追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

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真・勇者パーティ結成編

第2話 クロウ、お前クビな

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「そうか。ならクロウ、キータにバフ掛けてくれ。アカネ、お前はバックアップだ」
「やれやれ。スキル、ヘヴブレイブ」


 ヘヴブレイブは、レベル5の身体能力を上げるスキル。対象は、これによって飛躍的に火力を底上げする事ができる。
 クロウのバフを得た俺は、腰からダガーナイフを抜き取って前線へと向かった。しかし、悪魔幹部は宝具でなければダメージは与えられない。その為の、俺たち適合者なのだ。つまり、俺はどこかで隙を突き、矢を放たなければならない。


「……わ、私だって出来ます!」


 叫ぶと、何故かアカネはシロウさんの命令を無視して、僕とほとんど同時にカチョーへと立ち向かった。
 しかし、パニックになってしまっているのも無理はないだろう。俺たちはこの旅に出るまで、ただの市民だったのだ。シロウさんは消防屋で、アカネは貴族の秘書、俺は植木屋だ。クロウは、自分の過去を明かしていない。


「クソッ、キータ、バックだ!クロウ、バフの対象をアカネに戻せ!」


 一体、彼のどこに目が付いているのだろう。その声になんとか反応した俺は、再び後ろを見張った。そこには、破壊音を聞きつけてやってきたのか、多数の魔物が蠢いているではないか。少し遅れれば、すぐにこの場所へなだれ込んで来ていただろう。


「アカネっ!」
「待て、クロウ!アカネにはバフを掛けるんだ!直接的なサポートは俺がするから、お前はキータにも援護を……」
「やかましい!アカネは、俺が守る!」


 クロウがそういった時、シロウさんから、ヒヤリと冷たい空気が漂ったのを感じた。気のせいだろうか、一瞬だけ、カチョーも動きを止めたように思える。
 まるで、極度の冷気を放つ氷の外気に触れたような、そんな緊張だった。


「……そうかい。じゃあ、頼むぜ」


 カチョーの咆哮が、部屋中に響く。しかし、次の瞬間には、シロウさんは押し寄せて来る魔物たち、シャインの群れへ向かい、奴らの攻撃を防いだ。俺は、シロウさんにレベル2のスキル、フェザブレイブを掛けると、上から援護射撃を続ける。


 ……やがて、シャインの数が減り、そろそろ余裕もできた頃、再びカチョーの咆哮が部屋に響いたかと思えば、それに続いてドサッと倒れる音が聞こえた。どうやら、決着はついたようだ。


「……ふぅ、終わったみてぇだな」
「そうですね。お疲れさまです」
「おう、お疲れ。さて、二人のところへ行こうか」


 カチョーの敗北を目の当たりにして、逃走しようとするシャインの残党を投げナイフで素早く処理すると、シロウさんは俺を見上げて笑った。血塗れで、ボロボロで、それとは対照的な優しい笑顔が恐ろしくて。だから、俺は黙ってライケアを唱えて、少し遅れてから彼を追ったのだった。


 × × ×


 ダンジョンから出た俺たちは、攻略前に建てていたキャンプへと戻ってきた。アカネは泣きながら「ごめんなさい」と呟いていたが、シロウさんは特に彼女の事を責めたりしなかった。


「気にするな、アカネ。大体、キータがもっと後ろを処理できれば、シロウが傷つく事も無かったんだ。まったく、お蔭でヒーラーの俺が前に出る羽目になった」
「……悪かったよ」


 確かに、その通りだ。けど、俺はクロウのように天才じゃないし、シロウさんのように頭がいい訳でもない。ただ、ホーリーボゥの適合者というだけの俺には、一人分の仕事で精一杯だったんだ。


 ……本当に、悔しい。


「よし、みんな聞いてくれ。さっき、王様からいくつかの新しい命令を受けたんだ」


 その言葉で、まだ何かを言おうとしていたクロウは口をつぐんだ。……ひょっとして、シロウさんも俺に呆れているのだろうか。


「命令、ですか」


 聞き返したのは、尚も涙を流し続けるアカネだった。
 シロウさんは、国王様と直接連絡を取ることができるクリスタルを持っている。ダンジョンをクリアするたびに進捗の報告をしているようだから、きっとその時に直接告げられたのだろう。


「あぁ。それで、残念だがパーティのメンバーを変えなきゃならなくなった」


 瞬間、俺は自分の心臓が締め付けられるような感覚に陥った。だって、このパーティで一番弱いのは、紛れもなく俺だ。それに、さっきの戦闘の結果を見れば、誰が追放されるかなんて一目瞭然だ。


 ……でも、仕方ないか。この旅には、世界の命運が掛かってるんだから。


「まぁ、そう言う事だから。クロウ、お前クビな」
「……えっ?」


 その言葉に、俺は耳を疑った。そして、告げられたクロウはもっと耳を疑っているようで、信じられないといった様子で目を見開き、チラチラと俺の顔を見た。


「な、なんでだよ?」
「なんでって。そりゃお前、このパーティに必要ないと判断されたからだよ」
「そんなわけ無いだろ!?だって、俺がこのパーティで一番強いんだぞ!?さっきだって、カチョーを殺したのは俺だ!」
「そうだな。でも、これは国王様が決定されたことだ。俺の一存じゃ、どうする事もできねえ」
「ふざけるな!なんの説明も無しに解雇って、そんなのあり得ないだろ!?」


 クロウは、いきなり歳をとったかのように、狼狽ろうばいした表情を浮かべている。しかし、シロウさんはけなす訳でも慰める訳でもなく、淡々と事実を述べるだけだった。
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