アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

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おまけ2-1(悠斗視点)

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 授業を受けて、たまに図書館で課題の調べ物をして、バイトをして、ご飯を食べて、一緒に寝て…高校の時よりもずっと薫と一緒にいられる日々はとてつもなく幸せだ。
 たまに俺の服を着て大学に行く薫も可愛い。俺と薫は身長差が3cmしかないから俗に言う"彼シャツ"みたいな感じには全くならないが、それでも可愛い。

 そんな幸せな日々はあっという間に過ぎ、今日はついに俺の20歳の誕生日だ。そのため、今は2人でコンビニでお酒を選んでいる。薫は春生まれのためとっくに20歳は過ぎているが、今日までお酒を飲まずに待っていてくれたのだ。大学の連中に飲みに誘われても、上手く躱してくれていた。

「ほんとにコンビニのでいいのか?もっと良いお酒の方が記念になんじゃない?」

 ドリンクコーナーの前で吟味している薫に尋ねる。
 ちゃんとプロが選んでくれるお店に行ってもいいのに、こんなところで済ませてしまって本当にいいのだろうか。

「いいの。高いの買ってもし2人とも飲めなかったらどうすんの?」
「そっか、確かに」

 そうして薫は「これ気になってた」とよくCMで流れているレモンサワーを選び、俺はカシスオレンジにした。
 正直言ってもっとちゃんとしたお酒を飲んで薫の前でカッコつけたい気持ちもあるが、飲めなかったら恥ずかしい。薫のことだからきっと「だから言ったじゃん」と呆れた顔で俺を見るはずだ。まぁそれはそれで可愛いが。

 俺が夕飯を作っている間、薫は一度家に戻りしばらくしてからうちにやって来て、慣れた手つきでテーブルをセットしてくれる。
 思えばこの家はすっかり2人暮らしらしくなってきた。正確には半同棲だが、ずっと1人分の物しか無かった家が随分と変わった。食器も2人分のセットで揃えているし、テーブルの飾りも薫のセンスだ。今のこの家なら薫がいない時でも寂しくない。

(いや嘘。ずっといてほしい)

 家に愛する人がいるというだけで心が満たされる。
 そんな幸せな気持ちで薫を眺めていると、俺の視線に気付いた薫は不思議そうにしながらも微笑みを返してくれる。

「じゃあ、乾杯!」
「乾杯」

 それぞれのお酒を注いだグラスを合わせて音を鳴らすと、薫が机の下から小さな箱を取りだした。

「はいこれ、お誕生日おめでとう」
「え、ありがとう」

 渡された箱を開けてみると、中には品のいい万年筆が入っていた。

「20歳だから、大人の男的な?悠斗がこれ使ってたらかっこいいかなって」
「ありがと。めっちゃ使う」

 そう言って万年筆を胸に抱くと、薫が笑う。
 また宝物が増えた。薫はいつもプレゼントのセンスがいい。
 良い気分でグラスに口をつけると、僅かにアルコールの独特な香りがした。アルコール3%ならジュースみたいなものだと聞いたことがあるが、それでも匂いでわかるものだな。

「薫、どう?初めてのお酒」
「んー、美味しいよ。レモンの味。飲んでみる?」

 薫の提案で互いのグラスを交換して一口飲んでみると、先程より少しだけアルコールの苦味を強く感じた。

「こっちも美味しいね」
「俺そっちがいい。返して」
「はい」

 薫から返されたカシスオレンジを飲むと、レモンサワーの苦味が流されてほっとする。缶を見てみると、薫が飲んでいるのはアルコール5%だ。だから俺のより苦いのか?

(もしかして、俺って酒弱いのか?)

 いや、俺は元々甘い物の方が好きだから、単に苦味が嫌いなだけだろう。きっとそうだ。
 イメージ的に、薫の方が酒に酔ってぽやぽやになるもんだと思っていたが、なんか普通にレモンサワーをごくごく飲んでいる。酔った薫の介抱は俺がしたいんだが…

 しかしそんな想いも虚しく、缶を1本飲みきった頃には俺は顔がほんのり赤くなり、ぼーっとして瞼も重くなってきた。イキって強い酒買わなくて本当に良かった。

「悠斗ー、寝ちゃうの?」
「んー」

 なんだか薫は全然平気そうだ。ぽやぽやした薫を見てみたかったのに、もう眠い。どんどん体がソファーに沈んでゆく。

 気がつくと部屋が暗くなっており、肩にはブランケットが掛けられていた。

(俺そんなに寝てたのか…?)

 部屋を見回してみればテーブルもキッチンも片付いており、薫が全部やってくれたことに気がつく。
 もう薫は帰ってしまっただろうか。
 寂しさを感じながら寝室に入ると、布団が盛り上がっていた。まだ帰らずにいてくれたことに心が踊りつつも、薫を起こさないようにそっと隣に寝そべる。

(あーあ、こんなに酒弱いとか情けないな)

 そんなことを考えながら薫の寝顔をまじまじと観察する。もう何度も一緒に寝ているが、いつ見ても胸が締め付けられる可愛さだ。
 そうして癒されながら、俺は再び眠りについた。

「まさか悠斗がお酒弱いとはねー」

 翌朝、大学に向かう道でさっそく昨日のことを薫にからかわれる。

「川島と村瀬が今度4人で飲みに行こって言ってるよ。あと駿も遊ぼって」

 駿はわからないが、川島と村瀬だったら絶対盛大にからかってくるだろうな。今からもうウザい。

(けどまぁ薫に介抱されるのもいいか)
「いいんじゃね」

 俺の返答に薫は少し眉を上げて驚く。

「珍しく乗り気じゃん」
「いっぱい飲むわ」
「飲むな」

 薫に小突かれてしまったが、なんだかこういうやり取りがいちいち幸せだ。
 この先もずっとこうして暮らしていけたらいい。



◆◇◆◇



「川島たちそろそろ着くって」

 川島たちとの約束の日、2人より早く授業が終わった俺たちは集合予定の駅のカフェで時間を潰していた。
 そして川島たちと合流するため、テーブルを片付けて改札の方へ向かおうとしたところで、薫のスマホに電話がかかる。

「駿からだ…もしもし?」

 薫は歩きながら応答する。
 大学進学で鹿児島から上京してきた駿は時折こうして薫に電話をかけてくる。単に遊ぼうという誘いのことも多いが、それよりもっと多いのは助けを求める電話だ。薫の反応からして、今回は後者のようだ。

「は?新宿駅から出たら目の前に新宿駅がある?あーそれは高速バスの乗り場だよ。違う、時空が歪んでるわけじゃない。違うって…」

 どうやら駿も俺たちと同じ駅にいるらしい。都民からしても複雑なこの駅で、田舎から出てきてまだ2年経っていない駿に口頭で道を伝えるのは難しい。薫は頭に手をやりながら説明するも、ため息をついて電話口から顔を離し「ごめん、駿迎えに行っていい?」と聞いてくる。

「ありがとなぁ。乗り換えでわけわかんなくなって、1回外出てみたらもっとわかんなくなってさー」
「なんで1回出るの」

 合流した駿はいつも通りペラペラと喋り出し、薫は若干呆れている。

「悠斗もわざわざありがとな!…ところで、あいつら何?」

 駿の笑顔が真っ直ぐ俺に向けられたかと思うと、その視線はすぐに俺の後ろへ向かう。
 駿の問いかけを不思議に思い、俺と薫は揃って駿の視線の先を追った。
 するとそこには、柱の影から顔を出しこちらを覗き込む川島と村瀬がいた。そして2人は俺たちの視線に気がつくと、ハッと驚いた顔をして柱に隠れてしまった。
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