『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ

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第3巻

第9話 静香、一人で来た夜

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一月。

優香と一緒に来たあの双子の姉妹——静香が、一人で来た。

「来てしまいました」

「ようこそ」

「やっぱり怖かったです、一人で来るの」

「でも来た」

「来ました」

静香はカウンターの端の席に座った。姉と来た時と同じ席だった。

渇望を見た。

——自分の言葉で、何かを言いたい。

「何を飲みますか」

「前回は何でしたっけ、私のは」

「白ブドウと緑茶のモクテルです」

「それをください。でも今夜はアルコールにしてもいいです」

「少しだけアルコールを加えますか」

「少しだけ」

白ブドウジュースと緑茶の割合を変えて、白ワインをほんの少し足した。香りがわずかに変わった。深みが増した。

「……同じようで、少し違う」

「少しだけアルコールを加えました」

「深くなった感じがします」

「そうでしょう」

静香はグラスを持ちながら、少し窓のない壁を見た。

「姉に、一人で来たと言ったら、驚くと思います」

「言いましたか」

「まだ言っていないです。来てから言います」

「どうして今夜、一人で来ようと思ったんですか」

静香は少し考えた。

「……姉と来るのは楽しいんですけど、姉がいると姉のペースになってしまうんです。私が何か言う前に、姉が話してしまって」

「それは気になっていたんですか」

「気になっているというより……私は私のペースで話したいけど、二人でいると難しい」

「一人でいる方が、自分が出やすいですか」

「そう思います。でもずっと、そういうことを言えなかった。姉のことが好きだから」

「言えない理由がそこにあるんですね」

「好きだから、わがままを言ってはいけない、と思っていて」

ルーカスはグラスを磨きながら、言った。

「好きな人にこそ、言える言葉がある、と思います」

「そうでしょうか」

「好きでない人には、言う必要がないことを言う必要があります。でも好きな人には、思っていることが伝えられる」

「でも傷つけたくない」

「傷つけることと、自分を伝えることは別ですよ」

静香はグラスを傾けた。

「……一人で来たこと、姉に言います。ここが好きで、たまに一人で来たい、と」

「言えそうですか」

「言えると思います。一人でここに来られたんだから」

「確かに」

静香はグラスを飲み終えた。

「ルーカスさんって、誰かに言えないことがありますか」

「あります」

「たとえば?」

「今、大きな決断を迫られていて——誰かに相談したいけど、言える相手が限られているので」

「どんな決断ですか」

「……帰るかどうか、という選択です」

「故郷に帰る、ですか」

「そうです」

静香は少し考えた。

「帰りたいですか」

「分からないです。それが正直なところで」

「分からないまま、どうしますか」

「……もう少し、分からないままでいようと思います。今夜はまだ」

静香は頷いた。

「それでいいと思います」

「そうですかね」

「分からないことを分からないままにしておける人は、強いと思うので」

ルーカスはその言葉を聞いて、少しだけ笑った。

「……ありがとうございます」

「帰らないでほしいな、と私は思います。でも、それはここが好きだからで。あなたが何を選ぶかは、あなたが決めることで」

「正直に言ってくれて、ありがとうございます」

静香は帰り際に、「また来ます」と言った。

「お待ちしています」

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