転生したら推しの悪役令嬢……と思いきや、ヒロインでした!推しの断罪を回避したいのに、王太子に溺愛されて困っています!

まりり

文字の大きさ
4 / 15

王族という牢獄

しおりを挟む
 可愛らしいリボンのついた制服に身を包んだアメリアは、ロイヤルアカデミアの門をくぐった。

 この学園には、シュタイン王国に暮らす貴族の子息や令嬢が主に通っている。
 学則には「厳しい基準を満たせば平民も入学可能」とあるものの、実際に在籍しているのはほんの一握りだ。

 そのため学園には莫大な寄付金が蓄積され、設備はどれも豪華そのもの。
 食堂には専属シェフまで常駐しているという徹底ぶりだ。

 今まで何の気なしに通っていた学園だが、前世の記憶がある状態で見ると、なんとも感慨深い。

 城のような校舎を遠い目で眺めていると、ぽん、と肩
 を叩かれた。

 びっくりして振り返ると、目が覚めるような褐色の美少女が微笑んでいた。

「おはよ! なにしてんの?」

「お、おはよう! いやー……なんて豪華な建物なんだろうと思って……」

「いつものことでしょ、変なアメリア! ほら、遅刻しちゃうから早く入るよ!」

 快活に笑いながらアメリアの手を引くその少女は、ユミル──アメリアの数少ない女友達だ。
 伯爵家の一人娘で、婚約者はいない。婚約者持ちの令息と仲良くしているアメリアが一部の女性から疎まれていた時から、仲良くしてくれていた少女だ。

 たわいもない話をしながら歩いていくうちに、あっという間に教室に着いた。

「ユミル! 昨日の書類のことなんだけど──」

 別の友人に呼ばれ、ユミルが去っていく。

 いつも通り自分の席につこうとしたアメリアは、その場所が思い出せないことに気づいた。

 (なんだろう、アメリアとして生きてきた記憶はちゃんとあるのに小説の記憶と混ざって変な感じがする。
 ちょっとした記憶喪失みたいな……)

 記憶の片隅にある自分の席を必死で思い出そうとしていると。

 また、肩に手を置かれた。

「アメリア、昨日ぶりだね。どうかした?」

 振り向くと、完璧な笑顔のマクスウェルが立っていた。

「マクスウェル殿下! えぇと……席をド忘れしてしまいまして……」

「はは、君の席はここ。俺の隣だよ」

 長い指で机をトン、と叩くマクスウェル。
 “やっぱり小説の世界だから席も都合よく配置されてるのか……”と、アメリアは場違いな感想を抱くのだった。

 席につくとすぐ、キョロキョロと教室を見まわした。

(エイベル様も同じクラスだけど……まだ来ていないのかな)

 学園内でのクラスは、入学試験及び2年次からは年度末にある総合試験で決定する。

 アメリアは転入時の試験を好成績で突破し、なんとか1番上のクラスに入ったものの、クラス内では下から数えた方が早い成績である。

 対して、マクスウェルとエイベルは常に首位争いをする才女・才子だ。

「何キョロキョロしてるの?」

 マクスウェルが身を乗り出すようにして覗き込んできた。

「エイベル様を探しているのです」

(近い!  殿下、その距離は誤解を招きます!!)

 案の定、後ろの方からヒソヒソとした噂声が聞こえてくる。おそらく、昨日の婚約破棄騒動も知っているのだろう。

「で、殿下……私が言えることではないのですが、もう少し離れていただけますか?」

「ああ、ごめんね」

 全く悪びれた様子のない笑み。

 その時、突然教室の空気が変わった。

 エイベルが入ってきたのだ。

 ピンと伸びた背筋は彼女の矜持を示すかのよう。

(エイベル様……! 朝から美しさが眩しい……!)

 アメリアは息を呑む。

 エイベルは教室中の視線も、そしてマクスウェルの存在すら無視してまっすぐアメリアへ歩み寄った。

 そして、アメリアの机にそっと手を置いた。

「……おはよう、アメリア」

 教室は静まりかえっている。

 昨日までのエイベルなら、近づくどころか視線すら合わせなかったはずだ。

「エイベル様、おはようございます!!」

 満面の笑みを向けるアメリアに、エイベルは一瞬きょとんとした顔を見せた。
 だがすぐにツンとした表情に戻り、

「エイベル、でいいわよ」

 と呟いた。

「エ、エイベル……?」

 戸惑いがちに声を出したアメリアに、エイベルはふっと微笑んだ。
 それは小説で一度も描かれたことのない、年相応の少女の笑顔だった。

 *

 2人の会話を横目で見ながら、マクスウェルはふと自分の幼い頃を思い返していた。

 ──人に決められた結婚なんて、牢獄と同じだ。

 両親は政略結婚だった。
 王である父は“賢王”と呼ばれながら、夫としては最悪だった。愛人のもとに入り浸り、王宮にほとんど帰ってこない生活。

 母は孤独に耐えかね、精神を病んでいった。
 愛のない結婚で生まれた子供にも関わらず、幼い頃から愛情をたっぷり注いでくれた母を、弟であるレオンと共に支え続けた。

 彼女が命を絶ったのは、マクスウェルが十一歳、レオンが九歳の冬だった。

 葬儀の後、母の側近だったメイドが他のメイドと話しているのを聞いてしまった。

「王妃様は、本当は幼馴染の騎士様と愛し合っていたのよ。でも身分の差で引き離されて、政略結婚させられて……」

 愛されないまま妃になり、愛されないまま子を産み、愛されないまま生涯を終えた──国のために。

(こんなこと、間違っている……)

 幼いマクスウェルの心が軋んだ。

 父が政治のためにエイベルを婚約者にしたこと。
 それは、今のマクスウェルの力ではどうにもできない。

「俺は、あんなふうに囚われたりしない。」

 それは、王族という檻の中で自由を求めて叫んだ少年の、最初の決意だった。

 *

 最初はアメリアを“利用する”つもりだった。
 エイベルがアメリアをいじめている、と聞いた時に、それを使えば婚約を自然に破棄できると思ったから。
 自分自身、そしてエイベルも家のしがらみから自由にしてやれる。

 幼馴染であるエイベルに恋愛感情はなかったが、妹のように、そして王家のしがらみに囚われる仲間のように思っていた。

 また、幼い頃から一緒にいたからこそ、彼女に想い人がいることには気づいていた。それが、自分の弟であるレオンであり、彼も同じようにエイベルを想っていることも。

 だから、婚約破棄した方が彼女は幸せになれる……その程度の考えだった。

 ──だけど。

「エイベル様と、お友達になりたいのです!」

 真っ直ぐに前だけを見て告げた少女の瞳の輝きが、どうしても頭から離れない。

 天真爛漫てんしんらんまんで何も考えていなさそう──駒として扱いやすい。
 純粋なアメリアを利用することに、少なからず罪悪感はあったものの、最初はその程度の考えだったのに。

 彼女に、とてつもなく興味が湧いてしまった。

 ……あぁ、困った。

 彼女を手放したくない、そう思ってしまうなんて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。

千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!? でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。 舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。 放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。 そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。 すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。 見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!? 転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店! ※20260116執筆中の連載作品のショート版です。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...