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第67話
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久々の再会にしばらくお互い目を丸くしていた俺たちだったが、大輝は伊藤に掴まれた手を見るとすぐに顔を顰めて力づくでその手を剥がす。
「あ?んだよお前」
「大丈夫ですか?佐野先輩」
悪態をつく伊藤を気にもとめず、大輝は俺のことを心配してくる。
「一緒に帰りましょ」
「え、ちょっと」
そうして俺は大輝に腕を引っ張られてそのまま店を出てしまった。
(明日伊藤に代金渡して謝んないとな…)
抵抗しようと思えばできたはずだが、こうして無理やり酔っ払いの伊藤と引き剥がしてくれるのがありがたくてついてきてしまった。
「別の店で同僚と飲んでたんですけど、外から佐野先輩の姿が見えたんで飛んできちゃいました」
そうやって嬉しそうに語る大輝は高校の時と全く変わらない。大輝との思い出は割と面倒なものばかりだが、懐かしさに思わず頬が緩む。
「ていうか、清水先輩はいないんですか?あの人が引っ付いてないの珍しい…もしかして別れたんですか!?」
大輝は期待の籠った目でキラキラと尋ねてくるが、俺の返答ですぐにその輝きは引っ込む。
「別れてないよ」
「えー、まだですかぁ?」
まだ…もし俺の疑いが真実だったとしたら、大輝にとっては嬉しい展開になるんだろうな。
でもどうなんだろう。たとえ本当に浮気をしていたとしても、悠斗から捨てられるまで俺は気付いてないふりをし続けるだろう。大輝も伊藤も素の俺を知って好いてくれているわけじゃないし、悠斗の代わりになる人はいないから、ギリギリまで悠斗に縋っているしかない。
(できることなら一生別れたくないし。というか、悠斗と別れるくらいなら死んだ方がマシ)
そんな暗い気持ちを隠し、大輝と他愛もない話をしながら駅に向かう。
外資系の企業で働いてるとか、そういえば外国語に強い大学行ってたねとか、特に興味もない大輝の情報を交わして時間が流れてゆく。
「卒業式の日に佐野先輩に貰ったボタン、自分のと付け替えてずっと付けてたんですよ。取れないように、糸でめっちゃぐるぐる巻きに縫い付けました」
「ははっ、どう?ほつれなかった?」
「バッチリです!今も保管してますよ」
高校の話なんて何年ぶりだろうか。
適当に渡したあの小さなボタンがそんなことになっていたなんて笑ってしまう。
「今度ご飯行きましょうよ!大和兄も会いたがってるし」
「そうだね。今度連絡して」
そうして駅に到着し、それぞれ別の路線だということにホッと胸を撫で下ろす。
「清水先輩が嫌になったらいつでも言ってくださいね!」
相変わらずのセリフで大輝と別れ、電車に乗って家までとぼとぼと歩く。先程までは大輝のお喋りで気が紛れていたが、一人になって家が近付くたびに嫌な想像をしてしまう。
玄関を開けたら女物の靴があったりして…ソファーの隙間にアクセサリーが落ちてたりして…洗面所にヘアゴムとか化粧品が置いてあったり…寝室から女の喘ぎ声が聞こえたらどうしよう。
(あぁ嫌だ。悠斗のあの熱い視線が俺以外に向けられているところなんて見たくない)
どんどん悪い方向に転がっていく想像に、目の前の玄関を開ける力を奪われてゆく。
ただドアノブを見つめ、俯いて立っている今の俺ははたから見たら完全に不審者だろう。だがこのドアを開けるのが怖い。想像が現実になってしまったらどうしよう。
そんなことを考えていると、突然目の前のドアからガチャっと音が聞こえた。
「痛っ」
「あ、ごめん」
なんか前にもこんなことあった気がする。もうドアの前で考え事するのやめよう。
ジンジンと痛む頭頂部を擦りながら、俺は悠斗に手を引かれて部屋の中へ入った。
玄関に女物の靴が無いことにひとまずホッとするが、それでも不安感は消え去らない。
「ベランダから薫が見えたけどなかなか入ってこないからさ、なんかあったのかと思って…」
申し訳なさそうに説明する悠斗の言葉を遮るように、俺は悠斗の首に腕を回して唇を重ねた。すると悠斗はすぐに俺の腰に手を回して抱きしめ、口付けが深くなる。
「明日も仕事だから、1回だけな?」
お互いの口を繋いでいる透明な糸を眺めながら悠斗の言葉に頷くと、そのまま寝室へ運ばれる。
◆◇◆◇
シャワーを済ませて寝室に戻ってきても、悠斗はまだ寝ていなかったようだ。もうだいぶ遅い時間だというのに…こういう姿を見ると、やっぱり大切にされていると感じる。
「ごめんね、さっき首噛んじゃって」
ベッドに入って悠斗の首のホクロの辺りを撫でながら、先程の行為中に思わず痕をつけてしまったことを謝る。
ここはシャツを第1ボタンまで留めてもギリギリ見えてしまう位置だ。
「いいよ。そんな強くなかったから、そこまで痕にはならないだろ」
特に気にする様子もなく発する悠斗の言葉に安心したが、少し残念な気もする。
そして、あの歯型を香水の女が見たらいいのにと少し期待してしまっていたことに気がつき、自分の意地汚さが恥ずかしくなって布団を頭から被った。
悠斗はそんな俺を見てもう寝たのだと判断したようで、横から俺を優しく抱きしめて規則正しい寝息をたて始めるが、俺は不安ばかりが浮かんできて眠れそうにない。
いっそこんなこと考えられないくらいに、もっと激しく一晩中抱いてくれたらよかったのに…しかし悠斗に迷惑をかけるわけにもいかない。1回してくれただけでも十分俺のわがままに付き合ってくれたんだから。
そうして俺は一人悶々としながら、布団と悠斗の暖かさに包まれて朝を待った。
「あ?んだよお前」
「大丈夫ですか?佐野先輩」
悪態をつく伊藤を気にもとめず、大輝は俺のことを心配してくる。
「一緒に帰りましょ」
「え、ちょっと」
そうして俺は大輝に腕を引っ張られてそのまま店を出てしまった。
(明日伊藤に代金渡して謝んないとな…)
抵抗しようと思えばできたはずだが、こうして無理やり酔っ払いの伊藤と引き剥がしてくれるのがありがたくてついてきてしまった。
「別の店で同僚と飲んでたんですけど、外から佐野先輩の姿が見えたんで飛んできちゃいました」
そうやって嬉しそうに語る大輝は高校の時と全く変わらない。大輝との思い出は割と面倒なものばかりだが、懐かしさに思わず頬が緩む。
「ていうか、清水先輩はいないんですか?あの人が引っ付いてないの珍しい…もしかして別れたんですか!?」
大輝は期待の籠った目でキラキラと尋ねてくるが、俺の返答ですぐにその輝きは引っ込む。
「別れてないよ」
「えー、まだですかぁ?」
まだ…もし俺の疑いが真実だったとしたら、大輝にとっては嬉しい展開になるんだろうな。
でもどうなんだろう。たとえ本当に浮気をしていたとしても、悠斗から捨てられるまで俺は気付いてないふりをし続けるだろう。大輝も伊藤も素の俺を知って好いてくれているわけじゃないし、悠斗の代わりになる人はいないから、ギリギリまで悠斗に縋っているしかない。
(できることなら一生別れたくないし。というか、悠斗と別れるくらいなら死んだ方がマシ)
そんな暗い気持ちを隠し、大輝と他愛もない話をしながら駅に向かう。
外資系の企業で働いてるとか、そういえば外国語に強い大学行ってたねとか、特に興味もない大輝の情報を交わして時間が流れてゆく。
「卒業式の日に佐野先輩に貰ったボタン、自分のと付け替えてずっと付けてたんですよ。取れないように、糸でめっちゃぐるぐる巻きに縫い付けました」
「ははっ、どう?ほつれなかった?」
「バッチリです!今も保管してますよ」
高校の話なんて何年ぶりだろうか。
適当に渡したあの小さなボタンがそんなことになっていたなんて笑ってしまう。
「今度ご飯行きましょうよ!大和兄も会いたがってるし」
「そうだね。今度連絡して」
そうして駅に到着し、それぞれ別の路線だということにホッと胸を撫で下ろす。
「清水先輩が嫌になったらいつでも言ってくださいね!」
相変わらずのセリフで大輝と別れ、電車に乗って家までとぼとぼと歩く。先程までは大輝のお喋りで気が紛れていたが、一人になって家が近付くたびに嫌な想像をしてしまう。
玄関を開けたら女物の靴があったりして…ソファーの隙間にアクセサリーが落ちてたりして…洗面所にヘアゴムとか化粧品が置いてあったり…寝室から女の喘ぎ声が聞こえたらどうしよう。
(あぁ嫌だ。悠斗のあの熱い視線が俺以外に向けられているところなんて見たくない)
どんどん悪い方向に転がっていく想像に、目の前の玄関を開ける力を奪われてゆく。
ただドアノブを見つめ、俯いて立っている今の俺ははたから見たら完全に不審者だろう。だがこのドアを開けるのが怖い。想像が現実になってしまったらどうしよう。
そんなことを考えていると、突然目の前のドアからガチャっと音が聞こえた。
「痛っ」
「あ、ごめん」
なんか前にもこんなことあった気がする。もうドアの前で考え事するのやめよう。
ジンジンと痛む頭頂部を擦りながら、俺は悠斗に手を引かれて部屋の中へ入った。
玄関に女物の靴が無いことにひとまずホッとするが、それでも不安感は消え去らない。
「ベランダから薫が見えたけどなかなか入ってこないからさ、なんかあったのかと思って…」
申し訳なさそうに説明する悠斗の言葉を遮るように、俺は悠斗の首に腕を回して唇を重ねた。すると悠斗はすぐに俺の腰に手を回して抱きしめ、口付けが深くなる。
「明日も仕事だから、1回だけな?」
お互いの口を繋いでいる透明な糸を眺めながら悠斗の言葉に頷くと、そのまま寝室へ運ばれる。
◆◇◆◇
シャワーを済ませて寝室に戻ってきても、悠斗はまだ寝ていなかったようだ。もうだいぶ遅い時間だというのに…こういう姿を見ると、やっぱり大切にされていると感じる。
「ごめんね、さっき首噛んじゃって」
ベッドに入って悠斗の首のホクロの辺りを撫でながら、先程の行為中に思わず痕をつけてしまったことを謝る。
ここはシャツを第1ボタンまで留めてもギリギリ見えてしまう位置だ。
「いいよ。そんな強くなかったから、そこまで痕にはならないだろ」
特に気にする様子もなく発する悠斗の言葉に安心したが、少し残念な気もする。
そして、あの歯型を香水の女が見たらいいのにと少し期待してしまっていたことに気がつき、自分の意地汚さが恥ずかしくなって布団を頭から被った。
悠斗はそんな俺を見てもう寝たのだと判断したようで、横から俺を優しく抱きしめて規則正しい寝息をたて始めるが、俺は不安ばかりが浮かんできて眠れそうにない。
いっそこんなこと考えられないくらいに、もっと激しく一晩中抱いてくれたらよかったのに…しかし悠斗に迷惑をかけるわけにもいかない。1回してくれただけでも十分俺のわがままに付き合ってくれたんだから。
そうして俺は一人悶々としながら、布団と悠斗の暖かさに包まれて朝を待った。
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