『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ

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第2巻

第15話 年越しの夜

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大晦日。

ルーカスは少し迷った。今夜は閉めるべきか、開けるべきか。

年越しは、家族と過ごす時間のはずだ、この国では。

でも、開けた。

開けたら、来た。

高橋夫妻が来た。

篠田教授が、退院後初めて来た。

佐野が来た。

梶原が来た、音大の友人・木下を連れて。

水月が来た。

香月が一人で来た。

誰かが誰かを呼んだわけではない。それぞれが、それぞれで来た。

カウンターとテーブルが埋まった。

賑やかな夜になった。

ルーカスはグラスを作り続けた。

篠田先生がいつものウィスキー。佐野が海のカクテル。梶原がバジリコ・スプリッツ。香月がブランデー。

深夜十一時五十分になった頃、誰かが「もうすぐ年越しですよ」と言った。

「ルーカスさん、年越しの飲み物って何ですか」

「この国では日本酒がありますね。私の故郷では——」

「故郷では何を飲むんですか」

全員に聞かれた気がした。

ルーカスは少し考えた。

「……蜂蜜酒を飲みます。年が変わる瞬間に、蜂蜜の甘さを飲むと、新しい年も甘いものが続くと信じられていました」

「ミード?」

「似たものです。もう少し複雑な香りがある」

「飲んでみたい」

「この世界では作れないですが——」

ルーカスは少し考えて、近いものを作ることにした。

蜂蜜と白ワインとスパイス、少し温めたもの。

「これが、近いものです。完全に同じではないですが」

全員に小さなグラスで配った。

零時になった。

店の外で、遠くに除夜の鐘が聞こえた気がした。

誰かが「あけましておめでとうございます」と言った。

グラスが重なる音が、地下のバーに響いた。

ルーカスはカウンターの中で、自分のグラスを持った。

新しい年の最初の一口。

蜂蜜と白ワインと、少しのスパイス。

故郷の味ではない。でも、少し似ている。

「……今年もよろしくお願いします」

「こちらこそ」

誰かが言った。みんながそれに続いた。

ルーカスは、この夜のことをしばらく忘れないと思った。
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