短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス

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 クラウス・ヴァルビス侯爵は銀の仮面をつけていた。
 顔の上半分を覆っている。表面に細かな装飾が施されたとても豪華な銀の仮面だ。

 そして──。

 仮面に隠れていない口元と顎の線はとても整っていた。あまりに美しいので生きた人間ではないみたいだ。
 美しく輝く金色の髪、引き締まった唇、男らしく力強い顎のライン⋯⋯、すべてが彫刻のようだ。

「あ、⋯⋯あの」
 私は思わず立ち上がりそうになり、ギュッとスカートを握って踏みとどまった。
 視線をどこに置いていいか分からない。銀色の仮面が不気味だと思うべきなのに、そう思う前に見えている顔のあまりの美しさに戸惑った。

「驚かせてしまったな。この仮面のせいだろう」
 クラウスが私に近づいてくる。黒いマントの裾がさらりと床をなぞる音が聞こえた。
 私は慌てて首を横に振った。
「い、いえ。そんな……ただ、思っていたより、あの……」
「恐ろしくなかったか?」
 静かな問いかけだった。けれどその奥に、恐れにも似た緊張がわずかに滲んでいるような気もする。
(きっとたくさんの人に『怖い』と思われる人生だったのね)
 私はまたそっと首を横に振った。
「思っていたより、ずっと……綺麗な方でした」
「綺麗だと——?」
 クラウスの唇がわずかに動いた。微笑んだのかもしれない。それとも何か言いかけて言葉を呑みこんだのかしら?

「この顔には……、戦で負った傷がある。炎に巻かれて生き残った。だが、その代償がこれだ」
 彼は白銀の仮面の表面をゆっくりと指でなぞった。
「見せるつもりはない。恐れられるのはもうたくさんだからな。この顔を怖がらないのはマルタだけだ」
 私は小さく息を吸い戸惑いながらも口を開いた。言わなければいけないことがあったからだ。
「私は恐れません。あなたがどんなお顔でも——。あの、実は⋯⋯、侯爵様との結婚は私にとって逃げ道なんです、だから⋯⋯感謝しています」

 私の言葉を聞くと少しの間クラウスは黙っていた。そしてちょっとだけ温かい響きの声で話し出す。
「了解した。……ならば、我々は対等だな。俺も君には感謝している。この屋敷では自由に過ごしてくれ。やりたいことがあれば何をしても構わない。だが、もしも君が誰かに利用されるようなことがあれば、その相手を俺は容赦はしない。君は今日から俺の妻だからだ。俺が守る——」

「え?」
(守る⋯⋯? 守るなんて言われたの、初めてだわ⋯⋯)

 なぜだろう、胸がほわんと温かくなっていく。
 こうして私とクラウスは夫婦になった。
 そして初夜をむかえた——。
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