初恋はおさななじみと

香夜みなと

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二人が晴れて恋人同士となってから二ヶ月。街の雰囲気はクリスマス一色に染まり、イルミネーションがキラキラと輝いている。雑貨屋さんのプレゼント用のラッピングがクリスマス仕様になったり、持っている紙袋のデザインが変わったりするとどこかわくわくしてくるから子供の頃の刷り込みはなかなか消えない。

「明里、お待たせ」

 駅の広場で待ち合わせをしていた灯と合流する。今日は少しだけフォーマルな格好をしているのをみると、やっぱり成長したんだよなぁと灯を上から下まで眺めてしまう。

「なんでそんなにじろじろ見るの……」

「え、あ、かっこいいなぁって思って」

「それを言うなら明里もでしょ。そのコート初めてじゃない? グレーも似合うね」

「えへへ……」

 お互いに褒め合っていると呼び出された人物がやってくるのが見えた。

「お前らバカップルか? はたからみてたら恥ずかしいぞ」

 やってきたのは灯の兄、光だった。仕事帰りなのかスーツを着こなしている姿は思わず見惚れてしまう。

「あれ、彼女さんは?」

「向こうも仕事で店の方に直接行くって連絡きたから、俺はお前らの迎えみたいなもんかな。ほら、行くぞ」

 今日は四人で食事をしようという光の誘いで集まっていた。明里は灯からその話を聞いた時に、光に会ったときに本当のことを話せずに申し訳なかったと打ち明けた。すると灯は、「兄さんはすべて知ってたと思うから大丈夫だと思うよ」と言われ、明里は光にカマをかけられていたことを知った。やっぱり年上には勝てない。

 それでも、光に食事に誘われたことが実現できて嬉しいという気持ちの方が大きい。あのとき光の彼女とも挨拶をしたぐらいだったから、「家族になる」ということが少しずつ現実になってきたのではないかと感じていた。

「ここだ。お前ら酒は飲めると思うけど、あんまり飲み過ぎるなよ」

 連れられてきたのは駅前のホテルにあるイタリアンレストランだった。ホテルの中にあるだけあって、ウェイターが丁寧に頭を下げてきた。ジーンズとスニーカー以外で来いと言われた理由がわかった気がする。

「兄さんは僕たちのこと子供扱いしすぎ」

「はぁ……この間まで手のかかるガキだったくせに」

「何か言った?」

 ガキ、と言う言葉に灯はとても反応してしまう。それは辰巳に言われたことがきっかけかもしれないけれど、灯も大人になろうと必死なのだとわかる。

「いーや? まぁ収まるところに収まって良かったなぁと思ってさ。ね、明里ちゃん」

「えっ、あ、はい……」

 光に突然話題を振られて明里はしどろもどろにうなずいた。収まるところというのは明里と灯の関係のことだろう。すべてお見通しだったのかと思うと光には一生逆らえないような気がした。

「二人そろって俺の結婚式には出席してくれそうで良かったよ」

 席に座りそんな他愛もない話をしていると光の彼女が到着したようで入り口でウェイターに案内されてきた。

「ま、今日はこれからもよろしくってことで。ガキどもは遠慮なく食っておけよ~」

「だから、ガキじゃないって!」

 席にやってきた光の彼女が「こんばんは、遅くなってごめんね」とフランクな挨拶をすると四人での賑やかな食事会が始まったのだった。



 気がつくと時計の針は二十二時を回ろうとしていた。次の日もあるからということで早めのお開きになり、光は彼女と住む家へ、灯と明里も帰路についた。

 お酒が入ってぽかぽかとした体のまま駅からの夜道を歩く。

「光くんの彼女さん素敵だったねー。バリキャリっていうのかな、憧れる」

「でも時々関西弁出たりして、話しやすかったな」

「わかる! 結婚するときたこ焼き器もってくるからみんなでしようって言ってくれたのも今から楽しみ!」

 話題は光の彼女だった。以前青木家にやってきたときは綺麗な人、という印象だったけれど話してみるととてもきさくな人だった。光が好きになった人なら素敵な人なのは間違いないと思っていた。だからこれからも会えるのだと思うと明里は嬉しくなってくる。

「結婚式も楽しみだなー。あ、私も着ていく服考えなきゃ」

「まだ先だよ? 気が早いって」

「そんなの就活とか始まったらあっという間だから」

 光の結婚式は暖かくなってきた春頃に行うつもりだという。そのころだとちょうどまだ春休みかもしれないが、就職活動が始まる頃だ。

「明里は、就職どうするの?」

「う~ん、まだこれといってやりたい仕事とかわかんなくて」

 ふと辰巳のことが頭に浮かんできた。いよいよ卒論の提出が迫っていると言うことでここ一ヶ月ぐらいバイトには来ていない。やめたという話は聞いていないから、落ち着いたらきっと顔を出してくれるとは思うのだが、相談できる相手がいないと言うのも少し心許ない。

「灯は? 研究続けるの?」

 ゼミで忙しかったときのことを思い出す。最近は少し落ち着いているようで、明里との時間もとれるようになったが、本当に忙しいときはこっちが気を遣ってしまうぐらい疲れている。できればもっとゆっくりとした生活を送って欲しいと思ってしまう。

「研究は卒業するまでかな。趣味みたいなものだし。それに、他にもしたいこともあるからね」

「したいこと?」

 そういえば明里は灯の夢を聞いたことがなかった気がする。将来何をしたいとか何になりたいとか、灯はその答えを濁していた。

「ねぇ、そういえば灯の夢って……」

「明里と、結婚すること」

 そうはっきりと告げられて明里は灯を見上げた。お酒のせいなのか照れているのか、灯の頬が薄らと赤くなっている。

「結婚……」

「そう。だって昔、明里と結婚するって言ったでしょ?」

「言ってたけど……でも……」

 それは子供のころの口約束みたいなもので、夢ではない。

「高校生のころ、灯に将来どうするか聞いても答えてくれなかったよね……?」

「僕にとっては夢じゃなくて確定事項だったから」

 さらりと言われて明里は目眩がしてきそうになった。

 灯の愛は明里が思っているより重いのかもしれない。

「卒業したら、仕事して、いつ頃結婚するかっていうのも色々プラン立ててるんだよね」

「そう、なんだ……」

 灯の口から出てくる言葉に脱力してしまう。なんだか灯の手の平で踊らされているよう気すらしてしまう。

「言ってなかったっけ? 勝手にごめん……」

 その言葉に明里はピクリと反応した。

「灯の、ごめんっていう言葉、聞きたくない。拒絶されたみたいな気がするから……」

 そう言うと灯は申し訳なさそうに笑って、繋いでいた手にぎゅっと力を込めてきた。

「ごめん。でも明里が僕の人生そのものだから、明里がいないと成り立たないんだよ」

 その言葉に明里は嬉しさがこみ上げてきた。そんな風に言われてしまったら灯には勝てない。明里にとって灯も明里の人生そのものなのだから。¥。

「だから、これからもずっと一緒にいてくれますか?」

 その言葉に答える言葉はイエスしかなかった。

「もちろん。初恋も、最後の恋も灯だけだよ」

「奇遇だね、僕も」

 つないだ手を引き寄せ合って、暗い夜道でキスをした。

 初恋は実らない。

その言葉は正しいかもしれない。それでも初恋の相手と最初で最後の恋はこれからも続いていく。

 繋いだ手のぬくもりはもう二度と離さないと絡める指に力を入れるのだった。
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