きみとふたり

くさの

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drop7:隣に座る_side:彼氏

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 アイツはいつも気付いてない。

 ここ二年くらい、俺がここによくいる理由も、まず居ることすら気付かれてはいなさそうだ。
 今日もきっと気付かれることなくここで今朝来るときにコンビニで買った週刊雑誌を読破して俺は一人で帰ることになるだろう。
 別にそれでもいいと思っている。
 俺に遠慮してなのか、ただ単に待たせることを前提に一緒に帰ろうなんていえる義理じゃないとおもっているからなのか、アイツの口から、一言だって“一緒に帰りたい”という言葉はでたことがない。
 今の今まで。
 アイツの性格からして、登下校一緒というシチュエーションは逃せないはずだと思うのだけれどな。
 まあ、あれか。
 俺が結構笑ったからだろう、いいにくいんだと思う。
 付き合ってみてアイツが可愛い物や少女マンガみたいなシチュエーションに憧れを抱くような奴だってのは分かった。
 今時居るもんだな、とそういえば笑ったのは自分だったんだよな。
 きっとあの時に笑わなかったら、アイツは今だって隠さないで好きなものを好きだと俺に言えてたんだと思う。
 別に今言われても厭きれる気はないけれど、アイツからしたらこれ以上言ったら嫌われる、とか思ってるのかもしれない。
 はい、これはうぬぼれですな。
 雑誌から目を離して、彼女が今居るであろう生徒会室の窓をみる。
 俺がここに居る理由なんて簡単なんだけどなあ。気付いたら案外俺のほうが笑われそう。
 けど、いいや。
 俺、アイツの好きなもの抑えさせるくらい笑ったんだもんな。
 それくらい当然だ。
 ひらり、カーテンが揺れる。
 窓からアイツが顔を出した。
 やばい。雑誌で半分顔を隠す。
 見つかるわけねえか。
 ゆっくりと雑誌をずらしてもう一度アイツをみてみる。
 アイツが、真っ赤に染まった夕日をみてた。
 その姿がとても、綺麗だなんてそんな言葉だけでは治まらない。
 が、一瞬で嫌な感じがした俺はもう一度雑誌を顔にかぶせて寝たフリを決め込んだ。
 しばらくすると、本当にうとうとしてきたけれど、どうにかそれを追っ払う。アイツに気付かれたかも。
 不安になりつつも、そのままでいると少しはなれたところで走ってきた足音が途切れる。
 ゆっくりと近づいてくる足音に、びくびくしながら寝たフリを決め込んだ俺は意地でも目覚める気はない。
 じゃりりと、砂を蹴る音がする。
 雑誌の隙間の下から辛うじて覗くと、ローファーだった。
 アイツ、かな。
 靴の主は少しの間そこで立ち止ったままだった。
 何だよ早くしてくれよ、もしアイツじゃなくて別の奴だったら俺、ここに居る意味皆無なんだけど。
 呆れつつも様子を伺っていると、ゆっくりとその靴の主が深呼吸をした気がした。
 え、何をするつもりだよ。ココロの中で思っていたら、ストン、とすぐ隣に布のすれる感触。
 誰か分からないけれど座った。座りやがった。
 これでアイツじゃなかったら俺、どうなるんだこれ。面倒ごとはごめんだ。
 ゆっくりと、寝ているフリをして呼吸を繰り返す。
 しばらくしてようやく、隣から声が聞こえた。

「こういう時間が、欲しいんだよ、私」

 ああ、お前だったんだ。ようやく安心して、肩の力が抜けるのを感じた。
 俺もだよ、って寝たフリしてるから言うわけにもいかないけれど、いいんだよ。
 俺、お前と居るの苦しくないし、ホントはもっと我侭も言っていんだよ。
 今度、ちゃんと謝っとこう。
 それから、これは俺から言おう。

 一緒に帰ろう、って。


 end.
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