アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

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おまけ1

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 スマホで解説動画を見ながら、それを真似して毛糸とかぎ針を動かしてゆく。何度もシークバーを戻しながら少しずつ進めてゆき、やっと少し慣れてきたところだ。

「何してんの?」

 昼前にやっと起きてきた悠斗が、ソファーの後ろから覗き込んで尋ねてくる。

「カワウソたちに防寒させてやろうと思って」

 高校の通学用リュックにつけていたカワウソのキーホルダーは、大学に入ってからは悠斗の部屋に並べて留守番させている。3年間つけていたからそろそろ耐久性が心配だったのだ。
 そしてつい先日、最近女性たちの間で編み物が流行っていると知り、興味が湧いた。
 SNSで出てくるような凝ったものは難しそうだが、ぬいぐるみのマフラーくらいならできるだろう。そう思って手芸店でアイテムを揃え始めてみたのだが、なかなか面白い。

「悠斗もやってみる?」

 ぼーっと俺の手元を眺めていた悠斗に提案すると、コクンと頷いて隣に座ってきた。
 悠斗もやるかと思って一応かぎ針を2本購入しておいたのだ。それを袋から取り出し、毛糸の持ち方とかぎ針の使い方を教える。

「悠斗ってさ、器用なのか不器用なのかよくわかんないよね。なんでそうなるの?」

 同じ編み方を繰り返すだけなのに、しばらく自分の編み物に集中してから悠斗の手元を見てみると、どうしてそうなるのかわからないほどぐちゃぐちゃだった。一応編めてはいるがぐにゃぐにゃに曲がっており、毛糸も絡まりまくっている。
 普段料理では繊細な包丁捌きを見せているのに、編み物ではこれか。

(そういえば悠斗の器用さって料理でしか発揮されないよな)

 オムライスの上にはケチャップで綺麗に絵や文字を書けるのに、紙とペンでは下手くそだし。
 そういえばバスケ部でも体育の授業でも、運動能力が高いから全て上手くこなしていたが、基本力任せというか乱暴というか…やっぱりこう考えると悠斗は不器用だ。しかし包丁での飾り切りとかはすごく上手い。一体なんなんだろうかこいつは。
 不思議に思って観察していると、悠斗はテーブルにぐちゃぐちゃの編み物を置いて天を仰いだ。

「もういい、飽きた」

 悠斗はそう言ってキッチンへ移動し、お昼ご飯の準備を始める。

(すぐ飽きる割に料理だけは集中してやるんだから…)

 料理中の悠斗に話しかけても無視されることが多々ある。悠斗は料理に対してはそれくらい集中してしまうのだ。
 無視されるのは悲しいが、それくらい熱中できる趣味があるのは羨ましい。
 俺はいつも趣味を聞かれると困ってしまうくらいに無趣味なのだ。無難に音楽とか映画やドラマが好きだと答えているが、世間で人気なものを履修する程度だから深掘りされると困る。
 バスケは中高6年間やっていたが今はやっていないし、試合を観に行ったりするわけでもない。
 いわゆる"にわか"というやつなのだ。何に対しても。毎回「おすすめ教えて」と言って相手に語らせてなんとか凌いではいるが、次に会った時に「聴いた?」「観た?」と聞かれるからそれはそれで面倒だ。

(この際編み物を趣味にするか…いや、公言するには女性的すぎるな)

 そんなことを考えながらも手を動かしていると、ようやくぬいぐるみ用の小さなマフラーが完成した。
 ベージュの毛糸で編んだマフラーを焦げ茶色のカワウソに巻いてやると、冬らしい装いになり大変愛らしい。
 可愛らしさと達成感に満足してそのカワウソを眺めていると、悠斗がダイニングテーブルに料理を置き始めたためそれを手伝いに行く。

「見てよ、可愛くない?初めてにしては上出来だと思う」
「あぁ、編み物してる薫可愛かった」
「カワウソを見ろ」

 昼食を食べながらカワウソのマフラーを自慢するが、悠斗はあまり見てくれない。俺のことはまじまじと見ているが…

「もっとカワウソにオシャレさせたいな」

 俺はカワウソを眺めながらそう呟く。マフラーは長方形を編んだだけだし、いつか柄を入れたり、帽子や服なども編んでみたい。

「ぬい活ってやつ?」
「ぬい活とは違うんじゃない?あれってぬいぐるみを持ち歩いて写真撮るやつでしょ」
「そっか。持ち歩かないの?」
「そういうのって女子の趣味じゃん」
「へぇ」

 そんな話をしながら食事を終え、洗い物をしてからまた編み物を始める。今度は薄茶色のカワウソに焦げ茶のマフラーを編んでやるのだ。
 そんな俺の様子を悠斗はじーっと見続ける。

「なんかしたら?」
「薫を見てる」
「いや、見てないでなんかすればいいじゃん」
「薫を見るのが俺の趣味だから」
「なにそれ」

 なんだその趣味は。せっかく授業もバイトも無い日なのに俺を見て時間を潰すのか。

(まぁ悠斗が俺を見つめるのはいつものことだけど…)

 この突き刺さるような視線にももうすっかり慣れてしまった。
 そこでふと、もし俺が悠斗と付き合っていなかったらどうなっていたんだろうかと頭に浮かぶ。
 悠斗との出会いは強烈で最悪だった。距離の詰め方が異常で強引だし、最初から独占欲丸出しで…もしもあの場に悠斗並の容姿の男が他にいたら、俺は迷わずそいつを取って悠斗を遠ざけていただろう。
 もしそうなっていたら、悠斗は確実に粘着ストーカー化していたと思う。今も付き合っているから問題になっていないだけであって、行動だけ見れば普通にストーカーだし。
 もしも俺たちが結ばれていなかったら、きっと悠斗はストーカー行為がどんどんエスカレートして最終的には…そこまで考えて寒気がして思考を止める。

「悠斗と付き合ってほんと良かった」

 ぽつりと呟いて、チラッと隣を確認してみると、悠斗がにやにやとしながらどんどん近付いてくる。そしてガバッと抱きついて頬や頭にキスの雨を降らせてくる。

「あーもうマフラーぐちゃぐちゃになる!」

 俺は文句を言いつつもテーブルに作りかけのマフラーとかぎ針を置き、悠斗の背中に手を回した。するとその次の瞬間押し倒され、そのまま舌が絡み合う。
 悠斗は客観的に見たらだいぶ重いが、その分俺も重いんだから釣り合いは取れている。
 大学で周囲にたくさんのカップルがいるが、俺たちほど重く愛し合っているカップルはおそらくいない。
 ここまでぴったりな相手と出会えたことは、きっと俺の人生で一番の幸福なのだろう。
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