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悲しみの再会
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そうだったな。海斗はずっと芙雪の傍に居たし、ずっと芙雪を見ていた。
俺たちの誰よりも芙雪を大事にしていた。それを傍で見ていたからこそ良く理解している。
だからあの時も、こいつだけは最後まで反対し続けていた。
「ねえ、夏樹さん。俺はあの顔を見るのは3回目だ」
「3回…目…?」
「3回目は今。2回目はこの街に戻ってくるとあの子が決めた時。そして初めて見たのは…」
頭を鈍器で殴られたような衝撃とは、きっとこういうことを言うのだと思う。
3年越しに思い知ってしまった。
俺たちのした選択の愚かさも、芙雪が俺たちに対してどんな感情を持っていたのかも。
今更だ。今更過ぎて自分に対して嘲笑が漏れてしまう。
「海斗は…偉いね」
「偉い?俺が?」
「偉いよ。俺たちは、芙雪から逃げることを選んだのに、お前はずっと芙雪と一緒だったんだろ?」
選んだ。俺たちが。
それは少し誤解もあるかもしれないけど、ほんの少しの誤解だ。
俺たちがあの子から逃げたことは決して間違ってなんかいない。
「俺は芙雪ちゃんのこと大好きだからさ。離れるとかそんなこと考えたくも無かったんだ。」
まっすぐに芙雪に向けられる愛情。
芙雪も男で海斗も男。それでも海斗が芙雪に向ける愛情は、異性に向けるようなものでもあり家族に向けるようなもでもあった。
その男から発せられたまっすぐな言葉。本当に自分の手元から離れることなんて、考えたことも無かったのだ。
「楽さんが行くなと止めても、芙雪を選んだ?」
「当たり前だよ。俺はあの時誰に止められても芙雪ちゃんを選んだ。俺には、芙雪が必要なんだ」
”俺には芙雪が必要なんだ”
あぁ、カッコいい男だ。さすが楽さんの弟…いや、これが天条海斗という男。
芙雪のためなら、その身が犠牲になることだってきっと厭わないだろう。
あの子もそのまっすぐな気持ちに気を許しているのだろう。
3年前まで、その立場は俺だったはずなのに。
「悔しいな」
小さく気持ちが漏れた。
それでも、今の俺には悔しがることも天条海斗という男と並び立とうと思うこともいけないのだ。
「なあ、聞いてもいいのか。3年前あんた達になにが起こったのか。俺が言うのもなんだけど、市村のやつはあんた達を信頼していたはずだ」
黙ってしまった俺と海斗に気を遣うようにして、桃屋が問いかけてきた。
「うーん、その話はまた後だね。芙雪ちゃんに許可なく話したくないし、それに兄さんたちにも話していいのか聞きたいしね」
悪いけど、と前置きをしたうえで海斗は桃屋の言葉を断った。
この話をしたとしても面白い話ではないだろうし、それに知られてはならないこともある。
芙雪のことは絶対に知られてはならないのだ。それは本人にも決して。
あの時、Dirty Emperorの全員で誓った。全員が恨まれることになっても、絶対にこのことは知られてはならないと。
「えー隠し事?お前らほんと感じわ…むぐッ」
「あー優斗は黙ってろ!すまねぇな野暮なこと聞いちまったみたいで。」
何かを言おうとした桃屋の口を必死に手で押さえて、桃屋が謝罪を述べる。
特に謝るようなことは無かったように感じるが、それでも謝れるのはコイツのいいところかもしれない。
「いいのいいの。むしろごめんね、今の俺たちにはあの時なにがあったかをまだ教えるわけにはいかないのよ」
へらへらと笑って海斗は桃屋たちに言った。
あの時なにがあったのか。それを芙雪に話すことができない以上、話す危険性のあるメンバーにも話すことはできないのだ。
「お前らのタイミングでいいんだよ。仕方ねえことだってあるし、それに…市村のことを考えてのことなんだろ?」
フンッと鼻を鳴らしながら得意げに桃屋が告げた。
少しだけ気持ちが軽くなるような気がして、自然と俺の口からも吐息交じりに笑みがこぼれる。
俺たちの誰よりも芙雪を大事にしていた。それを傍で見ていたからこそ良く理解している。
だからあの時も、こいつだけは最後まで反対し続けていた。
「ねえ、夏樹さん。俺はあの顔を見るのは3回目だ」
「3回…目…?」
「3回目は今。2回目はこの街に戻ってくるとあの子が決めた時。そして初めて見たのは…」
頭を鈍器で殴られたような衝撃とは、きっとこういうことを言うのだと思う。
3年越しに思い知ってしまった。
俺たちのした選択の愚かさも、芙雪が俺たちに対してどんな感情を持っていたのかも。
今更だ。今更過ぎて自分に対して嘲笑が漏れてしまう。
「海斗は…偉いね」
「偉い?俺が?」
「偉いよ。俺たちは、芙雪から逃げることを選んだのに、お前はずっと芙雪と一緒だったんだろ?」
選んだ。俺たちが。
それは少し誤解もあるかもしれないけど、ほんの少しの誤解だ。
俺たちがあの子から逃げたことは決して間違ってなんかいない。
「俺は芙雪ちゃんのこと大好きだからさ。離れるとかそんなこと考えたくも無かったんだ。」
まっすぐに芙雪に向けられる愛情。
芙雪も男で海斗も男。それでも海斗が芙雪に向ける愛情は、異性に向けるようなものでもあり家族に向けるようなもでもあった。
その男から発せられたまっすぐな言葉。本当に自分の手元から離れることなんて、考えたことも無かったのだ。
「楽さんが行くなと止めても、芙雪を選んだ?」
「当たり前だよ。俺はあの時誰に止められても芙雪ちゃんを選んだ。俺には、芙雪が必要なんだ」
”俺には芙雪が必要なんだ”
あぁ、カッコいい男だ。さすが楽さんの弟…いや、これが天条海斗という男。
芙雪のためなら、その身が犠牲になることだってきっと厭わないだろう。
あの子もそのまっすぐな気持ちに気を許しているのだろう。
3年前まで、その立場は俺だったはずなのに。
「悔しいな」
小さく気持ちが漏れた。
それでも、今の俺には悔しがることも天条海斗という男と並び立とうと思うこともいけないのだ。
「なあ、聞いてもいいのか。3年前あんた達になにが起こったのか。俺が言うのもなんだけど、市村のやつはあんた達を信頼していたはずだ」
黙ってしまった俺と海斗に気を遣うようにして、桃屋が問いかけてきた。
「うーん、その話はまた後だね。芙雪ちゃんに許可なく話したくないし、それに兄さんたちにも話していいのか聞きたいしね」
悪いけど、と前置きをしたうえで海斗は桃屋の言葉を断った。
この話をしたとしても面白い話ではないだろうし、それに知られてはならないこともある。
芙雪のことは絶対に知られてはならないのだ。それは本人にも決して。
あの時、Dirty Emperorの全員で誓った。全員が恨まれることになっても、絶対にこのことは知られてはならないと。
「えー隠し事?お前らほんと感じわ…むぐッ」
「あー優斗は黙ってろ!すまねぇな野暮なこと聞いちまったみたいで。」
何かを言おうとした桃屋の口を必死に手で押さえて、桃屋が謝罪を述べる。
特に謝るようなことは無かったように感じるが、それでも謝れるのはコイツのいいところかもしれない。
「いいのいいの。むしろごめんね、今の俺たちにはあの時なにがあったかをまだ教えるわけにはいかないのよ」
へらへらと笑って海斗は桃屋たちに言った。
あの時なにがあったのか。それを芙雪に話すことができない以上、話す危険性のあるメンバーにも話すことはできないのだ。
「お前らのタイミングでいいんだよ。仕方ねえことだってあるし、それに…市村のことを考えてのことなんだろ?」
フンッと鼻を鳴らしながら得意げに桃屋が告げた。
少しだけ気持ちが軽くなるような気がして、自然と俺の口からも吐息交じりに笑みがこぼれる。
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