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第1章 ギルド入会
第四十話
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昼食をご馳走になった。
NPCとはいえ家族以外の人と食べたのは何年ぶりだろう?
全然記憶にない…。
マリアさんと寡黙な初老の神父さん、十数人はいる子供達と一緒に食べた僕は悪いけどなにを食べたかすら全く覚えていない…(笑)
子供達になにか聞かれた気もするけどなにを言ったかすらも覚えていないという体たらくだ。
昼食を終えマリアさんとともに孤児院を出るとき、僕は緊張が解けてほっとする気持ちと自分の不甲斐なさに情けない気持ちが入り混じって軽く死にたくなった(自嘲)
「おねえちゃん、いってらっしゃい」
「はい、行ってまいります。夕方には戻りますからいい子にしているんですよ?」
「はーい」
子供達が口々に元気のいい返事をしている。
手を振る子供達にマリアさんは普通に手を大きく振り返し、僕は小さく手をあげて振り返した。
「あっ!」
街の西門まできたとき、ちーずプリンさんと出会った。
僕と目が合うと険しい顔でこちらへ向かってきた。
ていうかなんか怒ってる?そもそもなんで門に来ると知り合いに出会うのだろう…?
立ち止まってしまった僕はそんなことを考えているとちーずプリンさんが僕の前まで来ていた。
トンガリ帽子にローブ姿の典型的な魔法使いの格好。
加えて美少女の姿をしているけど中身は男子のPC。
年齢は聞いていないけど多分僕と同年代っぽい気がする。
また絡まれそうな予感を感じる僕。
…無視して逃げればよかったかな?と思うが後の祭り。
マリアさんをちらりと見たちーずプリンさんは険しい顔のまま僕を睨みつけるように見つめてきた。
「おやおや~、NPC引き連れてどちらへ?」
「いや、ちょっと狩りに…」
ちーずプリンさんは何故か僕を軽蔑するかのような冷たい目をした。
その目を見た瞬間ああ…やっぱりこの人も僕になにかイチャモンつける気だと確信した。
ちーずプリンさんはどちらかというとアーノルドさん寄りのいい人だと思ったんだけどな…。
「ファントムさんもNPCを奴隷にするとは思いませんでしたよ」
「はあ!?」
いきなりなに言い出してるのこの人!?
「いくらホスト派のガチ勢や他のギルドのプレイヤーもやってるからってそれはないっすよ。ぶっちゃけ俺はそういうやり方はキライだな」
ちーずプリンが何故かキレていらっしゃる!?
ガチで怒っているのだろう。口調が男に戻ってる。
「あ、あの…なにを言っているのかよくわからないんですけど…」
「はっ!なにしらばっくれてんの?NPCを囮の捨て駒にしてモンスターを狩るんでしょ!あーあ…ファントムさんはそういうのやらないって思ってたのに…」
「いやいや…」
「ファントムさんはそんなことをしません!」
否定しようと僕のセリフを遮るようにマリアさんが怒鳴った!
ちーずプリンさんを睨みつけるマリアさん。
その剣幕に身を引き後ずさるちーずプリンさん。
「私が自分の意思でファントムさんのお手伝いをしたくて一緒にパーティーを組んでいるのです!ファントムさんを悪く言わないで下さい!」
ふっー!ふっー!鼻息荒くそう言うマリアさん。
今日は僕のために怒ってばかりな気がする。僕はなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
「そ、そうなの?」
「ええまあ…」
「そうです!」
「そっか…」
僕らが頷くのを見て、ちーずプリンさんは安心したかのように微笑んだ。
ちーずプリンさん曰く、最近PC間でNPCを雇って使い潰すやり方が流行ってきているらしい。
クエストで一時PTに入ったNPCや金で雇ったNPCなどをモンスターを引き寄せたり引きつけたりする囮にしたり、NPCを特攻させて自分より高レベルのモンスターを弱らせてから最後にPCがトドメを刺しに来るやり方が徐々にだが横行しているみたいだ。
「プレイヤー達は安全なとこにいて危ないことは全部NPCにやらせてるの。NPCは使い勝手のいい奴隷だって公言するバカもいるんだよ!そんなのひどくない?っていうかそんなプレイして楽しいわけ?そんなのあたしの美学が許さない…!」
怒り心頭の表情でちーずプリンは言った。
「うちらのギルドもさ、ホスト崩れのガチ勢がそのやり方し始めてさ、内心ムカついてたんだよねー。だからファントムがその娘連れて狩りに行くって聞いたとき、てっきり同じだと思ってついキレちゃった。ごめんね♪」
最後に頭こつん、てへぺろ♪みたいな感じで謝ったちーずプリンさんを見て僕は少し殺意が湧いてしまった…(苦笑)
ていうかドンペリキングさん……。そんなことしてたのか。初めて知ったよ僕。
「あの…ドンペリキングさん達にも言ったんですか?」
「うううん。言ってないよ」
「何故僕には言ったんですか?」
「え~っと、ファントムさんって見た目イケメンだけど、言いやすいっていうか、いつも挙動不審で気弱なそうないじめられっ子オーラが出てるからつい…言ってみたったw」
ちーずプリンさんは申し訳なさそうに笑ってそう言った…。
…そうなんだ。僕、そんなオーラ出てたんだ。
それを聞いて心の中で激しく落ち込む僕。
「ファ、ファントムさんは優しくていい人ですよ?」
マリアさんが取ってつけたようなフォローを入れてくれたのが悲しい……:-(
「でもまあ誤解が解けてなによりだようん!」
「…それをアナタが言いますか」
「うっ…!あっ、それよりさ、あたしもパーティーに入れて下さい♪」
「ええっ!?」
「えっ?なに?ダメ…?」
ショックを受けて上目遣いで涙ぐむちーずプリンさんを見て僕は慌ててかぶりを振った。
中身は男なのになんだこのトキメキは…!
「いやいや!駄目じゃないですけど…」
「じゃあオッケー?」
「………はい」
なんか強引にちーずプリンさんが僕のパーティーに入ってきた。
まあタンクの僕。アタッカーのマリアさんの前衛二人に攻撃回復付与と多彩?な後衛職のちーずプリンさんが入ってくれるのは頼もしい……かな?
誤解は解けたけどまだ少し疑ってる気がする。だからついてこようとしているのかもしれない。
だったら一緒に来てもらって本人に直接確認してもらえばいい。
そう思った僕は同行を許したのだ。決して後付けでもちーずプリンさんの可愛さに萌えたわけではない!(ここ強調!)
◇
草原にいるスライムからドロップする【魔核(極小)】はドロップ率10%くらいだと思う。
あくまで僕の体感だから参考にしないほうがいいかもしれないけど、あまりドロップ率はよくないと思った。
それを朝から順番待ちしながら狩り続けて20個ゲットした僕の忍耐力はなかなかの物だと自負している。
添え置き機を接続したテレビ画面やパソコンの前に座ったり寝っ転がってピコピコと狩りつつ他のゲームをしたり本を読んだりする、ながらプレイなら余裕でできる人もいると思うけど、実際に立って並んで順番がきたら現れたモンスターと仮想体とはいえ実際に自分の身体を動かして武器を持って戦うあの緊張感。
この繰り返しを延々とやるのはかなりストレスがかかった。
待ってる間はメニュー開いてスマホに繋いでソシャゲもできたから待ってる時間はそれほど苦ではなかった。
でも気持ちをすぐに切り替えて戦闘をするのはなかなか難しかった。
オンオフの切り替えができないまま戦うとけっこうスライムといえども手痛いしっぺ返しを喰らってしまう。
ただでさえ逃げやすいモンスだから、気を抜いたままで戦ってると逃げられることが少なからずあった。
まあ今回は三人もいるから集中できてなくても逃すことはないだろう。
問題は………
僕は横目で並んで歩いている二人の美少女(若干一名中身は男子)を見て思案していた。
さすがに順番待ちの並んでいる間、二人の前でソシャゲをやるのはちょっと……。
他人の視線を気にして当たり障りのないRPG系のソシャゲをやることはできる。
ちなみにどうでもいいことだけど僕が本当にいま一番やりたいソシャゲはアイドル育成型の音ゲーだ。
好きなタイプのアイドルを自分好みの衣装を着せてシャンシャンするのが大好きだ。
愛してると言っても過言ではない。
でもしかし、人前でプレイする勇気は僕にはなく、あっても周りの目を気にしすぎてリズムが狂いノートが外れてしまう…。
だから僕はいつも自宅の自分の部屋でシャンシャンすることしかできなかった。
理由は簡単。
何故かあの系統のゲームを人前でプレイしているとリア充の女子から白い目で見られるからだ…。
中にはそういうゲームが好きな人もいるだろう。
でも僕の周りにはいなかった。
学校の教室で自分の机でシャンシャンしていたら通りすがりのクラスメイトのギャルに「キモっ…!」と呟かれたり、昔リビングのソファーに寝っ転がってプレイしていたときは妹に「キモい。つうかさ、この子あたしに似てなくない?死ねよキモオタ!」とヤクザキックを顔面に受けた記憶が僕の心に深い傷を負いまだその傷が癒えていない…。
ゲーセンならまだしも、電車やバスの公共の場や学校の教室でシャンシャンをする勇気は今の傷ついた僕にはなかった。
(また無難な名作F○BEシリーズでもやるか?でも知り合いの目の前でゲームしてたら相手に失礼な気がするし…。いや待てよ。もし「なにやってるの?あ!あたしもそれやってる」とか言われたらそのゲームの話になって盛り上がるかも?……いやいやそれじゃあNPCのマリアさんが話についてこれないだろ)
などと僕が必死になって順番待ちの間どうするか悩んでいたら、ちーずプリンさんが僕の方に顔を向けてきた。
「そういえばなに狩りに行くの?」
「魔核目当てでスライムですけど…」
「うへー…。それはめんどいね。狩り場混んでるよ、どこにする?」
周囲を見回すちーずプリンさん。
僕も釣られて周りを見回すと、相変わらず草原にいくつも形成されている狩り場には何人何十人ものPCが行列を組んで並んでいた。
「PC多いですね…」
できるだけ行列が少ない場所がないか目を凝らして周りを見回す僕。
「ぴーしーってなに?」
ちーずプリンさんがそんなことを尋ねてきた。
「え、PCはプレイヤーキャラクターの略ですけど…」
「そうなの?聞いたことないよ。ファントムさんの造語?」
「いや、別に僕の造語じゃありませんけど…」
ストーリー性の強い一人用ゲームならよく『PC』って言うけど、まああまり耳にしないかも?普通にPとかプレイヤーとか呼ぶし。
このアトランティスは主に『プレイヤー』と呼んでる傾向が多いしね。
こういうMMOやMMORPGとかはみんなが使ってる『呼び方』が優先されるから僕のこの呼び方はある意味異端かもしれない。
たけど僕はあえて言い直さない。
「周りと違う言い方で俺カッコイイ的な感じ?」
「ち、違いますよ…!」
本音の一部を言い当てられた僕は慌てて否定した。
ムダに鋭い人だ…。ここは話題を変えたほうがいいと思った僕は彼女(彼)に聞いてみたかったことを尋ねてみることにした。
「あ、あの!ちーずプリンさんってもしかしてあまりゲームとかやらない人ですか?」
「うん。ぶっちゃけあんまやらないです。テレビを見てこのゲームに興味もっちゃって応募したら抽選に当たっちゃったからやってみることにしたんですよ♪」
抽選もそうだけど普通に簡単に買える値段じゃないんだけどな…。
まあそこは突っ込まないほうがいいか。
現実のことを聞くのは基本NG。マナー違反だと思う僕はそんなに仲良くないちーずプリンさんのことをそれ以上聞くのはやめた。
「ところで、ホントにいいんですか?けっこう時間かかりそうですよ?」
「うーん……。別にいいよ♪暇だしね」
「ありがとうございます。それじゃあとりあえずあそこに並びますか?」
「了解でーす!」
「あの…魔核を狙うのでしたら私に心当たりがあります」
手近な狩り場へ向かおうとした時マリアさんがそんなことを口にした。
NPCとはいえ家族以外の人と食べたのは何年ぶりだろう?
全然記憶にない…。
マリアさんと寡黙な初老の神父さん、十数人はいる子供達と一緒に食べた僕は悪いけどなにを食べたかすら全く覚えていない…(笑)
子供達になにか聞かれた気もするけどなにを言ったかすらも覚えていないという体たらくだ。
昼食を終えマリアさんとともに孤児院を出るとき、僕は緊張が解けてほっとする気持ちと自分の不甲斐なさに情けない気持ちが入り混じって軽く死にたくなった(自嘲)
「おねえちゃん、いってらっしゃい」
「はい、行ってまいります。夕方には戻りますからいい子にしているんですよ?」
「はーい」
子供達が口々に元気のいい返事をしている。
手を振る子供達にマリアさんは普通に手を大きく振り返し、僕は小さく手をあげて振り返した。
「あっ!」
街の西門まできたとき、ちーずプリンさんと出会った。
僕と目が合うと険しい顔でこちらへ向かってきた。
ていうかなんか怒ってる?そもそもなんで門に来ると知り合いに出会うのだろう…?
立ち止まってしまった僕はそんなことを考えているとちーずプリンさんが僕の前まで来ていた。
トンガリ帽子にローブ姿の典型的な魔法使いの格好。
加えて美少女の姿をしているけど中身は男子のPC。
年齢は聞いていないけど多分僕と同年代っぽい気がする。
また絡まれそうな予感を感じる僕。
…無視して逃げればよかったかな?と思うが後の祭り。
マリアさんをちらりと見たちーずプリンさんは険しい顔のまま僕を睨みつけるように見つめてきた。
「おやおや~、NPC引き連れてどちらへ?」
「いや、ちょっと狩りに…」
ちーずプリンさんは何故か僕を軽蔑するかのような冷たい目をした。
その目を見た瞬間ああ…やっぱりこの人も僕になにかイチャモンつける気だと確信した。
ちーずプリンさんはどちらかというとアーノルドさん寄りのいい人だと思ったんだけどな…。
「ファントムさんもNPCを奴隷にするとは思いませんでしたよ」
「はあ!?」
いきなりなに言い出してるのこの人!?
「いくらホスト派のガチ勢や他のギルドのプレイヤーもやってるからってそれはないっすよ。ぶっちゃけ俺はそういうやり方はキライだな」
ちーずプリンが何故かキレていらっしゃる!?
ガチで怒っているのだろう。口調が男に戻ってる。
「あ、あの…なにを言っているのかよくわからないんですけど…」
「はっ!なにしらばっくれてんの?NPCを囮の捨て駒にしてモンスターを狩るんでしょ!あーあ…ファントムさんはそういうのやらないって思ってたのに…」
「いやいや…」
「ファントムさんはそんなことをしません!」
否定しようと僕のセリフを遮るようにマリアさんが怒鳴った!
ちーずプリンさんを睨みつけるマリアさん。
その剣幕に身を引き後ずさるちーずプリンさん。
「私が自分の意思でファントムさんのお手伝いをしたくて一緒にパーティーを組んでいるのです!ファントムさんを悪く言わないで下さい!」
ふっー!ふっー!鼻息荒くそう言うマリアさん。
今日は僕のために怒ってばかりな気がする。僕はなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
「そ、そうなの?」
「ええまあ…」
「そうです!」
「そっか…」
僕らが頷くのを見て、ちーずプリンさんは安心したかのように微笑んだ。
ちーずプリンさん曰く、最近PC間でNPCを雇って使い潰すやり方が流行ってきているらしい。
クエストで一時PTに入ったNPCや金で雇ったNPCなどをモンスターを引き寄せたり引きつけたりする囮にしたり、NPCを特攻させて自分より高レベルのモンスターを弱らせてから最後にPCがトドメを刺しに来るやり方が徐々にだが横行しているみたいだ。
「プレイヤー達は安全なとこにいて危ないことは全部NPCにやらせてるの。NPCは使い勝手のいい奴隷だって公言するバカもいるんだよ!そんなのひどくない?っていうかそんなプレイして楽しいわけ?そんなのあたしの美学が許さない…!」
怒り心頭の表情でちーずプリンは言った。
「うちらのギルドもさ、ホスト崩れのガチ勢がそのやり方し始めてさ、内心ムカついてたんだよねー。だからファントムがその娘連れて狩りに行くって聞いたとき、てっきり同じだと思ってついキレちゃった。ごめんね♪」
最後に頭こつん、てへぺろ♪みたいな感じで謝ったちーずプリンさんを見て僕は少し殺意が湧いてしまった…(苦笑)
ていうかドンペリキングさん……。そんなことしてたのか。初めて知ったよ僕。
「あの…ドンペリキングさん達にも言ったんですか?」
「うううん。言ってないよ」
「何故僕には言ったんですか?」
「え~っと、ファントムさんって見た目イケメンだけど、言いやすいっていうか、いつも挙動不審で気弱なそうないじめられっ子オーラが出てるからつい…言ってみたったw」
ちーずプリンさんは申し訳なさそうに笑ってそう言った…。
…そうなんだ。僕、そんなオーラ出てたんだ。
それを聞いて心の中で激しく落ち込む僕。
「ファ、ファントムさんは優しくていい人ですよ?」
マリアさんが取ってつけたようなフォローを入れてくれたのが悲しい……:-(
「でもまあ誤解が解けてなによりだようん!」
「…それをアナタが言いますか」
「うっ…!あっ、それよりさ、あたしもパーティーに入れて下さい♪」
「ええっ!?」
「えっ?なに?ダメ…?」
ショックを受けて上目遣いで涙ぐむちーずプリンさんを見て僕は慌ててかぶりを振った。
中身は男なのになんだこのトキメキは…!
「いやいや!駄目じゃないですけど…」
「じゃあオッケー?」
「………はい」
なんか強引にちーずプリンさんが僕のパーティーに入ってきた。
まあタンクの僕。アタッカーのマリアさんの前衛二人に攻撃回復付与と多彩?な後衛職のちーずプリンさんが入ってくれるのは頼もしい……かな?
誤解は解けたけどまだ少し疑ってる気がする。だからついてこようとしているのかもしれない。
だったら一緒に来てもらって本人に直接確認してもらえばいい。
そう思った僕は同行を許したのだ。決して後付けでもちーずプリンさんの可愛さに萌えたわけではない!(ここ強調!)
◇
草原にいるスライムからドロップする【魔核(極小)】はドロップ率10%くらいだと思う。
あくまで僕の体感だから参考にしないほうがいいかもしれないけど、あまりドロップ率はよくないと思った。
それを朝から順番待ちしながら狩り続けて20個ゲットした僕の忍耐力はなかなかの物だと自負している。
添え置き機を接続したテレビ画面やパソコンの前に座ったり寝っ転がってピコピコと狩りつつ他のゲームをしたり本を読んだりする、ながらプレイなら余裕でできる人もいると思うけど、実際に立って並んで順番がきたら現れたモンスターと仮想体とはいえ実際に自分の身体を動かして武器を持って戦うあの緊張感。
この繰り返しを延々とやるのはかなりストレスがかかった。
待ってる間はメニュー開いてスマホに繋いでソシャゲもできたから待ってる時間はそれほど苦ではなかった。
でも気持ちをすぐに切り替えて戦闘をするのはなかなか難しかった。
オンオフの切り替えができないまま戦うとけっこうスライムといえども手痛いしっぺ返しを喰らってしまう。
ただでさえ逃げやすいモンスだから、気を抜いたままで戦ってると逃げられることが少なからずあった。
まあ今回は三人もいるから集中できてなくても逃すことはないだろう。
問題は………
僕は横目で並んで歩いている二人の美少女(若干一名中身は男子)を見て思案していた。
さすがに順番待ちの並んでいる間、二人の前でソシャゲをやるのはちょっと……。
他人の視線を気にして当たり障りのないRPG系のソシャゲをやることはできる。
ちなみにどうでもいいことだけど僕が本当にいま一番やりたいソシャゲはアイドル育成型の音ゲーだ。
好きなタイプのアイドルを自分好みの衣装を着せてシャンシャンするのが大好きだ。
愛してると言っても過言ではない。
でもしかし、人前でプレイする勇気は僕にはなく、あっても周りの目を気にしすぎてリズムが狂いノートが外れてしまう…。
だから僕はいつも自宅の自分の部屋でシャンシャンすることしかできなかった。
理由は簡単。
何故かあの系統のゲームを人前でプレイしているとリア充の女子から白い目で見られるからだ…。
中にはそういうゲームが好きな人もいるだろう。
でも僕の周りにはいなかった。
学校の教室で自分の机でシャンシャンしていたら通りすがりのクラスメイトのギャルに「キモっ…!」と呟かれたり、昔リビングのソファーに寝っ転がってプレイしていたときは妹に「キモい。つうかさ、この子あたしに似てなくない?死ねよキモオタ!」とヤクザキックを顔面に受けた記憶が僕の心に深い傷を負いまだその傷が癒えていない…。
ゲーセンならまだしも、電車やバスの公共の場や学校の教室でシャンシャンをする勇気は今の傷ついた僕にはなかった。
(また無難な名作F○BEシリーズでもやるか?でも知り合いの目の前でゲームしてたら相手に失礼な気がするし…。いや待てよ。もし「なにやってるの?あ!あたしもそれやってる」とか言われたらそのゲームの話になって盛り上がるかも?……いやいやそれじゃあNPCのマリアさんが話についてこれないだろ)
などと僕が必死になって順番待ちの間どうするか悩んでいたら、ちーずプリンさんが僕の方に顔を向けてきた。
「そういえばなに狩りに行くの?」
「魔核目当てでスライムですけど…」
「うへー…。それはめんどいね。狩り場混んでるよ、どこにする?」
周囲を見回すちーずプリンさん。
僕も釣られて周りを見回すと、相変わらず草原にいくつも形成されている狩り場には何人何十人ものPCが行列を組んで並んでいた。
「PC多いですね…」
できるだけ行列が少ない場所がないか目を凝らして周りを見回す僕。
「ぴーしーってなに?」
ちーずプリンさんがそんなことを尋ねてきた。
「え、PCはプレイヤーキャラクターの略ですけど…」
「そうなの?聞いたことないよ。ファントムさんの造語?」
「いや、別に僕の造語じゃありませんけど…」
ストーリー性の強い一人用ゲームならよく『PC』って言うけど、まああまり耳にしないかも?普通にPとかプレイヤーとか呼ぶし。
このアトランティスは主に『プレイヤー』と呼んでる傾向が多いしね。
こういうMMOやMMORPGとかはみんなが使ってる『呼び方』が優先されるから僕のこの呼び方はある意味異端かもしれない。
たけど僕はあえて言い直さない。
「周りと違う言い方で俺カッコイイ的な感じ?」
「ち、違いますよ…!」
本音の一部を言い当てられた僕は慌てて否定した。
ムダに鋭い人だ…。ここは話題を変えたほうがいいと思った僕は彼女(彼)に聞いてみたかったことを尋ねてみることにした。
「あ、あの!ちーずプリンさんってもしかしてあまりゲームとかやらない人ですか?」
「うん。ぶっちゃけあんまやらないです。テレビを見てこのゲームに興味もっちゃって応募したら抽選に当たっちゃったからやってみることにしたんですよ♪」
抽選もそうだけど普通に簡単に買える値段じゃないんだけどな…。
まあそこは突っ込まないほうがいいか。
現実のことを聞くのは基本NG。マナー違反だと思う僕はそんなに仲良くないちーずプリンさんのことをそれ以上聞くのはやめた。
「ところで、ホントにいいんですか?けっこう時間かかりそうですよ?」
「うーん……。別にいいよ♪暇だしね」
「ありがとうございます。それじゃあとりあえずあそこに並びますか?」
「了解でーす!」
「あの…魔核を狙うのでしたら私に心当たりがあります」
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