町娘は王子様に恋をする

くさの

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 長谷川くんが予約を入れてくれたという、会社から一駅向こうにある飲み屋さんの部屋は二十人も入れば十分なお座敷だった。急な予約ではあったがすんなり取れたと、長谷川くんに聞いた。長谷川くんはこういった場合の運が良いように思う。前も急に話を振られてお店を探してみつけて、とやっていた気がする。
 定時組が先行して店に向かう。残業組も一時間ほどで切り上げてやってくるらしい。あれ、想像しているよりも人数が多いのだろうか。
 駅まで歩くあいだ、集まり具合と顔ぶれをちらりと眺める。他部署もいるが仕事上関わることの多い人ばかりで顔見知りばかりだ。ちょっとホッとしつつ、そう言えば羽柴先輩は残業するといっていた事を思い出す。参加の可否を長谷川くんに聞かれて以降、羽柴先輩と書類のやり取りはしたけれどそう言った話をしていないから参加するのかも聞いていない。先輩は好きだろうけど、仕事によるだろうな、といないことに少しほっとしている。
 私の同期は他部署込みで十五人いるけれど、他部署含めてとはいえ八人が集まっていた。先輩の数も同じくらい集まっているので、同期が多いわけではないなと思いながら、よく短時間で集めたものだと前を歩く長谷川くんにねぎらいの眼差しを向ける。
 飲み会とはいっても簡単に同部署や仲の良い人たちで集まってしまう形が多く、部署を越えて仲良くしましょうだとか、注いで回ることも求められない。そんな会社で良かったな、と心底思いながら、やっぱり長谷川くんの店選びの良さと運に感謝する。
 お酒の回った先輩たちは、やはり少々厄介になることもあるから、私は大体同期の塊で端の端にさりげなくいたりする。

「宇佐見はあっちの方がいいと思う」
「え?」

 どの当たりに座ろうかと迷っていると後ろから声を掛けられた。声の主は長谷川くんで、その隣には加宮さんもいた。「おつかれ~」とご機嫌である。
 指された位置は、部屋の端でわいわいする勢とはちょっと離れている。あまりこうやって席の指定のようなことをしてくる人ではないのだけれどと思っていると、長谷川くんの隣で二ヤリとした加宮さんが彼の腕を肘でつついていた。

「長谷川ぁ、なんでうさぎだけ指定なの?」

 うさぎ、とは宇佐見をもじったあだ名だ。小中高と罰ゲームや興味本位で呼ばれたことはあるけれど加宮さんは、かわいいんだからいい、と分かるような分らないような理由で呼んでいる。もちろん仕事の時は宇佐見さん、で通っているからプライベートのときだけなのだけれど。
 同期の女子は、加宮さんこと加宮さんを含めて三人である。三人でランチに出掛けたりすることもあるけれど、一番仲よくしているのは加宮さんだ。
 少し高めだけれどどんな場所ででもよく通る声を持っている。ハーフアップにした明るい髪が肩口で揺れる。首にぶら下げたカメラは趣味と実益を兼ねているという。社内報にも時々写真を提供しているということだ。写し方が自然で、被写体が緊張下にあまりない、その時々の温度や空気を伝えてくるような写真を撮ってくれる。見せてもらう写真はどれも良い顔をしている。
 そんな飲み会に来ているのか写真を撮りに来ているのかどちらとも言えない加宮さんにタジタジなのが長谷川くんである。見ている限り、弱みでも握られていそうなのだが、二人の間柄は同期と友人という他にない。加宮さんは恋人がいるし。

「いや、なんとなく。あの辺りがいいんじゃないかって。言っとくけどな、俺の勘は当たるんだぞ」

 ぐっとサムズアップしてウインクを投げつけられても困る。自信の出処が勘という曖昧なことも拍車をかけているが、もとより長谷川くんの自信ポイントは宇佐見には感じ取りにくいものであったりする。
 直感を信じる、感がいい、というにしてもたまにある長谷川くんのこういった言動には後々驚きと納得をさせられてばかりいるので乗ってみるほかないけれど。

「とかなんとかいって、長谷川が隣に座りたいだけでしょ」

 ずずい、と長谷川くんの隣から私の傍に加宮さんが立つ。こういうやり取りも毎度のことで、私を挟んで二人はがやがや言い合う。
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