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フェルミンの第三勢力編
第25話 弱い奴たちが、強い奴に生かしてもらう事だよ
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アオヤ君の呟きに、再びマリンちゃんが囁く。
「……あなたたちが敵になる、という事でしょうか?ですって」
「うん。多分だけど、それが一番……」
言いかけた時、シロウさんが俺の肩を叩いて、やたら渋い声を俺の耳元で呟いた。
「……もっといい方法がある。だそうです」
「……それは?ですって」
「……話すと長くなるから、普通に喋っていいか?だそうです」
すると、マリンちゃんはモジモジと指を捻ってから、小さな声で「はい」と言った。
× × ×
一週間後、俺とシロウさんは、監獄のある街へ移送するまで、罪人を拘束する為の施設へと来ていた。牢屋は4つで、全ての部屋に罪人が二人ずつ座っている。
彼らは、マリンちゃんを襲った盗賊チーム。シロウさんが、最初に捕まえたメンバーから居場所を問い詰めて、残りの四人をブチのめして捕まえて来たのだ。
「よう、気分はどうだ?」
リーダーのいる牢屋の前で立ち止まって、シロウさんが訊く。すると、先ほどまで虚ろな目をしていた彼は、鉄格子から遠ざかって小窓のある壁に張り付いた。
「な、な、なんだよ!」
「なんだよとは、随分とご挨拶だな。ただの世間話じゃねえか」
言うと、リーダーは自分の顔を腕で隠し、その隙間からはす向かいにシロウさんの顔を見た。回復スキルを掛けていないから、未だにボコボコに腫れたままだ。
「も、もう勘弁してくれよ!確かに俺たちは盗賊だが、ここまでめちゃくちゃにする必要はなかっただろ!仲間は、全員捕まってる!もう満足しただろうに、これ以上なんの用があるってんだよ!」
「別に、なんてことねぇよ。ただ、これからアルカトラズに移されて、爺さんになるまでクセえ飯と固えベッドを楽しむ奴のツラってのは、どんなもんかと思ってな」
アルカトラズとは、数多くの罪人が捉えられている、北の海の孤島に聳え立つ巨大な監獄の事だ。
「あんたに会わないで済むなら、早く移りたいくらいだよ!分かったら、お願いだからすぐに帰ってくれよ!」
リーダーは、一般的な冒険者の何倍も強い男だった。だから、木剣と拳で戦うシロウさんでは、他のメンバーよりも手こずってしまい、結果的により多くの恐怖を植え付けられる事となってしまったのだ。
「そう邪険にするんじゃねえよ。……なぁ、知ってるか?あそこの看守長のドラゴンは、とんでもないサディストだって話。噂じゃ、少しでも気に食わねえ囚人が居ると、奴らの知恵の限りを尽くして拷問した挙句、最後は身体の先端から自分の子供に食わせていくらしいぜ」
ハッタリだ。ドラゴンは、絶対に感情や経験に左右されたりしない。だからこそ、あらゆる角度から物事を調べ、人智を遥かに超えた知識と知能を手にしたのだし、最高裁判所や王立図書館など、機密施設の最終決定権を有する立場に抜擢されているのだ。何より、アルカトラズが世界で最も安全だと教えてくれたのは、他でもないシロウさんだ。
しかし、それを知らない盗賊は、唇を震わせながら横に首を振った。
「う、嘘に決まってる。そんなの、俺たちをビビらせる為の……」
「噂だよ、噂。それに、すぐにそこへ行くことになるんだから、真相はお前自身で確かめてみろよ」
「……うっ、おぇ」
話を聞いていた別の牢屋の囚人が、恐怖に顔を歪めてゲロを吐いてしまった。やっぱり、この人の嘘は洒落になってない。
「助けてくれ、神様……」
とうとう、彼らは祈り始めた。しかし、神様なんてこの世界にはいるはずがない。もし居るならば、魔王なんてとっくに滅ぼしてくれているハズだ。
……だからこそ彼らは、この瞬間のシロウさんを間違いなく神様だと認識したはずだ。
「なぁ、俺の言うことを聞けば、ここから出してやるよ」
「……へっ?」
間の抜けた声を絞り出して、リーダーは僅かに震えを抑えた。
「俺の下につけ。この街の、必要悪になるんだ」
「ど、どういうことだよ?」
「言ってみりゃ、毒を以て毒を制すってヤツだな。お前、フェルミンの男女間の対立は知ってるな?」
「当たり前だろ。バカ過ぎて目も当てられないから、気にもしてこなかったけどな」
「そんなバカ共を助けるんだよ。お前たちは、フェルミンを裏から操るんだ」
シロウさんの案は、こうだ。
現在のフェルミンでは、貴族が抱えている兵団が街の安全を守っている。この施設の管理を任されているのも、彼らだ。
しかし、裏を返せば貴族のやり方しかなぞることが出来ないという事。つまり、法律に抵触していない以上、兵団がトリアツやテイカンを捕まえる事は出来ず、未然に殺し合いを防ぐ事も出来ない。だからこそ、兵団と裏で手を組み、法の外側から平和を守る闇の存在が必要だと言うのだ。
「その組織を、仮に『ゴクドー』と呼ぶ。どうだ?このままアルカトラズに向かうか、誰からも感謝はされずとも、人知れず平和を守るゴクドーとなるか。選べ」
全ては、この時の為の布石だった。俺は、どれだけ修羅場を潜れば、シロウさんのようになれるだろうか。
「も、もちろんだ!喜んでやらせてもらう!是非、俺たちを使ってくれ!」
「……上等だ。キータ、全員に回復を掛けてやってくれ」
言うと、彼はリーダーへフェザケアを唱えて、牢屋番に鉄格子を開けるように頼んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
TIPS
モモコの服装:落ち着いた白のフード付きローブ(普段は前を閉じている)・襟の高い、オーバーサイズの白いブラウス・インナー(二枚重ねてる)・ベージュのショートパンツ・黒のタイツ・ヒールの固いブラウンのブーツ(身長を2センチ盛っている)
モモコのカバン(リュック)の中身:着替え用のインナー×3・下着×3・両親の写真×3・ハイパワーポーション×1・スキンケア用品一式・口紅(未使用)・チーク(未使用)・財布(1万ゴールド)・シャンプー・トリートメント・スキットル・小さなうさぎのぬいぐるみ・何かの尻尾(両親を殺した悪魔の手がかり)・悪魔の殺し方百選(著者は不明)・メリケンサック・黄色い宝石の耳飾り(付けるタイミングを伺っている)・マシュマロ
「……あなたたちが敵になる、という事でしょうか?ですって」
「うん。多分だけど、それが一番……」
言いかけた時、シロウさんが俺の肩を叩いて、やたら渋い声を俺の耳元で呟いた。
「……もっといい方法がある。だそうです」
「……それは?ですって」
「……話すと長くなるから、普通に喋っていいか?だそうです」
すると、マリンちゃんはモジモジと指を捻ってから、小さな声で「はい」と言った。
× × ×
一週間後、俺とシロウさんは、監獄のある街へ移送するまで、罪人を拘束する為の施設へと来ていた。牢屋は4つで、全ての部屋に罪人が二人ずつ座っている。
彼らは、マリンちゃんを襲った盗賊チーム。シロウさんが、最初に捕まえたメンバーから居場所を問い詰めて、残りの四人をブチのめして捕まえて来たのだ。
「よう、気分はどうだ?」
リーダーのいる牢屋の前で立ち止まって、シロウさんが訊く。すると、先ほどまで虚ろな目をしていた彼は、鉄格子から遠ざかって小窓のある壁に張り付いた。
「な、な、なんだよ!」
「なんだよとは、随分とご挨拶だな。ただの世間話じゃねえか」
言うと、リーダーは自分の顔を腕で隠し、その隙間からはす向かいにシロウさんの顔を見た。回復スキルを掛けていないから、未だにボコボコに腫れたままだ。
「も、もう勘弁してくれよ!確かに俺たちは盗賊だが、ここまでめちゃくちゃにする必要はなかっただろ!仲間は、全員捕まってる!もう満足しただろうに、これ以上なんの用があるってんだよ!」
「別に、なんてことねぇよ。ただ、これからアルカトラズに移されて、爺さんになるまでクセえ飯と固えベッドを楽しむ奴のツラってのは、どんなもんかと思ってな」
アルカトラズとは、数多くの罪人が捉えられている、北の海の孤島に聳え立つ巨大な監獄の事だ。
「あんたに会わないで済むなら、早く移りたいくらいだよ!分かったら、お願いだからすぐに帰ってくれよ!」
リーダーは、一般的な冒険者の何倍も強い男だった。だから、木剣と拳で戦うシロウさんでは、他のメンバーよりも手こずってしまい、結果的により多くの恐怖を植え付けられる事となってしまったのだ。
「そう邪険にするんじゃねえよ。……なぁ、知ってるか?あそこの看守長のドラゴンは、とんでもないサディストだって話。噂じゃ、少しでも気に食わねえ囚人が居ると、奴らの知恵の限りを尽くして拷問した挙句、最後は身体の先端から自分の子供に食わせていくらしいぜ」
ハッタリだ。ドラゴンは、絶対に感情や経験に左右されたりしない。だからこそ、あらゆる角度から物事を調べ、人智を遥かに超えた知識と知能を手にしたのだし、最高裁判所や王立図書館など、機密施設の最終決定権を有する立場に抜擢されているのだ。何より、アルカトラズが世界で最も安全だと教えてくれたのは、他でもないシロウさんだ。
しかし、それを知らない盗賊は、唇を震わせながら横に首を振った。
「う、嘘に決まってる。そんなの、俺たちをビビらせる為の……」
「噂だよ、噂。それに、すぐにそこへ行くことになるんだから、真相はお前自身で確かめてみろよ」
「……うっ、おぇ」
話を聞いていた別の牢屋の囚人が、恐怖に顔を歪めてゲロを吐いてしまった。やっぱり、この人の嘘は洒落になってない。
「助けてくれ、神様……」
とうとう、彼らは祈り始めた。しかし、神様なんてこの世界にはいるはずがない。もし居るならば、魔王なんてとっくに滅ぼしてくれているハズだ。
……だからこそ彼らは、この瞬間のシロウさんを間違いなく神様だと認識したはずだ。
「なぁ、俺の言うことを聞けば、ここから出してやるよ」
「……へっ?」
間の抜けた声を絞り出して、リーダーは僅かに震えを抑えた。
「俺の下につけ。この街の、必要悪になるんだ」
「ど、どういうことだよ?」
「言ってみりゃ、毒を以て毒を制すってヤツだな。お前、フェルミンの男女間の対立は知ってるな?」
「当たり前だろ。バカ過ぎて目も当てられないから、気にもしてこなかったけどな」
「そんなバカ共を助けるんだよ。お前たちは、フェルミンを裏から操るんだ」
シロウさんの案は、こうだ。
現在のフェルミンでは、貴族が抱えている兵団が街の安全を守っている。この施設の管理を任されているのも、彼らだ。
しかし、裏を返せば貴族のやり方しかなぞることが出来ないという事。つまり、法律に抵触していない以上、兵団がトリアツやテイカンを捕まえる事は出来ず、未然に殺し合いを防ぐ事も出来ない。だからこそ、兵団と裏で手を組み、法の外側から平和を守る闇の存在が必要だと言うのだ。
「その組織を、仮に『ゴクドー』と呼ぶ。どうだ?このままアルカトラズに向かうか、誰からも感謝はされずとも、人知れず平和を守るゴクドーとなるか。選べ」
全ては、この時の為の布石だった。俺は、どれだけ修羅場を潜れば、シロウさんのようになれるだろうか。
「も、もちろんだ!喜んでやらせてもらう!是非、俺たちを使ってくれ!」
「……上等だ。キータ、全員に回復を掛けてやってくれ」
言うと、彼はリーダーへフェザケアを唱えて、牢屋番に鉄格子を開けるように頼んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
TIPS
モモコの服装:落ち着いた白のフード付きローブ(普段は前を閉じている)・襟の高い、オーバーサイズの白いブラウス・インナー(二枚重ねてる)・ベージュのショートパンツ・黒のタイツ・ヒールの固いブラウンのブーツ(身長を2センチ盛っている)
モモコのカバン(リュック)の中身:着替え用のインナー×3・下着×3・両親の写真×3・ハイパワーポーション×1・スキンケア用品一式・口紅(未使用)・チーク(未使用)・財布(1万ゴールド)・シャンプー・トリートメント・スキットル・小さなうさぎのぬいぐるみ・何かの尻尾(両親を殺した悪魔の手がかり)・悪魔の殺し方百選(著者は不明)・メリケンサック・黄色い宝石の耳飾り(付けるタイミングを伺っている)・マシュマロ
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