追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

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フェルミンの第三勢力編

第23話 お前ら、命ナメてんのか

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「気づいてたんですか?」
「あぁ。なんなら、男どもはみんなモモコを見てるぞ」
「えっ、ほんとですか?」
「……なんでちょっと嬉しそうなの?」


 モモコちゃんは、右手を頬っぺたに当てると、チラチラと周囲に目線を配った。この子、何気に人から注目されるのが好きなんだな。


「しかし、どういう訳なんでしょうね。俺たち、何か悪い事しましたっけ」
「分からんが、男女混合のパーティが珍しいんじゃねえか?この街の連中は、どこも性別を統一しているように見えるぜ」


 言われてみれば、確かにそうだ。と言うか、分かってたなら先に教えてくださいよ。
 そんなことを考えて、照れているモモコちゃんを眺めていると、次第にこんな言葉が聞こえてくるようになった。


「メーヨ」


 あまり聞きなれないモノだったけど、チッターが絡んでいるという事は、何かよくない意味を持っているのだろう。一体何のことかと考えを巡らせていると、一人の女冒険者が俺たちの元へやって来た。


「ねぇ、あなたたちのパーティには、どうして女が一人しかいないの?」
「適合者の集まりだからな。人材は限られてるんだ」
「あなた、勇者って事?なら、尚更問題だわ。それって、女の適合者を集める努力を怠ってるって事でしょ?」
「……すまん。マジで意味が分からん」


 シロウさんがお手上げって、かなりレアケースなんじゃないだろうか。
 気が付くと、彼女の後ろには女の群れが出来上がっていたが、反対にシロウさんの後ろには男の群れが出来上がっている。そして、その妄言を待っていたと言わんばかりに、後ろの男の一人が口を開いた。


「男の方が、有能だからに決まってんだろ。歴史を見ても、名前を残してる奴は男の方が多いからな」
「いや、そんな事ねぇけど」


 同感だ。それは、何百年も前の話、同一種族で役割が決まっていた過去の頃の価値観だし、そもそも、視点を変えれば、その頃から女の方が有能で名前を残している分野なんて腐る程ある。
 それに、今の人間は性別だけで測れる程単純じゃない。オーガやドワーフの血が濃ければ、性別に関係なく力持ちになるし、他の能力だってその例に漏れないんだ。


「あぁ、気持ち悪い。そうやって決めつけるのが、本当に浅ましいわ。第一、男って女を弱いと思っているにも関わらず虐げるって、どうかしてるんじゃないの?」
「お前も決めつけてるじゃねえか」


 どうして、彼らは自分で物を調べる事をしないんだろうか。たったこれだけのやり取りで、互いに感情だけで話しているのが手に取るように分かる。
 そして、ヒートアップした両者には、もうシロウさんの声は届いていない。すぐにどっちが優れているかなんて言い合いを、それも他人のフンドシを使って、互いを貶めるやり方で始めて、場はあっという間にカオスになってしまった。


「男って、本当に生まれつきドラッグをやっているとしか思えない、視野の狭い奴しかいないわね。平等って言葉、知らないの?」
「お前らの言う平等って、本当に女に都合いいよな。サーカスのレディースデイとか未だにあるけど、あぁ言うのは平等なのか?」
「あれは、運営が勝手にやってることじゃない」
「そういう、自分に有利な事だけは見逃して、少しでも不利な事には文句ばっかり言うお前ら『トリアツ』の態度が、本当にムカついてんだよ」
「あら、私たちだって、あなたたち『テイカン』のカビの生えたような価値観にはうんざりしてる。一人暮らしで全ての家事をこなしてるのは、男だけだとでも思ってるの?」
「なんだと!?」
「なによ!?」


 言い合って、収まりがつかなくなった互いの先頭に立つ冒険者が、腰から剣を抜いたその時だった。シロウさんのこめかみ辺りから、ブヂッ!という音が聞こえたのは。


「ちょっ、落ち着いて!シロ……」


 言った時には、もう遅かった。シロウさんは二人の胸倉を掴むと、じ上げるようにして持ち上げ、宙づりにし顔を見上げた。しかし、言葉は何もない。ただ、彼の形相があまりにも恐ろしくて、俺にはとても直視する事は叶わなかった。
 当然、周りの冒険者たちも同様だ。それを止める者はいないし、持ち上げられた当人も言葉を忘れたように、青白い顔面で目を逸らしている。店の中には、極度の冷気が漂っている。とは比べ物にならない程の、全身の毛が逆立つような、とんでもない冷たさだ。


「そんな下らねえ理由で、人間同士で殺し合いしてんじゃねえぞ。お前ら、命ナメてんのか?」


 その言葉で、ようやく息を吸う事を思い出したかのように、彼らは咳き込んでシロウさんの手を掴んだ。声を出そうとしているが、あれは謝っているのだろうか。目には、涙が滲んでいる。


「し、シロウさん。それ以上は……」


 俺とモモコちゃんがシロウさんの背中に手を当てると、彼は静かに手を離した。


「俺は、勇者のシロウだ。文句ある奴は、出てこいよ」


 問いには、誰も答えられなかった。そして、シロウさんはその様子を見渡して歪に笑うと、バーテンダーのいるカウンターの中に入っていって、チッターの紋章が刻まれた木の盾を掴み、拳で叩き割った。


「悪かったな、店主」


 言って、金を置くと、俺たちに「行くぞ」と呟いたから、後を追って店を出た。しばらくは黙って歩いていたのだが、シロウさんは唐突に足を止めると、俺たちに振り返って口を開いた。


「キータ、モモコ。お前たちはアオヤを連れて、先にこの街から出とけ」
「どういう、ことですか?」
「あいつらを助ける。このままじゃ、マジで殺し合いを始めちまう」


 それを聞いて、俺はシロウさんが何をしようとしているのか、すぐにわかった。だから。


「手伝いますよ。俺たち、仲間じゃないですか」
「私もです。そんな寂しい事、言わないでください」
「……悪いな」


 そして、俺たちはアオヤ君を迎えに、マリンちゃんの館へ向かった。もう、彼を悠長に待っている時間は無さそうだ。


―――――――――――――――――――――――――――――

TIPS
キータの服装:防塵用のカーキのマント・襟元を閉じることの出来る暗い色のカットソー・ブラウンのベルト(通常戦闘用のダガーナイフを装着)・分厚い生地で、動きやすいようにストレッチの効いた暗い色のパンツ・つま先が丸く固い、ブラウンのロングブーツ

キータの鞄(肩掛け)の中身:着替え用のシャツ×1・下着×1・回復用のハイポーション×3・強化用のハイパワーポーション×3・ホーリーボゥ用のスタビライザー・スコープ・双眼鏡・財布(3万ゴールド)・スキットル・肉切りナイフ・ホットラインクリスタル(ヒマリと話す用)・ひげ剃り・洗剤×2・ちょうどいいサイズの石×5(ダンジョン内で、魔物の意識を逸らす為)・暇つぶし用の小説(恋愛モノ)・魔法のランタン・おやつジャーキー

※彼のみ、矢筒(12本入り)を持ち歩く為、他のメンバーのよりも鞄が少し小さい。
※金は、基本的に冒険者ギルドのバンクに預金してある。
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