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1巻
1-2
次に、この国の歴史を教えてもらった。
この国はノルシュタイン王国という名前らしい。
かつて大陸中を巻きこんだ戦争があり、当時小国であったノルシュタイン王国は周りの国と手を取って、戦争を始めた帝国を討ち、平和を取り戻したと言う。
そのとき、疲弊した国を元の豊かな国に戻すため、そして民を飢えから救うために、当時の国王は精霊に豊穣を願った。その国王は精霊の愛し子だったらしい。
「精霊! 私も会える?」
「素質があれば精霊を見ることはできますよ。庭園や森など、自然が多い場所に行けば会えるでしょう」
「すごい、会ってみたいな~」
だって精霊だよ? ファンタジーの定番でしょ!
また、王宮には、精霊と契約するとなれる『精霊術師』という役職の人がいるようだ。
契約した精霊によって仕事がだいぶ違って、魔物狩りのような戦いから地質調査みたいな調査研究など幅広い役割を担っていて、王国の人気職のひとつらしい。
歴史のあとは魔法のお勉強。
主に火、水、土、光、闇の五属性があり、闇と光はレアなんだって。そして上級魔法といって、ふたつ以上の属性を極めることで使えるようになる雷、風、氷の属性もあるとのこと。
また、魔力が少なくて魔法が使えない人や属性が少ない人は、魔法をこめた魔石を使って生活しているらしい。
あと、五属性や上級魔法に分類されない無属性魔法やユニーク魔法がある。
無属性魔法は身体強化や索敵とか、魔力の多さによって容量が決まるアイテムボックスなども含まれる、魔力さえ持っていれば使える魔法。
一方、ユニーク魔法はテイム魔法とか、持っている人が限られていて後天的に身につくことはない魔法。職業を選ぶ際にひとつの指標にもなる魔法の類だ。
ステータスを見る限り多分私は全部使える……
改めて自分のチートっぷりを思い知った。
魔法を使うための基本中の基本である魔力操作のやり方を教えてもらう。
目を閉じて、身体中を魔力が循環しているイメージを持つ。そうすると、だんだん体がポカポカしてきた。
「それが魔力です。常に循環するイメージを持ち、そのポカポカを忘れずにいてくださいね」
コツを掴んだら危険度の低い水と土を教えてもらった。
体を流れる魔力がそのまま手のひらから流れ出るイメージで、魔力を回してみる。うんうん唸りながら念じるように手のひらに魔力を集めると、
「で、出た! 水出た!」
ちょろちょろではあるものの、水が出た。なんかすごい感動する。
コツを掴むのが結構早かったのか、レイファスさんも目をまんまるにして驚いていた。
この世界の大多数の人は一属性、多くて三属性までしか使えず、それは生まれたときから決まっていて増えることはないそうだ。だから三属性あれば平民でも王宮で『魔法師』として働けるらしい。
レイファスさんは水しか使えないから、土属性を使える団員さんが来て教えてくれた。これが意外と難しい。
土=個体ってイメージが頭から離れなかった結果、うまく土魔法が発動できなかった。
だってさ? 水は流れを意識すればいけたけど、土ってどうイメージすればいいの?
「うーん、土属性は持っているようだから使えるとは思うんだけど……あ、そうだ! 地面に手をつけてみて。そのまま地面の土に干渉する方向で感覚を掴んでみよう」
「はい!」
両方の手のひらを地につけて魔力を流しこんでみる。ひたすらに流し続けると、少しずつ魔力が土を覆い始めた。このままこの魔力で土を包んで宙に投げる!
「てや! あ、できました!」
ボコ! と大きな音を立てて、土の塊を放り投げた。
水属性みたいにスムーズではなく、苦戦したこともあって、思わずはしゃいで団員さんとハイタッチする。その様子をレイファスさんが微笑ましそうに見ていることに気づき、恥ずかしくなってしまった。前世を合わせると、多分私のほうが年上……
「いいですか、ノエル。魔法はイメージが一番重要です。イメージが強固なものであればそれだけ強い魔法を使うことができます」
「呪文とかいらないの?」
「呪文はあくまでも補助。なくても発動できますよ。ただそのためには、使いたい魔法のイメージを強く保つことが必要です。これはかなり難しく、今王宮にいる魔法師でも、少なくとも一節は詠唱が必要です」
呪文ってなんか恥ずかしいから目指せ無詠唱! もしくは技名だけ!
初めて魔法を使ってから一年と少し。
なんと全属性ちゃんと使えるようになりました!
水と土をマスターしたあと、次に私が取り組んだのは光。光属性は主に回復とか解呪とかだった。光属性を極めると完全回復が使えるようになって、死んでなければどんな怪我でも治せるんだって。
ここで役に立ったのは日本人だったときの記憶だ。理科の授業で体の仕組みを習っていたから、すぐにコツを掴んでできるようになった。
というのも、光属性による回復魔法は体の構造を理解したうえで、怪我をした箇所に魔力を流す必要があるからだ。
ただ、練習は怪我人相手ではないとできないので、訓練で怪我した団員さんを回復させることで魔法の練度を上げている。なんでもルイさんたち王国騎士団と王宮魔法師は仲が悪く、訓練でできた小さな怪我にはわざわざ回復魔法をかけてもらえないらしい。
かと言って、教会で治してもらおうとするとお金がかかるので、自分で手当てして治るのを待つしかないそうだ。
今この国に光属性が使える人は十人いるか、いないか、らしい。少ないね……
一応この世界にもポーションはあるみたいだけど、残念なことに、吐きそうなほどまずいらしい。私も試しに低級HP回復ポーションを飲んでみたら、あまりのまずさに吐きかけた。意地でも出さなかったけど。
それから続けて習得したのは、闇。
闇っていうと負の印象がどうしても強くて、何ができるのか早めに知っておかないと怖かったんだよね。やっぱり知らない力って、何をしてしまうかわからなくて恐ろしいから。
どうやら闇属性は呪とかができるから畏怖の対象になっていて、それを理由に隠している人が多く、ほかの属性に比べて研究があまり進んでいないらしい。
でも、使っていく中で意外と使い勝手がいいことがわかった。
……実は闇属性、影を操れるんです!
この魔法があれば、狩りのとき獲物を安全に捕まえられるから便利!
あとは自分よりレベルの低い魔物や魔獣を使役できる。これは、一方的な契約はできないテイム魔法とは違って、隷属扱いとして問答無用で配下にできるというものだった。
このふたつを習得したあと、残りの火属性と雷、風、氷属性の上級魔法も習得した。
魔力が多いと、一回に使う量をかなり注意しないといけなくて感覚を掴むのが大変だった。
お気に入りは氷魔法。これでお花とか作るときれいなんだよねぇ。
氷魔法で作った髪飾りに、溶けたり簡単に壊れたりしないように無属性魔法の一種である固定魔法をかけて、髪留めとして使っている。髪が長くて剣の稽古のとき邪魔だったんだよね。
私は桜が大好きだったから、デザインを悩み抜いて、桜をモチーフにした可愛いのを三日かけて作ったんだ!
満足のいく一品ができたことがうれしくてルイさんとレイファスさんに見せたら、めちゃくちゃ抱きしめられてちょっと苦しかった。
もちろん剣の稽古もしてたよ?
最初は、魔法の訓練と並行してやろうと思っていたけれど、あまりの大変さに断念。先に魔法の訓練をして、ある程度上達してから剣の訓練を始めた。
最初は体力作りと素振り。
ずっと木剣を型通りに振り下ろすだけ。何か月も経ってやっと体に型が染みついたら、あとは実践あるのみということで、手加減ありの手合わせをひたすら続けた。
途中から成長速度アップの魔法を作ってみた。ちょっとズルかな? って思ったけど、いつまで保護してくれるかわからないし、早く自立できるに越したことはないからね。
そして、保護されてからいつの間にか二年の月日が経っていた。
私は今、教会へ来ています。
どうして急に教会に行くことになったかと言うと、遡ること二日前。
『ねえルイさん』
『どうした?』
私はルイさんの執務室に遊びに来ていた。いつでも来ていいって言われてるしね。
私が来たことでルイさんも休憩タイムに突入。ルイさんの膝の上に乗ってクッキーをもぐもぐ。
精神年齢は結構いっているけど体は七歳児だからいいのさ……気にしたら負けだ。
危ない。思考がずれてた。
『教会に行ってみたいです』
話を戻す。これが私がいきなりルイさんの執務室を訪ねた理由だった。
『どうして急に?』
『この前街へ遊びに行ったときに教会の前を通って、そういえば王都に着いてから一度も、というか、生まれてから一度も教会という場所に行ったことがないのに気づいたの。だから一回くらい行っておいたほうがいいのかなぁって』
別の世界のとはいえ、私は神様によって転生できたのに、一度もお祈りに行かないのもどうかと思うでしょ? とは言えない……
『あぁ、そうか。たしかに一度行ってみるといいだろう。明後日なら時間が作れるから一緒に行くか?』
『行きます!』
そういうわけで教会へ行くことが決まった。
「うわぁ~きれい」
ステンドグラスがキラキラ光っているきれいな教会だった。さっき会ったシスターさんも優しそうな人だったな。
この世界の創造神は男の神様のようで、大きな像が飾ってあった。その前にルイさんと跪いて祈る。
すると急に周りがまぶしくなり、思わずぎゅっと瞼を閉じた。
そしてゆっくり目を開くと、私は真っ白な場所に立っていた。
「どこ……ここ……?」
「初めまして、ノエル」
「誰!?」
わお、イケメンだ! 逆光みたいになっててちゃんとは顔見えないけど、イケメンだって私の魂が言ってる。
「俺はこの世界の創造神、エルリオだ」
「神、様?」
この人が創造神様か!
……え、なんで!?
突然の出来事に状況が飲みこめずにいると、いきなりエルリオ様が頭を下げた。
「まずは、すまなかった」
「え、え、えぇ?」
「あのような親の元に送ってしまったことだ」
例のクズ親に関しての謝罪だったみたい。もう気にしてないのに。
「転生先はランダムだからいくら神様でも決められないって女神様から聞きました。だったらしょうがないことなので謝らないでください」
「ありがとう。そう言ってくれると助かる」
「ところで、まずは、ってことは……ほかにも何かあるんですか?」
「命をかけて最高神を救った者と会ってみたくてな。うん、実にきれいな魂だ。稀に聖人が持つ魂の輝きに似ている」
私の魂、どうやら聖人級らしい。えへへ、徳積んでたのかな。
「え、なんか、照れちゃいます……でも、光栄です!」
「そうか。よかった」
淡々とした様子でエルリオ様が言った。
なんか、転生前に会った女神様とは違ってずいぶん落ちついてる神様だな。
じっと見つめていると、どうかしたのかと聞かれたので、素直に思ったことを言ってみた。
「エルリオ様はあまり感情が表に出ないんですね」
「そうか? まあ、あまりこうやって人間と会うことはないからな。でも、愛し子は微笑ましくて、ずっと見守っていたし、いつもより感情は出ていると思うぞ?」
「え、もしかして見てたんですか!?」
ひとりでいるときにやっていた前世のファンタジー映画を真似たひとり寸劇とか、全部見られてたってこと!?
「もしかしなくても見ていたな」
「えぇ、恥ずかしい……」
「ん、もう時間だ。何かあればいつでも来るといい。俺を信仰する教会であればどこでも会える。ではまた会おう、俺の愛し子」
エルリオ様が微笑んだのを最後に私は教会に戻っていた。
「ずいぶんと長く祈ってたな」
どうやら精神だけがあそこに行っていたらしい。
「うん! 今まであったこととか、報告してたの!」
「そうか。じゃあ、そろそろ帰るか?」
「うん!」
こうして私の教会初訪問は終わったのだった。
その後も何回か教会に行って、エルリオ様と仲良くなった。無表情っぽかったからあまり話さないのかなと思ったら、ただ単にこれまで退屈で、表情筋が動いてなかっただけのようだ。意外とお茶目で明るい性格だった。
まぶしくて表情ははっきりとはわからなかったけど、笑っていたように見えたしね。
第三章 冒険者になります
あれからさらに月日が経ち、あっという間に十五歳になりました。
剣を本格的に始めて、今では刃を潰した真剣で団員さんたちに混ざって訓練している。
まだルイさんとレイファスさんには勝てないけど、前よりは粘れてる。性別の差が大きくて、あんまり筋肉はつかなかったけど、身体強化を使えば惜しいところまでいけるんだ。
ただ、身長があまり伸びなかったのもあって、長剣よりも短剣のほうが得意かな。やっぱり小さいころの栄養失調が尾を引くみたい。
短剣なら、ルイさんやレイファスさんからも何回かに一本取ることができるところまで上達した。
魔法に関しては、訓練を重ねて詠唱を簡略化して使えるようになった。
『アイスランス!』とか『ファイヤーボール!』みたいに技名だけで使えるようになったときに大号泣したのはいい思い出。今じゃあ一部の魔法は光よ、とか闇よ、って属性名を唱えるだけで使えるようになった。
とはいえ、やっぱり技名を唱えたほうがイメージが湧いて、強い威力の魔法が使えるんだけどね。
そうそう、十歳から闇魔法の研究を始めて、やっと最近、闇魔法が悪いだけのものじゃないって少しずつみんなにも伝えることができたんだ!
そう簡単に受け入れることができるものじゃないけど、闇属性持ちへの差別が少しでも減ればいいと思う。私の研究が主に魔法研究を行っている王宮魔法師団の偉い人に評価されたみたいで、知り合いも増えた。
ただ、このあたりでさすがに騎士団だけで私の存在を隠すことができなくなって、王様とも面会した。今までは騎士団で『保護』っていう形だったらしいけど、特別に住んでいいことになった。
そのときに、今世で初めて友達ができたの!
私のひとつ歳上で、サラサラのプラチナブロンドの髪に、宝石みたいに透明感のある緑の瞳をした王太子のリーンハルト・ノルシュタイン殿下。
そして私と同い年で、燃えるような赤い髪に、海みたいにきれいな青い瞳のハルト様の婚約者の公爵令嬢リーゼロッテ・ハーティンケル様。
リーンハルト様は愛称のハルト様と、リーゼロッテ様はリーゼと呼び捨てでいいとふたりから言われた。
ハルト様はリーゼが大好きで、責任感のある面倒見のいい人だった。
リーゼは勝気なお転婆娘って感じで公爵令嬢っぽくなかったけど、たまたま一緒にいるときに別の令嬢と会うと凛としていてかっこよかった。
王妃教育は大変みたいで、死んだ魚の目をしてるときがあるから、そういう日はふたりで人目につかない場所でダラダラとお茶してる。
下手に貴族相手だと気疲れしちゃうけど、その点私は騎士団在住で知り合いも少なく、平民の身分で脅威にならない。どうやらちょうどいい息抜き相手になれてるみたい。
「ふぁ~あ……眠い。目が冴えちゃってまったく寝れなかったけど、せめて横になっとくべきだったかな」
ふと思い立って見返していた日記を閉じて、大きく伸びをする。レイファスさんに文字を習い始めたころから練習ついでに書いていたんだ。
眠くて瞼が降りてくるけど、予定があるからそろそろ支度しなきゃ。
私が寝不足な理由。
そう、それは今日が冒険者ギルドへ初めて行く日だから! 自立への一歩として、冒険者ギルドへ冒険者登録しに行くのだ。
私は騎士じゃないから、いつまでもここにはいられない。みんなはいつまでもいていいって言ってくれてるけれど、それは前世で自立してた大人としてのプライドが許さない。まだ出ていかないにしても、早々に収入源を作っておきたかったんだ。
動きやすい服に愛用の短剣。獲物用袋という最低限の装備を持って部屋を出た。
「よし、忘れ物はないよね。それじゃ、行ってきます!」
広場で朝の訓練をしてる団員さんたちに見送られながら町へ行き、目的地である冒険者ギルドの建物の中へ入った。
受付に行くときれいなお姉さんがいた。髪の隙間から見えた耳が長いから、エルフかな。
初めてエルフ見たなぁ。騎士団に獣人はいるけど、エルフはいないんだよな……
なんてことを考えながらじっとお姉さんを見つめていると、不審に思ったのか声をかけられた。
「あの……ご用件は?」
「あ! すみません。冒険者登録をしたくて」
「登録ですね。では、こちらの紙にご記入ください。書けるところだけで結構です。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です」
名前、年齢、職業、属性などなど書いていく。魔法は一番得意な氷と便利な闇でいいか。
「はい。書けました。お願いします」
「確認しますね……ノエルさん、ですね。これから試験がありますので少々お待ちください」
「試験?」
「はい。冒険者のランクを決めるための試験です。最高で一気にCランクまで上がります。試験の内容はまず、魔法が使える場合は魔力量、次に実技となります」
「Cまで一気に上がれるんですね?」
「はい。ですが大体の方は一番下のFランクかそのひとつ上のEランクですね。Cランクまで上がれる人はそうそういません」
「Bに上がるには?」
「実績が必要になりますので、依頼を受けてもらうことになります。A以降は高難易度の依頼と盗賊の討伐などの対人依頼を受けてもらう必要があります」
「ありがとうございます、お姉さん!」
「いえいえ。では準備ができたようですので、試験会場まで案内しますね」
案内されたのは小さな部屋だった。部屋の真ん中にあるテーブルの上に水晶を置いただけの殺風景な部屋。
「ここに手を置いてください」
お姉さんに言われた通り手を置くと、水晶が虹色に光り出した。
「えっ!? ギ、ギルドマスタァァァァ!!」
「ちょっ! お姉さん!?」
お姉さんは叫びながら、どこかへ走っていってしまった。そして、少しすると誰かを連れて戻ってきた。
「ほんとですって!」
「んなわけねえだろ……」
このムキムキ無精髭のおじさんがギルドマスターかな?
「ノエルさん! もう一度手を置いてみてください」
「はぁ……わかりました」
言われた通り手を置くと、また水晶が虹色に光り出した。
「はぁ!? こんなのありえるのか!?」
「でしょ!」
驚愕するふたりに置いてきぼりの私。これ、あれだ。
私、また何かやっちゃいました?
「あのぉ……」
「はっ! すまん。この水晶は使える魔法の色に光るんだが……虹色なんて見たことがなくてな。あぁ、安心しろ。お前の事情もあるだろうし、余計な詮索はしない」
意外とこちらに配慮してくれるみたい。
「ありがとうございます」
「魔法が規格外にすごくても、実技ができなければ死ぬだけだからな」
「そうですね」
そう答えると、次に案内されたのは地下フィールドだった。試験会場であるここは、申請すれば模擬試合もできるらしい。
せっかく来たからと、なぜか私の試験官はギルマスになった。元Aランク冒険者だったらしいけど、これ勝てるか……?
気を取り直して、手始めに身体強化を使って向かい合う。一番得意な刃を潰した短剣で戦うことにした。
炎属性持ちのギルマスは現役時代大剣を使っていたらしいが、今回はハンデとして同じく短剣。
お姉さんが初めの合図を出した瞬間、一気に懐まで潜りこむ。
ギルマスは一瞬驚いた顔をしたものの、さすが元上位冒険者。私の短剣を受け流すとそのまま弾き飛ばした。
「わ、わ」
パワーがすごい! 久しぶりに弾き飛ばされたかも。
空中でくるっと一回転して体勢を整え、着地する。
「凍れ!」
床伝いに魔力を流し、足元を凍らせた。
ギルマスはバキバキバキバキと音を立て凍っていく床を見て、なんとか抜け出そうと炎を当てる。けれど、魔法は基本的に属性的に相性不利でもこめた魔力が多いほうが勝つ。
ここ! と一気に加速して首を狙って飛びこむ。取った!
「ほぎゃあ!」
べちゃっ。
凍った足はそのままに、ギルマスが上半身を思いっきり逸らして私は攻撃をかわされた。
この国はノルシュタイン王国という名前らしい。
かつて大陸中を巻きこんだ戦争があり、当時小国であったノルシュタイン王国は周りの国と手を取って、戦争を始めた帝国を討ち、平和を取り戻したと言う。
そのとき、疲弊した国を元の豊かな国に戻すため、そして民を飢えから救うために、当時の国王は精霊に豊穣を願った。その国王は精霊の愛し子だったらしい。
「精霊! 私も会える?」
「素質があれば精霊を見ることはできますよ。庭園や森など、自然が多い場所に行けば会えるでしょう」
「すごい、会ってみたいな~」
だって精霊だよ? ファンタジーの定番でしょ!
また、王宮には、精霊と契約するとなれる『精霊術師』という役職の人がいるようだ。
契約した精霊によって仕事がだいぶ違って、魔物狩りのような戦いから地質調査みたいな調査研究など幅広い役割を担っていて、王国の人気職のひとつらしい。
歴史のあとは魔法のお勉強。
主に火、水、土、光、闇の五属性があり、闇と光はレアなんだって。そして上級魔法といって、ふたつ以上の属性を極めることで使えるようになる雷、風、氷の属性もあるとのこと。
また、魔力が少なくて魔法が使えない人や属性が少ない人は、魔法をこめた魔石を使って生活しているらしい。
あと、五属性や上級魔法に分類されない無属性魔法やユニーク魔法がある。
無属性魔法は身体強化や索敵とか、魔力の多さによって容量が決まるアイテムボックスなども含まれる、魔力さえ持っていれば使える魔法。
一方、ユニーク魔法はテイム魔法とか、持っている人が限られていて後天的に身につくことはない魔法。職業を選ぶ際にひとつの指標にもなる魔法の類だ。
ステータスを見る限り多分私は全部使える……
改めて自分のチートっぷりを思い知った。
魔法を使うための基本中の基本である魔力操作のやり方を教えてもらう。
目を閉じて、身体中を魔力が循環しているイメージを持つ。そうすると、だんだん体がポカポカしてきた。
「それが魔力です。常に循環するイメージを持ち、そのポカポカを忘れずにいてくださいね」
コツを掴んだら危険度の低い水と土を教えてもらった。
体を流れる魔力がそのまま手のひらから流れ出るイメージで、魔力を回してみる。うんうん唸りながら念じるように手のひらに魔力を集めると、
「で、出た! 水出た!」
ちょろちょろではあるものの、水が出た。なんかすごい感動する。
コツを掴むのが結構早かったのか、レイファスさんも目をまんまるにして驚いていた。
この世界の大多数の人は一属性、多くて三属性までしか使えず、それは生まれたときから決まっていて増えることはないそうだ。だから三属性あれば平民でも王宮で『魔法師』として働けるらしい。
レイファスさんは水しか使えないから、土属性を使える団員さんが来て教えてくれた。これが意外と難しい。
土=個体ってイメージが頭から離れなかった結果、うまく土魔法が発動できなかった。
だってさ? 水は流れを意識すればいけたけど、土ってどうイメージすればいいの?
「うーん、土属性は持っているようだから使えるとは思うんだけど……あ、そうだ! 地面に手をつけてみて。そのまま地面の土に干渉する方向で感覚を掴んでみよう」
「はい!」
両方の手のひらを地につけて魔力を流しこんでみる。ひたすらに流し続けると、少しずつ魔力が土を覆い始めた。このままこの魔力で土を包んで宙に投げる!
「てや! あ、できました!」
ボコ! と大きな音を立てて、土の塊を放り投げた。
水属性みたいにスムーズではなく、苦戦したこともあって、思わずはしゃいで団員さんとハイタッチする。その様子をレイファスさんが微笑ましそうに見ていることに気づき、恥ずかしくなってしまった。前世を合わせると、多分私のほうが年上……
「いいですか、ノエル。魔法はイメージが一番重要です。イメージが強固なものであればそれだけ強い魔法を使うことができます」
「呪文とかいらないの?」
「呪文はあくまでも補助。なくても発動できますよ。ただそのためには、使いたい魔法のイメージを強く保つことが必要です。これはかなり難しく、今王宮にいる魔法師でも、少なくとも一節は詠唱が必要です」
呪文ってなんか恥ずかしいから目指せ無詠唱! もしくは技名だけ!
初めて魔法を使ってから一年と少し。
なんと全属性ちゃんと使えるようになりました!
水と土をマスターしたあと、次に私が取り組んだのは光。光属性は主に回復とか解呪とかだった。光属性を極めると完全回復が使えるようになって、死んでなければどんな怪我でも治せるんだって。
ここで役に立ったのは日本人だったときの記憶だ。理科の授業で体の仕組みを習っていたから、すぐにコツを掴んでできるようになった。
というのも、光属性による回復魔法は体の構造を理解したうえで、怪我をした箇所に魔力を流す必要があるからだ。
ただ、練習は怪我人相手ではないとできないので、訓練で怪我した団員さんを回復させることで魔法の練度を上げている。なんでもルイさんたち王国騎士団と王宮魔法師は仲が悪く、訓練でできた小さな怪我にはわざわざ回復魔法をかけてもらえないらしい。
かと言って、教会で治してもらおうとするとお金がかかるので、自分で手当てして治るのを待つしかないそうだ。
今この国に光属性が使える人は十人いるか、いないか、らしい。少ないね……
一応この世界にもポーションはあるみたいだけど、残念なことに、吐きそうなほどまずいらしい。私も試しに低級HP回復ポーションを飲んでみたら、あまりのまずさに吐きかけた。意地でも出さなかったけど。
それから続けて習得したのは、闇。
闇っていうと負の印象がどうしても強くて、何ができるのか早めに知っておかないと怖かったんだよね。やっぱり知らない力って、何をしてしまうかわからなくて恐ろしいから。
どうやら闇属性は呪とかができるから畏怖の対象になっていて、それを理由に隠している人が多く、ほかの属性に比べて研究があまり進んでいないらしい。
でも、使っていく中で意外と使い勝手がいいことがわかった。
……実は闇属性、影を操れるんです!
この魔法があれば、狩りのとき獲物を安全に捕まえられるから便利!
あとは自分よりレベルの低い魔物や魔獣を使役できる。これは、一方的な契約はできないテイム魔法とは違って、隷属扱いとして問答無用で配下にできるというものだった。
このふたつを習得したあと、残りの火属性と雷、風、氷属性の上級魔法も習得した。
魔力が多いと、一回に使う量をかなり注意しないといけなくて感覚を掴むのが大変だった。
お気に入りは氷魔法。これでお花とか作るときれいなんだよねぇ。
氷魔法で作った髪飾りに、溶けたり簡単に壊れたりしないように無属性魔法の一種である固定魔法をかけて、髪留めとして使っている。髪が長くて剣の稽古のとき邪魔だったんだよね。
私は桜が大好きだったから、デザインを悩み抜いて、桜をモチーフにした可愛いのを三日かけて作ったんだ!
満足のいく一品ができたことがうれしくてルイさんとレイファスさんに見せたら、めちゃくちゃ抱きしめられてちょっと苦しかった。
もちろん剣の稽古もしてたよ?
最初は、魔法の訓練と並行してやろうと思っていたけれど、あまりの大変さに断念。先に魔法の訓練をして、ある程度上達してから剣の訓練を始めた。
最初は体力作りと素振り。
ずっと木剣を型通りに振り下ろすだけ。何か月も経ってやっと体に型が染みついたら、あとは実践あるのみということで、手加減ありの手合わせをひたすら続けた。
途中から成長速度アップの魔法を作ってみた。ちょっとズルかな? って思ったけど、いつまで保護してくれるかわからないし、早く自立できるに越したことはないからね。
そして、保護されてからいつの間にか二年の月日が経っていた。
私は今、教会へ来ています。
どうして急に教会に行くことになったかと言うと、遡ること二日前。
『ねえルイさん』
『どうした?』
私はルイさんの執務室に遊びに来ていた。いつでも来ていいって言われてるしね。
私が来たことでルイさんも休憩タイムに突入。ルイさんの膝の上に乗ってクッキーをもぐもぐ。
精神年齢は結構いっているけど体は七歳児だからいいのさ……気にしたら負けだ。
危ない。思考がずれてた。
『教会に行ってみたいです』
話を戻す。これが私がいきなりルイさんの執務室を訪ねた理由だった。
『どうして急に?』
『この前街へ遊びに行ったときに教会の前を通って、そういえば王都に着いてから一度も、というか、生まれてから一度も教会という場所に行ったことがないのに気づいたの。だから一回くらい行っておいたほうがいいのかなぁって』
別の世界のとはいえ、私は神様によって転生できたのに、一度もお祈りに行かないのもどうかと思うでしょ? とは言えない……
『あぁ、そうか。たしかに一度行ってみるといいだろう。明後日なら時間が作れるから一緒に行くか?』
『行きます!』
そういうわけで教会へ行くことが決まった。
「うわぁ~きれい」
ステンドグラスがキラキラ光っているきれいな教会だった。さっき会ったシスターさんも優しそうな人だったな。
この世界の創造神は男の神様のようで、大きな像が飾ってあった。その前にルイさんと跪いて祈る。
すると急に周りがまぶしくなり、思わずぎゅっと瞼を閉じた。
そしてゆっくり目を開くと、私は真っ白な場所に立っていた。
「どこ……ここ……?」
「初めまして、ノエル」
「誰!?」
わお、イケメンだ! 逆光みたいになっててちゃんとは顔見えないけど、イケメンだって私の魂が言ってる。
「俺はこの世界の創造神、エルリオだ」
「神、様?」
この人が創造神様か!
……え、なんで!?
突然の出来事に状況が飲みこめずにいると、いきなりエルリオ様が頭を下げた。
「まずは、すまなかった」
「え、え、えぇ?」
「あのような親の元に送ってしまったことだ」
例のクズ親に関しての謝罪だったみたい。もう気にしてないのに。
「転生先はランダムだからいくら神様でも決められないって女神様から聞きました。だったらしょうがないことなので謝らないでください」
「ありがとう。そう言ってくれると助かる」
「ところで、まずは、ってことは……ほかにも何かあるんですか?」
「命をかけて最高神を救った者と会ってみたくてな。うん、実にきれいな魂だ。稀に聖人が持つ魂の輝きに似ている」
私の魂、どうやら聖人級らしい。えへへ、徳積んでたのかな。
「え、なんか、照れちゃいます……でも、光栄です!」
「そうか。よかった」
淡々とした様子でエルリオ様が言った。
なんか、転生前に会った女神様とは違ってずいぶん落ちついてる神様だな。
じっと見つめていると、どうかしたのかと聞かれたので、素直に思ったことを言ってみた。
「エルリオ様はあまり感情が表に出ないんですね」
「そうか? まあ、あまりこうやって人間と会うことはないからな。でも、愛し子は微笑ましくて、ずっと見守っていたし、いつもより感情は出ていると思うぞ?」
「え、もしかして見てたんですか!?」
ひとりでいるときにやっていた前世のファンタジー映画を真似たひとり寸劇とか、全部見られてたってこと!?
「もしかしなくても見ていたな」
「えぇ、恥ずかしい……」
「ん、もう時間だ。何かあればいつでも来るといい。俺を信仰する教会であればどこでも会える。ではまた会おう、俺の愛し子」
エルリオ様が微笑んだのを最後に私は教会に戻っていた。
「ずいぶんと長く祈ってたな」
どうやら精神だけがあそこに行っていたらしい。
「うん! 今まであったこととか、報告してたの!」
「そうか。じゃあ、そろそろ帰るか?」
「うん!」
こうして私の教会初訪問は終わったのだった。
その後も何回か教会に行って、エルリオ様と仲良くなった。無表情っぽかったからあまり話さないのかなと思ったら、ただ単にこれまで退屈で、表情筋が動いてなかっただけのようだ。意外とお茶目で明るい性格だった。
まぶしくて表情ははっきりとはわからなかったけど、笑っていたように見えたしね。
第三章 冒険者になります
あれからさらに月日が経ち、あっという間に十五歳になりました。
剣を本格的に始めて、今では刃を潰した真剣で団員さんたちに混ざって訓練している。
まだルイさんとレイファスさんには勝てないけど、前よりは粘れてる。性別の差が大きくて、あんまり筋肉はつかなかったけど、身体強化を使えば惜しいところまでいけるんだ。
ただ、身長があまり伸びなかったのもあって、長剣よりも短剣のほうが得意かな。やっぱり小さいころの栄養失調が尾を引くみたい。
短剣なら、ルイさんやレイファスさんからも何回かに一本取ることができるところまで上達した。
魔法に関しては、訓練を重ねて詠唱を簡略化して使えるようになった。
『アイスランス!』とか『ファイヤーボール!』みたいに技名だけで使えるようになったときに大号泣したのはいい思い出。今じゃあ一部の魔法は光よ、とか闇よ、って属性名を唱えるだけで使えるようになった。
とはいえ、やっぱり技名を唱えたほうがイメージが湧いて、強い威力の魔法が使えるんだけどね。
そうそう、十歳から闇魔法の研究を始めて、やっと最近、闇魔法が悪いだけのものじゃないって少しずつみんなにも伝えることができたんだ!
そう簡単に受け入れることができるものじゃないけど、闇属性持ちへの差別が少しでも減ればいいと思う。私の研究が主に魔法研究を行っている王宮魔法師団の偉い人に評価されたみたいで、知り合いも増えた。
ただ、このあたりでさすがに騎士団だけで私の存在を隠すことができなくなって、王様とも面会した。今までは騎士団で『保護』っていう形だったらしいけど、特別に住んでいいことになった。
そのときに、今世で初めて友達ができたの!
私のひとつ歳上で、サラサラのプラチナブロンドの髪に、宝石みたいに透明感のある緑の瞳をした王太子のリーンハルト・ノルシュタイン殿下。
そして私と同い年で、燃えるような赤い髪に、海みたいにきれいな青い瞳のハルト様の婚約者の公爵令嬢リーゼロッテ・ハーティンケル様。
リーンハルト様は愛称のハルト様と、リーゼロッテ様はリーゼと呼び捨てでいいとふたりから言われた。
ハルト様はリーゼが大好きで、責任感のある面倒見のいい人だった。
リーゼは勝気なお転婆娘って感じで公爵令嬢っぽくなかったけど、たまたま一緒にいるときに別の令嬢と会うと凛としていてかっこよかった。
王妃教育は大変みたいで、死んだ魚の目をしてるときがあるから、そういう日はふたりで人目につかない場所でダラダラとお茶してる。
下手に貴族相手だと気疲れしちゃうけど、その点私は騎士団在住で知り合いも少なく、平民の身分で脅威にならない。どうやらちょうどいい息抜き相手になれてるみたい。
「ふぁ~あ……眠い。目が冴えちゃってまったく寝れなかったけど、せめて横になっとくべきだったかな」
ふと思い立って見返していた日記を閉じて、大きく伸びをする。レイファスさんに文字を習い始めたころから練習ついでに書いていたんだ。
眠くて瞼が降りてくるけど、予定があるからそろそろ支度しなきゃ。
私が寝不足な理由。
そう、それは今日が冒険者ギルドへ初めて行く日だから! 自立への一歩として、冒険者ギルドへ冒険者登録しに行くのだ。
私は騎士じゃないから、いつまでもここにはいられない。みんなはいつまでもいていいって言ってくれてるけれど、それは前世で自立してた大人としてのプライドが許さない。まだ出ていかないにしても、早々に収入源を作っておきたかったんだ。
動きやすい服に愛用の短剣。獲物用袋という最低限の装備を持って部屋を出た。
「よし、忘れ物はないよね。それじゃ、行ってきます!」
広場で朝の訓練をしてる団員さんたちに見送られながら町へ行き、目的地である冒険者ギルドの建物の中へ入った。
受付に行くときれいなお姉さんがいた。髪の隙間から見えた耳が長いから、エルフかな。
初めてエルフ見たなぁ。騎士団に獣人はいるけど、エルフはいないんだよな……
なんてことを考えながらじっとお姉さんを見つめていると、不審に思ったのか声をかけられた。
「あの……ご用件は?」
「あ! すみません。冒険者登録をしたくて」
「登録ですね。では、こちらの紙にご記入ください。書けるところだけで結構です。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です」
名前、年齢、職業、属性などなど書いていく。魔法は一番得意な氷と便利な闇でいいか。
「はい。書けました。お願いします」
「確認しますね……ノエルさん、ですね。これから試験がありますので少々お待ちください」
「試験?」
「はい。冒険者のランクを決めるための試験です。最高で一気にCランクまで上がります。試験の内容はまず、魔法が使える場合は魔力量、次に実技となります」
「Cまで一気に上がれるんですね?」
「はい。ですが大体の方は一番下のFランクかそのひとつ上のEランクですね。Cランクまで上がれる人はそうそういません」
「Bに上がるには?」
「実績が必要になりますので、依頼を受けてもらうことになります。A以降は高難易度の依頼と盗賊の討伐などの対人依頼を受けてもらう必要があります」
「ありがとうございます、お姉さん!」
「いえいえ。では準備ができたようですので、試験会場まで案内しますね」
案内されたのは小さな部屋だった。部屋の真ん中にあるテーブルの上に水晶を置いただけの殺風景な部屋。
「ここに手を置いてください」
お姉さんに言われた通り手を置くと、水晶が虹色に光り出した。
「えっ!? ギ、ギルドマスタァァァァ!!」
「ちょっ! お姉さん!?」
お姉さんは叫びながら、どこかへ走っていってしまった。そして、少しすると誰かを連れて戻ってきた。
「ほんとですって!」
「んなわけねえだろ……」
このムキムキ無精髭のおじさんがギルドマスターかな?
「ノエルさん! もう一度手を置いてみてください」
「はぁ……わかりました」
言われた通り手を置くと、また水晶が虹色に光り出した。
「はぁ!? こんなのありえるのか!?」
「でしょ!」
驚愕するふたりに置いてきぼりの私。これ、あれだ。
私、また何かやっちゃいました?
「あのぉ……」
「はっ! すまん。この水晶は使える魔法の色に光るんだが……虹色なんて見たことがなくてな。あぁ、安心しろ。お前の事情もあるだろうし、余計な詮索はしない」
意外とこちらに配慮してくれるみたい。
「ありがとうございます」
「魔法が規格外にすごくても、実技ができなければ死ぬだけだからな」
「そうですね」
そう答えると、次に案内されたのは地下フィールドだった。試験会場であるここは、申請すれば模擬試合もできるらしい。
せっかく来たからと、なぜか私の試験官はギルマスになった。元Aランク冒険者だったらしいけど、これ勝てるか……?
気を取り直して、手始めに身体強化を使って向かい合う。一番得意な刃を潰した短剣で戦うことにした。
炎属性持ちのギルマスは現役時代大剣を使っていたらしいが、今回はハンデとして同じく短剣。
お姉さんが初めの合図を出した瞬間、一気に懐まで潜りこむ。
ギルマスは一瞬驚いた顔をしたものの、さすが元上位冒険者。私の短剣を受け流すとそのまま弾き飛ばした。
「わ、わ」
パワーがすごい! 久しぶりに弾き飛ばされたかも。
空中でくるっと一回転して体勢を整え、着地する。
「凍れ!」
床伝いに魔力を流し、足元を凍らせた。
ギルマスはバキバキバキバキと音を立て凍っていく床を見て、なんとか抜け出そうと炎を当てる。けれど、魔法は基本的に属性的に相性不利でもこめた魔力が多いほうが勝つ。
ここ! と一気に加速して首を狙って飛びこむ。取った!
「ほぎゃあ!」
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