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幕間 転機
第百十七話
しおりを挟むおはようございます…佐藤健一です。
朝からテンションが低いです、ダダ下がりです。
というのも僕はいま妹に手を引かれて通学しています。
厳密には逃がさないように手首を掴まれ拘束されています(半泣)
周囲の視線がとても気になります。
さっきから動悸が治まらず胸がドキドキします…もう帰りたい(泣)
何故引きニートの僕が妹と一緒に通学しているかというと、昨夜の零時から翌日の零時までアトランティスのメンテナンスが行われるため、ログインできない状況になってしまった。
待ちに待ったアップデートのメンテナンスだけど丸一日かかるという無情なお達し。
メンテ長くない!?と思ったけど、世界初のVRだしこれくらいかかるかと我慢することとなった。
僕はこれを機に未読のラノベや積みゲーを消化しようと思ってたのに、朝食のとき両親から「今日はメンテで暇だろう。たまには学校に顔を出しなさい」と言われ、お目付役として妹が僕を連行することになりました…
徒歩圏内に僕らが通う高校があるけどその間、妹と手を掴まれて登校というのは恥ずかしずて死にそうです…
妹のナオは羞恥心がないのか、何故か上機嫌で僕を引っ張って先を歩いている。
すれ違う人の視線を感じてもう帰りたくて仕方がなかった。
足元に目線を固定しているからどんな目で見られてるのかわからないし、緊張からテンパりすぎてて冷静に状況を把握できないでいた。
ていうか帰りたい…
ホントマジでお家帰りたい…(切実)
できることならこの手を振り切ってダッシュで帰宅したいけど、その勇気すら振り絞れない。
妹にドナドナされた僕は徒歩二十分の苦行に耐えながら高校にたどり着いた。
とうとう到着してしまった。
ていうかどれくらいぶりだろう?
軽く半年は行ってない気がする。
普通それだけ休んでたら自主退学をすすめられるか、留年するかのどっちかだと思ってたのに、何故か進級できてしまった。
なんで進級できたんだろう?いまだに不思議でしょうがない。
なにか大きな力を感じてならないwww
校舎に入っても妹が隣で僕を見張っている。
さすがに校内で手は掴まれてないけど、三年の校舎に二年の妹がいるせいで地味に目立っている気がする。
僕と違って妹は萎縮することなく、迷うことなくどんどん進んでいく。
僕は歩調を合わせて並んで歩くのに精一杯だ。
ていうか帰りたい…
「着いたよ」
そうこうしているうちに僕のクラスに着いたようだ。
三年A組。
ていうかなんで妹は僕のクラスを知っているんだろう?
担任か誰かに聞いたのかな?
ていうか三年A組か…担任は金○チか、ひい○ぎ先生だろうか?
僕は腐ったミカンなのでほっといてくださると助かります。
あと俺の授業と称して教室に爆弾を設置して人質にしないでください。
冗談を言う余裕ができてきたところで、たしか二年の時の担任は新任の女性教師だった記憶がある。
まあ、それくらいしか覚えてないけどねw
「ほら、さっさと入る」
妹に背中を押されて僕は三年になって初めての教室に足を踏み入れてしまった。
教室にいたクラスメイトが僕の方に視線を向けた。
動悸がさらに高鳴り、カーッと身体が、特に顔が熱くなってきた。手汗もすごい。
僕はうつむき佇んでいることしかできなかった。
どうしよう…?なにする?ていうか僕の席は?机は?椅子はどこ?ていうか帰りたい!
「あ、佐藤くんおはよう!」
一人の女子が、ポニテ美少女が僕に声をかけてきた。
優しい感じのカワイイ子だ。
誰だっけ?どこかで会った気がするけど思い出せない?
「ナオちゃんおはよう」
「おはよギルマス…じゃなくて、明美先輩」
「あとは私に任せて。もうじきチャイム鳴るからナオちゃんは自分のクラスに行ったほうがいいよ」
「うん。じゃあ任せました(敬礼)」
「はい、任されました(敬礼)」
何故敬礼?
二人のやりとりを見てて疑問に思う僕。
ていうか二人は知り合いだったのか。お兄ちゃん知らなかったよ(笑)
「はい、佐藤くんはこっち」
明美先輩とやらに、促され自分の席に案内された。
窓際の一番後ろの席。
おお、なかなかいい席じゃないですか。
カバンを机の上に置き席に着いてみた。
ここなら隠れて授業中にソシャゲできるかも…いやいや、もしバレたらスマホが没収されてしまう。休み時間だけにしとこう。
「なにかわからないことがあったら遠慮なく私に言ってね」
隣の席についた明美先輩がそう言って僕に話しかけてきた。
「あ、はい…」
「固いなぁ、緊張してる?」
「え、まあ…」
「大丈夫だよ」
明美先輩は少しこちらに身を寄せ、声をひそめるように言った。
「あの3人、クラス替えでC組にいるから」
!?
「あ、そう…」
「多分だけど、このクラスには佐藤くんに絡んでくる人はいないと思うから安心して」
「はあ…」
曖昧に相づちをうつ僕。
何気なく周囲を見回してみると、もう僕のことなんか見てる人はいなかった。
それを見てほっと安堵している自分に気がついた。
「ねえねえ」
「なんですか明美先輩」
「は?なんで先輩って呼ぶの?」
「いや、妹がそう呼んでたもので、つい…」
「普通に明美でいいよ」
「いえ、呼び捨ては失礼にあたるかと…」
「別に気にしないよ?」
「僕が気にするので…えっと………」
うーん、なんて呼べばいいんだろう?
明美さん?明美くん?あけみん?明美たん?
ていうかなんで名前で呼ばなきゃいけないんだ?普通に名字でよくない?
でもその名字がわからないんだよなぁ………
「あの、名字で呼んでもよろしいでしょうか?」
「別にいいけど…」
「ところで、その名字ってなんでしたっけ?」
「………」
あ………そう言った瞬間、僕は言い方を間違えたことを察した。
ジト目で僕を見つめる明美先輩(仮称)
「ふーん、私の名字、覚えてないんだ。ふーん」
「あの、その、えっと………ごめんなさい」
「板野です。改めてよろしくね佐藤くん」
板野さんは笑顔で自己紹介してくれた。
目が全然笑ってないうえに声がなんか怖い…
「よ、よろしくお願いします…」
◇
早いもので午前の授業が終わり昼になった。
久し振りの授業は、あまり理解できなかった…
まあ、ついていけないのは当然といえば当然か。
「はあ…」
ため息をつき席を立つ僕。
それはさておきお腹が空いた…
昼食どうしようかな?
学食はない。人が多いから。
購買のパン。それもない。人が多いから。
どうしよう………
「よし、帰るか…」
ていうか授業ついていけないし、人に囲まれたこの空間にいるのがそろそろ精神的にキツくなってきた。
ていうかもう無理。
板野さん以外話しかけてくる人はいないけど、休み時間ごとに話しかけてくる板野さんがウザくなっていた。
「大丈夫?」「わからないことがあったら遠慮なく言ってね」「ノート貸してあげるね」など親切心から僕を構ってくれる。
ぶっちゃけ僕はそれをありがた迷惑に思っていた。
できれば周りのクラスメイトみたいにそっとしておいてほしい。
担任は僕が来ても特になにも言わなかったし、それはそれで教師としてどうなの?と思うけど、個人的には非常に助かる。
その板野さんは友達と一緒にどこかへ行った。
お弁当持ってたし、どこかで食べに行ったんだろう。
この隙に帰宅しよう。
そう思っただけですごく気が楽になった。
佐藤健一。気疲れ、人疲れ、その他もろもろの心労がたたったので早退するであります!
胸の内でそう言った僕はカバンを手に教室から離脱した。
帰ったらとりあえず疲れたし仮眠しよう。
夜中の零時にアプデ終わるから速攻でインしなきゃいけないし今夜は徹夜だ。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると肩を掴まれた。
!?
ビックリして振り返ると、そこに奴らがいた。
「よぉ佐藤」
佐藤が僕の肩を掴んでいた。
ニヤニヤと意地悪そうな顔で僕を見つめていた。
その後ろには鈴木と田中。
よりにもよって一番会いたくなかった奴らとエンカウントしてしまった…
「ちょっと付き合えよ」
そのまま僕は佐藤、鈴木、田中の三バカトリオに連行された。
「………」
体育館の裏で僕はうずくまっていた。
奴らはもういない。
ストレス発散して満足したんだろう。
久し振りで歯止めがきかなかったのか、ボコボコにやられて体中が痛い。
予鈴が鳴っている。だけど僕は動く気がしなかった。
VRで争い事には慣れたつもりだったけど、本当につもりだった。
実際に奴らと相対すると身が縮こまって動けなくなる。
アトランティスじゃ痛覚遮断されてるからなにされても痛くはなかったけど、奴らに殴られたり蹴られたりすると普通に痛い。
久し振りの痛みでうずくまることしかできなくなる。
最近のニュースでは、VRのキャラになりきって現実で刃物振り回したり、アバターでできたことを現実でもやって怪我したりする人がいるみたいだけど、僕はとてもじゃないけどそんなことはできないし、現実で引きずることはない。
だってファントムは僕であって僕じゃないってちゃんと自覚してるから。
事件起こしたり怪我したりした人はその自覚が足りなかったんだろう。
だから現実でも平気で人を傷つけたり、自分を傷つけたりする。
ていうか、普通に現実でもスキルとか使えたらこんな事にはならなかったんだろうな。
心眼使えたら余裕で蹴りとか躱せるし、堅牢使えたらこんなに痛く感じなかっただろうし、武器があれば攻撃スキルで瞬殺できたと思う。
それ以前にVRだったらあんな奴らなんか怖くないのに…
もし、ゼルがこの場にいたら奴ら死んでたなw
ブチ切れるゼル達にフルボッコにされる奴らの姿が思い浮かんだ。
そんな妄想をしていたら少し気持ちが楽になってきた。
「ホント、死ねばいいのに…」
痛みに耐えて起き上がった。
身体の状態を確認。
うん、骨は折れてないかな。怪我は打撲、打ち身くらいだと思う。
しこたま背中を蹴られていたから、背中がめっちゃ痛い…
身体を丸めて事が終わるのをただただひたすらに耐えていたから、背中が一番ダメージが大きい。
見えないけど多分背中が赤く青く腫れたりしてるんだろうな。
僕は落ちたカバンを手に取るとその場を後にした。
もうイヤだ、帰ろう。
僕は痛む身体を引きずって家路へ向かった。
◇
その夜、佐藤家の食卓は重苦しい雰囲気に包まれていた。
理由は簡単だ。
僕が昼に帰ってきたこと。
ナオがそれに気付き両親に連絡。
勤め先から帰ってきた両親と妹を交えて家族会議が開かれてしまった。
怪我をしている僕を見て両親はまたいじめられたと察知。
さらに妹がそれを裏付ける証言を発言。
僕は知らぬ存ぜぬを繰り返し、話は平行線という状況。
つまらないプライドが邪魔をして素直にいじめられたと言えない僕に業を煮やした妹がブチ切れ両親に止められるという事態が発生した後は、重苦しい沈黙が続いていた。
ていうか部屋に帰りたい…
でも、この状況で席を立つ勇気は僕にはない。
ただじっとうつむいて終わるのを待つのみだ。
「なあ健一」
重苦しい沈黙を破ったのは父さんだった。
「いまの学校、行きたくないか?」
「…別に」
「じゃあ毎日行けるか?」
「それは…忙しいから無理?」
「なにが忙しいのよ!」
席を立ち机を叩いてキレる妹。
怖っ!
「毎日毎日ゲームしてるだけじゃない!それのどこが忙しいのよ!虐められてるから行きたくないだけでしょうが!」
「ナオ、ちょっと黙っててくれ」
「でも父さん…」
「いいから。今は父さんが話してる」
妹が渋々と席についた。
「健一、前から考えていたんだけどな、このまま学校行かないんだったらいっそのこと通信制に編入してみるか?」
通信?
父さんは通信制高校について説明してくれた。
通信制高校は高等学校と認められた学校で卒業すると高校卒業資格を取れる。
基本自習で毎日の通学はないから、基本アトランティスに潜れる。
勉強はメニューを開いてネットに繋げばゲームの中でも勉強できる。
年に数回学校指定の会場で授業を受けることになるけど、レポートとテスト、そしてスクーリングをこなせば無事に卒業できる。
「こんな感じで自分のペースで高校を卒業できるけど、どうだ?」
「うーん…辞めるという選択肢は?」
「辞めるんだったら働いてもらう。小遣いもなし。ダイブオンの通信料や自分の食費その他生活費は自分で稼ぎなさい」
えぇぇぇ!?この引きニートゲーマーに働けとおっしゃるか父上は。
「もし働きもせずただ引きこもってゲームするだけなら、引きこもりの更生施設にでも入ってもらおうかな」
「………(汗)」
鬼や…おとんが鬼やで…悪どい笑顔で息子を脅しよる…:-()
「でも通信制に編入するなら、基本今の生活のままで小遣いもあるが…」
「通信制に編入するであります!」
立ち上がり敬礼した僕は即答した。
「そうか。わかってくれて嬉しいよ。ただし自分のペースでいい、ちゃんと勉強すること。もしできなかったらダイブオンを取り上げるからそのつもりで」
んな殺生な!?
「頑張ってね健ちゃん♪お母さん応援してる」
「………」
笑顔でエールを送る母さんと、なにか言いたそうに不機嫌な顔で沈黙してる妹。
というわけで、僕は通信制の高校に編入することになった。
まあ、基本いまの生活と変わらないなら通信制も悪くないなと思う僕であった。
そんなことよりもうじきアプデだ!
ログインしたらみんなと一緒に冒険者組合に行ってギルド申請しないと。
そのあと依頼受けるか。ルーネを【学者】にしたいし、レベル上限が五十になるからレベル上げをするのもアリかな。
そろそろ僕とゼルとルーネの装備も買い換えないといけないな。
ていうかどこかの工房借りて作製したい。
あぁ、やりたいことが多すぎて困る。
早く零時になれよ!
僕は部屋に戻ると一日千秋の思いで時が過ぎるのを待っていた。
応援ありがとうございます!
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