アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

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第2話

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「なんでここにいるの?」

 マンションのエントランスに出ると、そこには同じ制服を身にまとった清水がいた。
「お前と一緒に学校行こうと思って」

 当然の事かのように俺を待ち伏せしている清水に若干恐怖を感じる。

「昨日、帰り道後ろにずっと俺がいたの気付かなかった?」
「ストーカー?」

 恐怖だ。こいつのせいで俺の高校生活は終わるかもしれない。

「ばか、俺もここに住んでんだよ。つっても最近越してきたばっかだから知らないだろうけど」
「あぁ、そういうことか」

 清水がストーカーというわけではないことが判明して安心するが、席だけでなく住んでる場所までこいつと近いというのは厄介だ。顔の良さだけ見ればこいつと一緒にいるメリットは大きいが、それを上回るレベルでこいつはおかしい。昨日だけでも嫌というほどそれが身に染みた。
 しかし変人だからといって突然無下にするわけにもいかない。ここで気まずい時間を作れば俺のコミュニケーション能力が疑われてしまう。変人1人からの印象でもどこで広まるかわからない。俺の輝かしい未来のため、どうでもいい清水のことを色々と聞きながら学校までの道のりを歩く。

「そういえば、なんでクラスのグループ入らないんだ?俺以外と交換もしてなかったし」

 ついでに昨日からの疑問をぶつける。清水のSNSのユーザーネームは"清水"も"悠人"も含まれていない適当なもので、アイコンも初期画像、フォローしてるのもされてるのも俺1人だけという、まるでついさっき作ったかのようなアカウントだった。メッセージアプリの方は悠人という名前になっていたが、俺がグループに招待しても一向に参加しないのだ。

「別に、やりたくないってだけ。お前以外と仲良くする気無いし」
「ははっ、そんなに好いてもらえて嬉しいよ」

 全く嬉しくないが、適当に流しておく。

(どうせ見た目で人を選んでるだけだろうし)
「でもクラスのグループは入ってないと連絡事項とか回ってこなくて不便だよ?」
「薫が教えてくれるから大丈夫」
(やっぱりこいつムカつく!なに勝手に決めてんだよ!)

 これで清水に伝達されてないことがあったら俺のせいになるじゃないか。俺は利用される側の人間じゃないのに…!



◆◇◆◇



「早速一緒に登校?仲良しだねー」

 教室に入った途端、女子がニヤニヤしながら俺たちを見る。

「同じマンションに住んでるからね」
「あっ、本当にずっと一緒に来たんだ。マジで仲良しじゃん」

 「きゃーっ」「やばーい」と身を寄せあって喜ぶ女子たちに、なんだか嫌な気分になる。
 これはあれか、腐女子ってやつか?一時期男同士の恋愛ドラマが話題になっていたし、中学でも俺が男と触れ合うと女子たちは喜んだ。しかし俺は同性愛者では無いから、正直言ってそういう扱いは迷惑だ。しかも相手が変人の清水となると、もう寒気がする。ここはやんわりと釘をさしておかねば。

「そーそー、俺ら仲良しだから邪魔すんなよ」
(何言ってんだこいつ?!)

 女子たちを傷つけないよう言葉を選んで否定しようとした瞬間、清水が勘違いを増長させるようなことを言い、俺の肩に手を回してそのまま俺たちの席の方へ連れて行ってしまう。
 そんな俺たちを見て女子たちは「はぁい、おじゃま虫は退散しまーす」と言って離れていく。

(これは、意外とアリかもしれない)

 女子たちの妄想がエスカレートしないよう気を付けて丁度いい距離感で清水とペア扱いされれば、高い地位を保ちながらも面倒事が減らせるのではないだろうか?

(お前もどうせ俺を利用してるんだ。お互い様だろ)



◆◇◆◇



 「これから委員会とクラスの係を決めます。まずは学級委員長を決めたいんだけど、立候補はいるか?」

 クラスの担任が前に立ち全員を見渡すが、誰も手を挙げない。そりゃそうだ、ここで手を挙げれば自ら進んで面倒な仕事をする、"使われる側の人間"とみなされる。そんな惨めな高校生活を誰が送りたいんだ。

「佐野やんねーの?」

 静かな教室で隣の席の川島かわしま 莉久りくが俺に話しかける。俺は入学初日からクラスの中心で積極性を披露していたため予想通りの流れだ。
 そんな川島の一声で一気に俺に注目が集まる。

「どうかな、大変そうだし」

 渋るものの、面倒な役割を押し付けるチャンスを逃すまいと次々と声が上がる。

「佐野ならいけるって!」
「佐野しかいない!」

 そんな生徒たちの声に担任も「おっ、佐野やるか?」なんて言ってくる。しかしここで引き受けると押せば言うことを聞く人という認識になってしまう。それではダメだ。

「そんなこと言ったら迷ってる人が手挙げられないじゃん。先に書記を決めて時間置いた方がいいんじゃないですか?」
「確かになぁ。じゃあ書記やってくれる人ー?」

 俺の提案にすんなり乗った担任が書記を募る。字の綺麗さに自信があれば比較的楽な仕事である書記はすぐに何人かの女子が手を挙げてじゃんけんで決定した。
 そして再度委員長決めだ。

「本当に立候補いないかー?最悪くじ引きになるぞー」

 担任の再びの声掛けにも反応する者はいない。そして全員に委員長になる可能性を持たせる最悪の発言にみんなが怯える。

「なぁー、佐野やってくれよぉ頼むよぉ」

 ついに耐えきれなくなった川島が懇願し始めた。他の生徒たちも俺を縋るような目で見ている。

(そろそろいいだろう)
「本当にやりたい人いないならいいよ俺で。その代わりみんな協力してね」
「するするめっちゃする!ありがとおぉぉぉ」

 川島を筆頭に俺への感謝が集まる。担任も長引きそうな委員長決めが問題なく決まったのでホッとした顔をしている。

「じゃあ委員長は佐野で決定していいか?」
「「はーい!」」

 不安が無くなり生き生きとした生徒たちの声とともに、俺は学級委員長に就任した。



 学級委員長として早速担任から進行を任され、黒板の前に立つ。これから時間内に残りの役職を全て決めなければならない。

「それじゃあ副委員…」

 言い終わる前に手を挙げてるやつがいる。みんなが呆気に取られているうちにやつはズカズカと黒板に近付き、書記の横山よこやま 穂花ほのかがまだ書き途中の[副委員長]の欄に自分の名前を書く。

「俺でいいな?」

 強引な行動と威圧的な態度に誰も異を唱えられない。まるで恐ろしい独裁国家の国王のような振る舞いの清水を前に教室からは笑顔が消えた。

「「はい…」」

 こうして副委員長は清水悠人に決まった。



 その後の委員・係決めは川島や横山さんの協力と清水の威圧感によってグダつくことなくスムーズに終わった。俺の委員長デビューとしては上々の滑り出しではないだろうか。この調子で行けばすぐにここは俺の理想のクラスになるだろう。皆から愛され思いやりに溢れた、そんなクラスだ。
 清水の行動が読めないのが少々不安だが、中学でも上手くやれたんだ。ここでもきっと上手くいく。
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