1 / 15
推しとの出会いは突然に
しおりを挟む
夜空に散らばる星のように煌めくシャンデリア。
鏡のように磨かれた大理石の床。
各家の威信をかけた華やかなドレスをまとう令嬢たち。
アメリアの目に映るすべてが、今彼女がいるのが、“いつもの日常”ではないことを告げていた。
(……あれ、この光景、どこかで……)
胸の奥がざわめく。
忘れていた何かが、頭の中でカチリと噛み合ったような気がした。
(そうだ。ロイヤルアカデミア……私、この場面を知ってる)
途端、遠い記憶が洪水のように押し寄せてくる。
仕事の昼休みに新刊を買いに走ったこと。
地域限定のグッズを集めるため、遠出した休日。
大好きな人の過去を読んで泣いた夜——。
(これは、前世の記憶……? 私、ロイアカの中でアメリアとして暮らしていたってこと?)
理解した瞬間、目の前の光景が一層鮮やかに見えた。
アメリアの前には、深紅のドレスの裾を握りしめ、憎悪に燃えるエメラルドの瞳でこちらを睨む金髪の少女が立っていた。
くるりと巻いた金髪。派手な装飾のドレス。
どこからどう見ても“悪役令嬢”。
「エ、エ、エイベル様——っ!?」
思わず素っ頓狂な声が出たアメリアに、すぐ横の青年が眉を寄せた。
「アメリア、大丈夫か? 急にふらついたようだが……体調が悪いのか?」
(……マクスウェル殿下!? エイベル様が衝撃すぎて完全に見落としてた!)
透き通るような黒髪と、深海のような藍色の瞳。
近くで見るには破壊力がありすぎる精悍な顔立ち——間違いなく彼だ。
コホン、と咳払いをしたエイベルがマクスウェルのほうに身体を向ける。
「殿下、私はあなたの婚約者ですわ。なのに、どうしてその小娘を庇うのです?」
「……君との婚約は家同士が勝手に決めたものだ。
君は罪のないアメリアを何度もいじめた。その証拠も揃っている。
君は未来の王太子妃に相応しくない。——よって、ここにエイベル・ロゼティーナとの婚約破棄を宣言する!」
会場がざわめきに包まれる。
「噂は本当だったのね!」
「あの子が、最近殿下と仲の良い転校生かしら?」
「エイベル様、嫉妬でいじめだなんて……なんて恐ろしいのかしら」
(本当に小説通りだ。このままだとエイベル様は断罪されて国外追放されてしまう……そんなの絶対に嫌!!)
唇をわなわなと震えさせるエイベル。
その姿を見たアメリアは、自分の心を落ち着かせるように息を吸い、マクスウェルを見上げた。
「マクスウェル殿下。
どうか……エイベル様と二人だけでお話しする時間をいただけませんか。少し、誤解があったのかもしれませんの」
前世を思い出す前の“アメリアの口調”を真似て微笑む。
「もう少しで、君をエイベルから遠ざけられるんだよ。そうすれば君の学園生活だって、今よりずっと楽になるだろう」
(いやいや! 私はエイベル様とハッピー学園ライフを送りたいの!!)
「無理を言っているのは分かっています。
それでも……エイベル様に、どうしてもお伝えしたいことがあるのです」
探るようなマクスウェルの瞳を見つめる。
「君がここまで意地を張るなんて珍しいな……分かった。
ただし、俺も同行する」
マクスウェルは会場に向けて声を張った。
「皆のもの、せっかくの舞踏会の場を乱してしまってすまない。
後日、改めて報告の場を設ける。それまで今の件は内密に頼む」
そしてアメリアの手をそっと取り、出口へと歩き出した。
「エイベル、こちらへ。アメリアが君と話したいと言っている。
もし彼女に手を出したら……その瞬間、俺が叩き切る」
*
舞踏会の喧騒から離れた三人は、豪奢な装飾の施された広い控室にいた。
不機嫌そうに腕を組むエイベルの左右には護衛が立ち、アメリアに危害を加えることができないよう厳しく見張っている。
「で、アメリア。あなたがこの私に伝えたいこととは何ですの?どうせ謝罪でも求めるのでしょうけれど」
アメリアは勢いよく立ち上がった。
「エイベル様、私……あなたとお友達になりたいのです!!」
「「……はぁ?」」
マクスウェルとエイベルの声がぴったり重なる。
(あ、いきなりすぎたよね……思いが先走っちゃったけど、順番に説明しなくちゃ)
「エイベル様は、今まで私をずっと救ってくださっていたのです。そのことを……これから説明させてください」
アメリアの真剣な言葉に、エイベルの瞳がわずかに揺れた。
(私は確かにアメリアとして生きてきた。でも今、思い出した……前世であなたを誰より愛していた“私”を。絶対に断罪なんてさせない)
鏡のように磨かれた大理石の床。
各家の威信をかけた華やかなドレスをまとう令嬢たち。
アメリアの目に映るすべてが、今彼女がいるのが、“いつもの日常”ではないことを告げていた。
(……あれ、この光景、どこかで……)
胸の奥がざわめく。
忘れていた何かが、頭の中でカチリと噛み合ったような気がした。
(そうだ。ロイヤルアカデミア……私、この場面を知ってる)
途端、遠い記憶が洪水のように押し寄せてくる。
仕事の昼休みに新刊を買いに走ったこと。
地域限定のグッズを集めるため、遠出した休日。
大好きな人の過去を読んで泣いた夜——。
(これは、前世の記憶……? 私、ロイアカの中でアメリアとして暮らしていたってこと?)
理解した瞬間、目の前の光景が一層鮮やかに見えた。
アメリアの前には、深紅のドレスの裾を握りしめ、憎悪に燃えるエメラルドの瞳でこちらを睨む金髪の少女が立っていた。
くるりと巻いた金髪。派手な装飾のドレス。
どこからどう見ても“悪役令嬢”。
「エ、エ、エイベル様——っ!?」
思わず素っ頓狂な声が出たアメリアに、すぐ横の青年が眉を寄せた。
「アメリア、大丈夫か? 急にふらついたようだが……体調が悪いのか?」
(……マクスウェル殿下!? エイベル様が衝撃すぎて完全に見落としてた!)
透き通るような黒髪と、深海のような藍色の瞳。
近くで見るには破壊力がありすぎる精悍な顔立ち——間違いなく彼だ。
コホン、と咳払いをしたエイベルがマクスウェルのほうに身体を向ける。
「殿下、私はあなたの婚約者ですわ。なのに、どうしてその小娘を庇うのです?」
「……君との婚約は家同士が勝手に決めたものだ。
君は罪のないアメリアを何度もいじめた。その証拠も揃っている。
君は未来の王太子妃に相応しくない。——よって、ここにエイベル・ロゼティーナとの婚約破棄を宣言する!」
会場がざわめきに包まれる。
「噂は本当だったのね!」
「あの子が、最近殿下と仲の良い転校生かしら?」
「エイベル様、嫉妬でいじめだなんて……なんて恐ろしいのかしら」
(本当に小説通りだ。このままだとエイベル様は断罪されて国外追放されてしまう……そんなの絶対に嫌!!)
唇をわなわなと震えさせるエイベル。
その姿を見たアメリアは、自分の心を落ち着かせるように息を吸い、マクスウェルを見上げた。
「マクスウェル殿下。
どうか……エイベル様と二人だけでお話しする時間をいただけませんか。少し、誤解があったのかもしれませんの」
前世を思い出す前の“アメリアの口調”を真似て微笑む。
「もう少しで、君をエイベルから遠ざけられるんだよ。そうすれば君の学園生活だって、今よりずっと楽になるだろう」
(いやいや! 私はエイベル様とハッピー学園ライフを送りたいの!!)
「無理を言っているのは分かっています。
それでも……エイベル様に、どうしてもお伝えしたいことがあるのです」
探るようなマクスウェルの瞳を見つめる。
「君がここまで意地を張るなんて珍しいな……分かった。
ただし、俺も同行する」
マクスウェルは会場に向けて声を張った。
「皆のもの、せっかくの舞踏会の場を乱してしまってすまない。
後日、改めて報告の場を設ける。それまで今の件は内密に頼む」
そしてアメリアの手をそっと取り、出口へと歩き出した。
「エイベル、こちらへ。アメリアが君と話したいと言っている。
もし彼女に手を出したら……その瞬間、俺が叩き切る」
*
舞踏会の喧騒から離れた三人は、豪奢な装飾の施された広い控室にいた。
不機嫌そうに腕を組むエイベルの左右には護衛が立ち、アメリアに危害を加えることができないよう厳しく見張っている。
「で、アメリア。あなたがこの私に伝えたいこととは何ですの?どうせ謝罪でも求めるのでしょうけれど」
アメリアは勢いよく立ち上がった。
「エイベル様、私……あなたとお友達になりたいのです!!」
「「……はぁ?」」
マクスウェルとエイベルの声がぴったり重なる。
(あ、いきなりすぎたよね……思いが先走っちゃったけど、順番に説明しなくちゃ)
「エイベル様は、今まで私をずっと救ってくださっていたのです。そのことを……これから説明させてください」
アメリアの真剣な言葉に、エイベルの瞳がわずかに揺れた。
(私は確かにアメリアとして生きてきた。でも今、思い出した……前世であなたを誰より愛していた“私”を。絶対に断罪なんてさせない)
0
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。
千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!?
でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。
舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。
放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。
そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。
すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。
見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!?
転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店!
※20260116執筆中の連載作品のショート版です。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる