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フェルミンの第三勢力編
第24話 平等って、何ですか?
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そんなワケで、俺たちはマリンちゃんの住む街外れの郊外にある館へやってきた。
彼女の住む家は、貴族が住んでいるというにはあまりにも質素だった。先に訪れた時には、彼女と執事のセバスさん、メイドのルナさん、そして彼女の護衛についていた二人の兵士しかここにおらず、また館の中も一人ずつの部屋と、空き部屋が少し。後は、リビングとキッチンしかない。因みに、両親は現在王都に赴任しているようだ。
「どうぞ、こちらへ」
ルナさんに案内されて、リビングルームへ。ソファに座ると目の前のテーブルに紅茶を置いてくれたから、礼を言って口に含んだ。爽やかで、ほのかに甘い。
味を楽しみながら待つこと数分。現れたアオヤ君は俺たちを見ると、やたらと嬉しそうな顔をして小走りでこっちまでやって来た。その背中には、やっぱりマリンちゃんの姿がある。
「僕のこと、忘れちゃったかと思ったすよ!なんでもっと早く来てくれなかったんですか!」
「ごめんごめん。休暇のつもりだったんだ。それに、盗賊の引き渡しとか、装備の補充とかで時間掛かっちゃって。こんにちは、マリンちゃん」
言うと、彼女はペコリと頭を下げ、背伸びをしてからアオヤ君の耳元に口を近づけると、こしょこしょと話をした。
「……こんにちは、いらっしゃいませ。ですって」
シロウさんが、恐いのだろう。彼女は、俺とモモコちゃんの方を向いている。それを分かっているからか、シロウさんは俺たちの間には入らず、ルナさんと会話をしていた。
彼女、マリンちゃんは、年齢13歳の気弱な少女だ。アオヤ君よりも少し明るい青の波打つショートカットと、自身無さげの俯きがちなライトグリーンの目を持っている。特徴と言えば、丸い獣の耳と、太くて長い尻尾だろうか。どちらも、シロウさんをチラ見する度に、落ち着きなく動いている。
「……今日は、どうされたんですか?ですって」
聞いて、俺とモモコちゃんは酒場での出来事を説明した。もちろん、シロウさんの怒りの様子は割愛だ。
「マジすか。そんな事あったんですね」
「だから、彼らを何とかしようと思っていまして。その為に、アオヤ君を迎えに来たんです」
「……街の住民の代わりに、謝罪します。申し訳ございません。ですって」
「それはいいんですが……。彼らは、互いをトリアツ、テイカンと呼び合っていました。あれは、一体どういう意味なんでしょうか」
「説明は、わたくしめがさせて頂きます。シロウさんより、ご所望を承りましたので」
そう言って頭を下げたのは、執事のセバスさんだ。
「しかし、それを話すには、まずこの街、フェルミンについて説明をしなければなりませんね」
一呼吸置くと、セバスさんはゆっくりと口を開いた。
どうやら、フェルミンと言うのはこの街の初代街長である、マリンちゃんの先祖の名前であるようだ。
「そして、彼はまだ人間と亜人の間に大きな隔たりがあったこの世界に、本当の平等をもたらす為に努力をしていた人だったのです。その思想は、現在に至るまで受け継がれております」
だから、この街の貴族たちは大きな家には住まず、そしてマリンちゃんのように「様」という敬称を嫌っているようだ。歴史を聞いてみると、ますます彼らが上辺だけの平等の使者ではないことが分かった。
「しかし、全ての人が人間と呼ばれるようになった後に、新たな隔てりが生まれてしまいました。それが、男女間での対立です」
どちらが最初に相手を嫌ったのか、それはもう誰も覚えていない。しかし、いつの間にかフェルミンの冒険者ギルドには男女での対立が出来てしまっていた。
「そして、決定的だったのは、とある貴族がギルドへ発注した、太古の石碑の発掘でした」
間の悪いことに、ギルドの受付へ現れた二つのパーティがその仕事を全く同じタイミングで請け負ってしまい、ギルドはそれを同時に斡旋した。更に、ジャングルの奥深くで石碑を見つけたのも全くの同タイミング。
だから、そこで争い合った両パーティは殺し合いをして、最後には生き残った冒険者が石碑を真っ二つに割ってそれぞれで持ち帰ったのだ。
「由来は、それです。石碑に記されていた詩の言葉を読み取り、双方はトリアツとテイカンというという名前を派閥に付けたのです」
それから、対立はさらに激化していった。
貴族たちが平等にしようと思えば思うほど、それを享受する人たちは自分たちが優れていると勘違いしていって、次第に気を使われる事が当たり前になった。それを見た一方は相手を嫌い、何とか平らにしようと施策を進めると、今度はまたもう一方が不満を唱える。
そんなイタチごっこの繰り返しの末に、とうとうチッターが現れて、過激派の民たちに紋章を植え付けていったのだと、セバスさんは言った。
「……だから、パパとママは王都で協議を申請し、本当の平等を手に入れる為の方法を探っているんです。ですって」
アオヤ君の言葉の後に、マリンちゃんはうんうんと首を振った。
「それで、キータさん。何とかする為の方法って、なんすか?こんなに酷い事になってんのに、そんなに簡単に歩み寄りますかね」
「歩み寄らせる方法なんて、きっとないよ。そもそも、別にどっちが悪いとか、そう言う話でもないし。俺たちがするべきなのは、前のブィー・グワンと同じく、答えを出す事じゃなくて彼らが死なないようにする事だよ」
こしょこしょ。
「……どういうことですか?ですって」
言われ、俺はシロウさんの顔を見た。目が合うと、強く頷いてくれたから、それを迷わずに口にする。
「共通の敵を作るんだよ。魔王みたいなね」
「……なるほど、そういう事ですか」
―――――――――――――――――――――――――――――
TIPS
アオヤの服装:防塵用の濃紺のマント・七分丈の白いカットソー・首を隠す黒のインナー・濃紺のベルト・股下をやや緩く作られた、黒のパンツ・足首までを隠す、軽い黒のブーツ
アオヤの鞄(肩掛け)の中身:着替え用のシャツ×3・下着×3・お気に入りの枕(変わると寝れない)・アイマスク・耳栓・ブランケット・爪切り・家族の写真・財布(1万ゴールド)・カジノの会員カード・インクの乾かない小さな羽ペン・シロウのレッスンをまとめたノート・トランプ・スキットル・魔物の牙(始めての戦闘の記念)・チョコレート・グミ(一袋に4つ味があるが、いつも緑の味が最初になくなる)
彼女の住む家は、貴族が住んでいるというにはあまりにも質素だった。先に訪れた時には、彼女と執事のセバスさん、メイドのルナさん、そして彼女の護衛についていた二人の兵士しかここにおらず、また館の中も一人ずつの部屋と、空き部屋が少し。後は、リビングとキッチンしかない。因みに、両親は現在王都に赴任しているようだ。
「どうぞ、こちらへ」
ルナさんに案内されて、リビングルームへ。ソファに座ると目の前のテーブルに紅茶を置いてくれたから、礼を言って口に含んだ。爽やかで、ほのかに甘い。
味を楽しみながら待つこと数分。現れたアオヤ君は俺たちを見ると、やたらと嬉しそうな顔をして小走りでこっちまでやって来た。その背中には、やっぱりマリンちゃんの姿がある。
「僕のこと、忘れちゃったかと思ったすよ!なんでもっと早く来てくれなかったんですか!」
「ごめんごめん。休暇のつもりだったんだ。それに、盗賊の引き渡しとか、装備の補充とかで時間掛かっちゃって。こんにちは、マリンちゃん」
言うと、彼女はペコリと頭を下げ、背伸びをしてからアオヤ君の耳元に口を近づけると、こしょこしょと話をした。
「……こんにちは、いらっしゃいませ。ですって」
シロウさんが、恐いのだろう。彼女は、俺とモモコちゃんの方を向いている。それを分かっているからか、シロウさんは俺たちの間には入らず、ルナさんと会話をしていた。
彼女、マリンちゃんは、年齢13歳の気弱な少女だ。アオヤ君よりも少し明るい青の波打つショートカットと、自身無さげの俯きがちなライトグリーンの目を持っている。特徴と言えば、丸い獣の耳と、太くて長い尻尾だろうか。どちらも、シロウさんをチラ見する度に、落ち着きなく動いている。
「……今日は、どうされたんですか?ですって」
聞いて、俺とモモコちゃんは酒場での出来事を説明した。もちろん、シロウさんの怒りの様子は割愛だ。
「マジすか。そんな事あったんですね」
「だから、彼らを何とかしようと思っていまして。その為に、アオヤ君を迎えに来たんです」
「……街の住民の代わりに、謝罪します。申し訳ございません。ですって」
「それはいいんですが……。彼らは、互いをトリアツ、テイカンと呼び合っていました。あれは、一体どういう意味なんでしょうか」
「説明は、わたくしめがさせて頂きます。シロウさんより、ご所望を承りましたので」
そう言って頭を下げたのは、執事のセバスさんだ。
「しかし、それを話すには、まずこの街、フェルミンについて説明をしなければなりませんね」
一呼吸置くと、セバスさんはゆっくりと口を開いた。
どうやら、フェルミンと言うのはこの街の初代街長である、マリンちゃんの先祖の名前であるようだ。
「そして、彼はまだ人間と亜人の間に大きな隔たりがあったこの世界に、本当の平等をもたらす為に努力をしていた人だったのです。その思想は、現在に至るまで受け継がれております」
だから、この街の貴族たちは大きな家には住まず、そしてマリンちゃんのように「様」という敬称を嫌っているようだ。歴史を聞いてみると、ますます彼らが上辺だけの平等の使者ではないことが分かった。
「しかし、全ての人が人間と呼ばれるようになった後に、新たな隔てりが生まれてしまいました。それが、男女間での対立です」
どちらが最初に相手を嫌ったのか、それはもう誰も覚えていない。しかし、いつの間にかフェルミンの冒険者ギルドには男女での対立が出来てしまっていた。
「そして、決定的だったのは、とある貴族がギルドへ発注した、太古の石碑の発掘でした」
間の悪いことに、ギルドの受付へ現れた二つのパーティがその仕事を全く同じタイミングで請け負ってしまい、ギルドはそれを同時に斡旋した。更に、ジャングルの奥深くで石碑を見つけたのも全くの同タイミング。
だから、そこで争い合った両パーティは殺し合いをして、最後には生き残った冒険者が石碑を真っ二つに割ってそれぞれで持ち帰ったのだ。
「由来は、それです。石碑に記されていた詩の言葉を読み取り、双方はトリアツとテイカンというという名前を派閥に付けたのです」
それから、対立はさらに激化していった。
貴族たちが平等にしようと思えば思うほど、それを享受する人たちは自分たちが優れていると勘違いしていって、次第に気を使われる事が当たり前になった。それを見た一方は相手を嫌い、何とか平らにしようと施策を進めると、今度はまたもう一方が不満を唱える。
そんなイタチごっこの繰り返しの末に、とうとうチッターが現れて、過激派の民たちに紋章を植え付けていったのだと、セバスさんは言った。
「……だから、パパとママは王都で協議を申請し、本当の平等を手に入れる為の方法を探っているんです。ですって」
アオヤ君の言葉の後に、マリンちゃんはうんうんと首を振った。
「それで、キータさん。何とかする為の方法って、なんすか?こんなに酷い事になってんのに、そんなに簡単に歩み寄りますかね」
「歩み寄らせる方法なんて、きっとないよ。そもそも、別にどっちが悪いとか、そう言う話でもないし。俺たちがするべきなのは、前のブィー・グワンと同じく、答えを出す事じゃなくて彼らが死なないようにする事だよ」
こしょこしょ。
「……どういうことですか?ですって」
言われ、俺はシロウさんの顔を見た。目が合うと、強く頷いてくれたから、それを迷わずに口にする。
「共通の敵を作るんだよ。魔王みたいなね」
「……なるほど、そういう事ですか」
―――――――――――――――――――――――――――――
TIPS
アオヤの服装:防塵用の濃紺のマント・七分丈の白いカットソー・首を隠す黒のインナー・濃紺のベルト・股下をやや緩く作られた、黒のパンツ・足首までを隠す、軽い黒のブーツ
アオヤの鞄(肩掛け)の中身:着替え用のシャツ×3・下着×3・お気に入りの枕(変わると寝れない)・アイマスク・耳栓・ブランケット・爪切り・家族の写真・財布(1万ゴールド)・カジノの会員カード・インクの乾かない小さな羽ペン・シロウのレッスンをまとめたノート・トランプ・スキットル・魔物の牙(始めての戦闘の記念)・チョコレート・グミ(一袋に4つ味があるが、いつも緑の味が最初になくなる)
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