瀬佳織、42歳独身。
営業三課の課長として邁進する日々。
そんな彼女には唯一の悩みがあった。
それは元上司である常務の梶原雅之の存在。
アラフォー管理職女子とバツイチおっさん常務のじれったい恋愛模様
永久就職しませんか?
氷室龍
恋愛
出会いは五年前。
オープンキャンパスに参加していた女子高生に心奪われた伊達輝臣。
二度と会う事はないだろうと思っていたその少女と半年後に偶然の再会を果たす。
更に二か月後、三度目の再会を果たし、その少女に運命を感じてしまった。
伊達は身近な存在となったその少女・結城薫に手を出すこともできず、悶々とする日々を過ごす。
月日は流れ、四年生となった彼女は就職が決まらず焦っていた。
伊達はその焦りに漬け込み提案した。
「俺のところに永久就職しないか?」
伊達のその言葉に薫の心は揺れ動く。
何故なら、薫も初めて会った時から伊達に好意を寄せていたから…。
二人の思い辿り着く先にあるのは永遠の楽園か?
それとも煉獄の炎か?
一回りも年下の教え子に心奪われた准教授とその彼に心も体も奪われ快楽を植え付けられていく女子大生のお話
毎週金曜日、午後9時にホテルで
狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。
同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…?
不定期更新です。
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる