転生したら推しの悪役令嬢……と思いきや、ヒロインでした!推しの断罪を回避したいのに、王太子に溺愛されて困っています!

まりり

文字の大きさ
6 / 15

王太子の秘めた想い

しおりを挟む
 アメリアは咄嗟に一歩後ろへ下がろうとしたが、背中が本棚にぶつかり、逃げ場を失った。

「そ、そんなことありません。ただ……」

 言葉の続きが見つからず、視線が宙を彷徨さまよう。

(どうして避けてるのかなんて……言えるわけないよ!)

 マクスウェルはじっとアメリアを見つめていた。
 いつもの王太子らしい余裕の笑みはなく、どこか不安を帯びた表情で。

「君が俺の側から離れていくのは……正直、嫌なんだ」

「……っ!」

 愛しい人へ向けるような甘い声。
 その響きに、アメリアの鼓動が早まる。

(なんで……どうしてそんな言い方するの? 婚約者はエイベルなのに)

「エイベルと……仲が良さそうで。私は、その……邪魔したくないって思って」

 言えたのは、そこまでだった。

 マクスウェルは、困ったようにほんの少し笑った。

「君は本当に……俺のことを誤解してばかりだね」

 トン、とアメリアの顔のすぐ横にマクスウェルの手が置かれる。
 退路をふさぐように腕が影を落とし、本棚と彼の間にアメリアの身体がすっぽりと閉じ込められた。

 距離は、息が触れ合うほど近い。
 視界いっぱいに整った顔立ちと、どこか切なげに揺れる碧眼へきがんが広がる。

「エイベルは確かに大事な婚約者だ。でも、君が言っていたような……“邪魔だ”なんてことは、俺もエイベルも全く思っていない」

 淡々とした声なのに、妙に胸に響く。

「今はまだ詳しく言えないが……近々、彼女との婚約は正式に破棄するつもりだ。その時には……」

 そこでマクスウェルは、言葉を止めた。

 言えば、すべてが露わになる。
 だからこそ、彼は唇を噛んで飲み込んだ。

 アメリアの呼吸が止まる。

「っ、そんな……何を……」

 否定しようと口を開くが、頭が真っ白でうまく言葉にならない。

(エイベルの婚約破棄は回避できたと思っていたのに……私、何を間違えたの?)

 一瞬の沈黙。

「ごめんなさい……課題、やらなくちゃ」

 震える声でそう言うと、アメリアはマクスウェルの胸を軽く押し、その腕の中から抜け出した。
 そして、早歩きで図書室を去っていく。

 残されたマクスウェルは、その場にズルズルと座り込んだ。

「……っ」

 小さく舌打ちしそうになるのを、寸前で堪える。

 言うはずのなかった言葉。
 言ってはいけないと分かっていたのに、途中で止めてしまった言葉。

『エイベルとの婚約破棄が成立したら……俺と婚約してほしい』

 そんな身勝手な願いが、アメリアにとってどれほど残酷か分かっている。
 彼女が誰よりもエイベルの幸せを願っていることも、痛いほど理解しているのに。

 それでも、自分の腕の中で真っ赤な顔で震えるアメリアを見ると——その願いを、ほんの少しでも彼女に知ってほしくなってしまった。

 何も事情を知らないアメリアにとって、“エイベルと婚約破棄するつもり”というだけでも大きな衝撃だっただろう。

 大切な彼女を傷つけた自分が憎くて。
 エイベルとの“計画”を話せないことがもどかしくて。

 マクスウェルは、指先が白くなるほど固く拳を握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。

千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!? でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。 舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。 放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。 そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。 すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。 見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!? 転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店! ※20260116執筆中の連載作品のショート版です。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...