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第5章 抗争
第百七十二話
しおりを挟む「とりま全員動くな」
運営のお姉さんが面倒くさそうにそう言うと、僕の身体が全く動かなくなった。
「なっ!?」
「こ、この力は……!」
ゼル達も動けないのか驚きの声をあげたのが聞こえた。
「はぁ……まさかNPCがこんな事するなんて……。神楽の調整ミスじゃねーの?つうかなんであたしがサービス残業しなきゃいけないわけ?マジあり得ないだけど……」
運営のお姉さんがメニュー画面を見ながら不機嫌そうにぶつぶつと呟いている。
めっちゃ殺気立ってるんですけど……(怖)
ていうか以前会った時と雰囲気がまるで違う。
「あ?なにこの数値……!?」
運営のお姉さんが僕の前で立ち止まるとメニュー画面を見つめながらスライドしていく。
「プレイヤーの表層に合わせてるだけじゃない。深層意識の領域まで深く同調してる!?だからNPCがこんな真似を?つうか好感度上がり過ぎでしょ、なにこの数値……」
眉間にシワを寄せて睨みつけるように画面を見つめている運営のお姉さん。
先程まで醸し出していた殺気はずいぶん治まっているけど、僕の目の前でぶつぶつ呟くのはやめてくれませんかね……(緊張)
「これは会議案件ね。とりあえず君、動いていいよ」
運営のお姉さんがそう言うと僕の身体が自由になった。
「君、確かプレイヤーネームファントムだったわね?」
「あ、はい!ファントムです!」
「君のお仲間やり過ぎ」
「す、すみません……」
「とりあえず今回は不問。ただPKのレベリングはすぐにやめて解放しなさい」
「はい、わかりました!」
「うん。素直でよろしい」
直立不動で返事をする僕に笑顔を向ける運営のお姉さん。
ドキッとするくらい可愛い笑顔だけど、僕は違う意味で緊張したまま動けないでいた。
何故だろう。この人には絶対に逆らっちゃいけないと本能が叫んでいる。
この人はヤバい……(震)
「全員動いてよし。それじゃあの子達を解放してあげて」
「わ、わかりました!ゼル、ドンペリキング達を解放して」
「兄貴……」
「いいから早く!お願い!」
「りょ、了解です。おいお前ら!そいつらの拘束を解け!」
ゼルが部下に命じてドンペリキング達の拘束を次々と解き始めた。
新たに捕まえた人達の拘束も解いていく。
自由になったドンペリキング達が僕達を……っていうか、僕を睨み付けている。
うわ……ちょっとっていうか、かなり怖いんですけど……(冷汗)
「はいはい。この場でケンカし始めたらBANするよ」
手をたたきながら運営のお姉さんが割って入る。
「おいおい、GMはそっちの味方かよ。俺ら被害者だぜ!」
「そうだそうだ!バンするなら向こうだろ!?」
「ありえねーっしょ。つーか装備品返せ」
「犯罪ギルドはお咎めなしかよ!」
ドンペリキング達が騒ぎ出した。
「あ?」
「負け犬が吠えてんじゃねえよ!」
ゼルが不機嫌そうに顔を歪めカイが怒鳴り返した。
一触即発の空気が生まれた瞬間、運営のお姉さんが地面に槍を勢いよく突き刺した。
ドォン!!!
と地響きが鳴り渡り地面が揺れる。
「!?」
立ってられないほどの地震に僕はその場に蹲った。
周りに目をやると、みんな僕と同じようによろめき蹲っていた。
「はいはい、喧嘩しない。本当にBANするよ?」
そう言う運営のお姉さんから途轍もない威圧感を感じる。
身体の芯から震えがくる……。
ちょ、マジで怖いんですけど……(泣)
周りの人達もPC 、NPC問わず恐怖に震えているのがわかった。
「な、なんだよ!俺ら被害者だぞ」
恐怖に震えながらも訴えるドンペリキング。
すごいなこの人……。勇者じゃない?
「だからなに?つうか君、散々他のプレイヤーやNPCに迷惑かけといたくせに、自分達が卑怯な不意打ち喰らったうえに身ぐるみ剥がされてボコられたら被害者顔してこっちに泣きつくわけ?」
最後に「ダサっwww」と笑った運営のお姉さんの口撃が止まらない。
「今までは違法スレスレのグレーゾーンだから敢えて干渉しなかったけど、君達のやってたことは現実でやったら通報ものなんですけど。ゲームだから大目に見てただけなんですけど。つうかちょっと強いスキル得たからって調子に乗り過ぎ。最低限のマナーくらい守りなさい」
運営のお姉さんは早口でまくしたてると、くるりとこちらを振り向いた。
「そっちもそっちでやり過ぎ。犯罪組織なのは知ってるけど、今回みたいなやり口は頂けないわ。ファントム君、君がリーダーなんだからきちんとNPCの手綱を握っていなさい。いい?今後も同じようなことをしたら仲間を殺すからね」
最後に凄まじい殺気を乗せて言う運営のお姉さんに、僕達はただ頷くことしかできなかった。
気の強いカイですら震えて頷いてたし……。
「とりあえず今日はここで解散」
運営のお姉さんが持つ槍が光り輝いた。
幾何学模様の魔法陣が運営のお姉さんを中心に広がっていく。
魔法陣が僕の足元を通り過ぎていくと、僕の身体が徐々に透け始めた。
見るとドンペリキング達も僕と同じように身体が透けている。
えっ!?ちょっとなにこれ!?
『GMにより強制ログアウトされます』
視界にシステムメッセージが映った。
「あ、そうそう。君達、反省の意味も込めて今から24時間ログイン禁止ね」
「えっ!?」
「「「はああああああ!!?」」」
最後にとんでもないことを言われた僕とドンペリキング達PCは強制的にログアウトされた。
翌日、アトランティスのGMからPCにDMが届いた。
内容はPM13:00~17:00まで緊急メンテナンスとアップデートを行うとのこと。
その間サーバーが使えなくなるのでログインしているPCはログアウトしろとか書かれていた。
急なアプデは一部のプレイヤーによる悪質なPKの対処で、これはもうアプデというか修正、パッチがかかったようなモノだった。
これ絶対僕達が原因だよね……と読み進めていくと、PC、NPCの拉致監禁等の禁止。
そしてPKした相手の蘇生禁止というモノだった。
それを行うと重いペナルティが科せられるようだ。
記録でPCの行動履歴は残るから、遅かれ早かれ絶対にバレるからやめろと書かれていた。
重いペナルティというのは詳しく書かれていなかったからわからないけど、相当重い罰が与えられそうな気がする。
そして最後にPCのデスペナルィについての変更が記載されていた。
今までは死ぬとランダムで数個のアイテムをドロップするだけだったけど、変更後は更にEXP10%の減少と強制ログアウト。24時間のログイン禁止が加えられるらしい。
アイテムドロップや獲得経験値減少とかは他のオンゲーでもペナルティとしてあるけど、24時間のログイン禁止は痛い。
ていうか経験値10%引かれるのも何気に厳しいな。
高レベルほどデスペナで引かれる経験値が大きくなるしレベルダウンもするだろう。
ざっと計算してみたけど、例えばLv:10の戦士(転職なし)のPCがいたとして、大体それまで得た経験値は約1万。
死んだらその10%の1000が引かれると1レベルほどダウンする。
現在の上限値であるLv:60の戦士(あまりいないだろうけど転職なしの状態)で得た経験値は約160万ほど。
その10%は16万ほどだから2レベルほど死んだらダウンする。
複数転職した場合は色んなパターンがあって一概には言えないけど、職業ボーナスやパッシブスキルでEXPが獲得しやすい場合がある。
そうなるともし死んだら4~5レベルくらいダウンするかもしれない。
あれ?ていうか僕の場合はどうなるんだろう?と疑問が生じた。
僕は他のPCと違って複数の職業に就いている。
基本ひとつの職業にしか就けないけど、僕は脱獄囚の職業効果?で転職せずに複数の職業に就けるし習得もできる。
その分獲得経験値が分配されるというデメリットはあるけど、もし僕が死んだらどの職業の経験値が減るんだろう?
獲得したときと同じように分配されるのか?それとも各職業ごとに10%ずつ引かれるのか?いまいちそこらへんがわからなかった。
た、多分獲得した経験値と同じようにベスペナの減少も分配されるでしょ?
そうであって欲しい……(切実)
確認したくてもまだログインできない僕はベッドの上でゴロゴロするしかできなかった。
ていうかたとえログインしてもデスペナ怖くて試せないし……。
でも気になって仕方ない。
不安を抱えた僕はじっとしていられず、他のゲームをプレイしてみたけど全然集中できなかった。
すぐゲームをやめた僕は、机に置きっぱなしにしてた手付かずのレポートがあることに気がついた。
けれどこんな状態じゃ手につかないのは目に見えている僕はそのままスルーした。
結局僕はアトランティスのログインができるようになるまでなにもせず、ただただ時が経つのを待つことしかできなかった。
応援ありがとうございます!
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