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フェルミンの第三勢力編
第26話 めちゃくちゃ古典的なやり方
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そして真夜中。王都から戻ってきてくれたマリンちゃんの父、リクさん。盗賊のリーダー、ハチグサ。最後に、貴族の面々と兵団長を集めて、治安を守るための会議を行っていた。
「……しかし、そのやり方は平等とは言えないのでは?実質的に、兵団長とハチグサさんが街の権力者になってしまいます」
「もう遅いよ。既に、各派閥で有権者が生まれてることは、皆さんも分かってるんでしょう?」
「そ、それは……」
「だったら、最低限の舞台を整えて、その枠の中で新しい平等の形を探せばいい。だから、頼みますよ。一つ命が失われるたびに、俺たちが世界を救う理由も一つ失われるんです」
その言葉を聞いて、貴族たちはシロウさんの要求を呑んだのだった。
しかし、どうやらフェルミンの危ういバランスを憂いていたのはみんな同じだったようで、ルールはトントン拍子に決まっていった。きっと、他の人たちも既に似たような事を考えていて、ずっときっかけを待っていたのだろう。
終わったのは、夜が明けた頃。施設を後にした俺たちは、二人の待つ宿屋へと向かっていた。ハチグサを捕まえに行ったときも二人だったから、もしかすると心配しているかもしれない。
「でも、盗賊たちは謀反を起こしたりしないでしょうか」
「対策はしてあるさ。それに、あぁいう悪い連中ってのは、世間のルールは平気で破るくせに、案外自分たちのルールに忠実だからな。普通の奴よりも、力関係ってのをしっかり理解してたりするんだよ」
「そういうモノですか。随分、詳しいんですね」
「昔、俺も似たような事を言われてな。その人の受け売りだ」
「シロウさんって、盗賊だったんですか?」
「いいや、違う。ただ、ガキの頃、俺はウェイストって街に居たんだ」
ゾクリ。背中を刺すような悪寒。
「で、でも、出身はタワリだって……」
「それは、嫁と出会ってからの話だよ。あそこがどんな街か、知ってるのか?」
当然だ。知らない訳がない。
全ての悪事の吹き溜まり、ウェイスト。そこには、まともな倫理観など存在しておらず、殺されても、足を踏み入れた者が悪いとまで言われるほどの無法地帯。通称は、魔王のいない地獄だ。
どれだけ腕の立つ冒険者であっても、あの場所の調査だけは絶対に請け負わず、そして王の支配だって届いていない。最低最悪の治外法権。この世界の、本当の闇。それが、ウェイストだ。
しかし、あの街には家庭などあるはずがない。そして、娼婦から生まれた子供は、へその緒を切り取るよりも前に、すぐに奴隷として闇市に出されると聞いている。
「……まさか」
「まぁ、そう言う事よ。だから、悪者のやり方ってのは、ずっと見てたってワケ」
言うと、シロウさんはいつものように優しく笑った。一体、この人はどれだけの……。
「ところでよ、キータ」
「は、はい。なんでしょうか」
俺が考えるよりも先に、声を掛けられてしまった。
「お前、実は俺と同じ事を思いついていてたんじゃねえの?」
……思ってましたよ。でも。
「盗賊を従わせる事なんて、俺には出来なかったですから」
それに、もし出来たとしても、自分に街の行く末を背負う覚悟が出来ただろうか。とてもそうは、思えなかった。
「シロウさんは、俺にも出来たと思いますか?」
「どうだろうな。まあ、キータは俺みてえな無能じゃねえし、何とかなったんじゃねえかって思うぜ」
一瞬、彼が何を言っているのかが分からなかった。この人が、無能だって?
「それって、どういう……」
「おっ、あそこにいるの、アオヤとモモコじゃねえか。迎えに来てくれたみたいだぜ」
そして、「行こう」と肩を叩いて、二人に向かって手を振ったのだった。
結局、シロウさんは、その答えを教えてはくれなかった。ただ、嫌でも言葉の意味を知ることになる最悪の事件が、そのうち起こるんじゃないかって。
どうしてか、そう思ってしまったんだ。
× × ×
「おうコラ!なぁに、白昼堂々ケンカやらかしちゃってくれてんですかぁ!?死なしますよ!おぉ!?」
本当に申し訳ないんだけど、悪魔と戦う訳じゃないモモコちゃんは、全然恐くなかった。それどころか、どこか言わされてる感が強くて、剣を抜いて睨み合う冒険者の二人も、少し困惑してしまっている。
そりゃそうだ。言ってみれば、モモコちゃんの怖さって理解の外側から本能に襲いかかってくるモノであって、シロウさんのように、理性に訴えてくる分かりやすい恐さとはある意味真逆の性質だもの。
「急にどうしたの?私たち、今から殺し合いをするから、少し下がっていてくれる?」
「まったく、女って空気よめねえなぁ」
「はい出た、流れるような女批判。私じゃなきゃ見逃しちゃうわ」
「うぅ……。シロ、じゃなかった。アニキ~」
呼ばれ、待ってましたと言わんばかりに、シロウさんを引き連れたハチグサが現れた。
「な……っ!?あ、あんたこの前の!勇者じゃなかったのか!?」
「勇者だが、この男の部下にもなったんだよ。なぁ、アニキ。こいつら、ウチの女にナメ腐った態度取ったんですけど、殺していいですか?」
「待て待て待て!勝手に絡んできたの、そっちだろ!?つーか、明らかに娘くらいの歳じゃねえか!あんた、ロリコンかよ!」
「お、俺の女……」
もう、めちゃくちゃだ。というか、俺の女なんて言ってないよ。
「落ち着けや、シロウ。シロートさんも、何も本気で殺し合いをしようと思ってた訳じゃあねェよ。なァ、お二人さん」
「え、えぇ。……な?」
「……そう、です。はい」
そして、ビビった冒険者たちは争いを止めて、それぞれが別の方向へと去っていく。そんな活動を、争いが起きるたびに繰り返したのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
TIPS
シロウの服装:防刃素材のグレーのシャツ・黒のベルト・黒の綿パン・黒いワークブーツ
シロウのカバン(リュック)の中身:着替え用のシャツ×1・下着×2・ひげ剃り・歯ブラシ×4・先割れスプーン×4・マグカップ×4・高級なナイフセット(一本しか使ってない)・コーヒーの粉・蓋つき鍋・日記帳・財布(中身は秘密)・家族の写真・メンバーのプロフィール(シロウ作)・小型テント・肉の臭み消し用のハーブ
「……しかし、そのやり方は平等とは言えないのでは?実質的に、兵団長とハチグサさんが街の権力者になってしまいます」
「もう遅いよ。既に、各派閥で有権者が生まれてることは、皆さんも分かってるんでしょう?」
「そ、それは……」
「だったら、最低限の舞台を整えて、その枠の中で新しい平等の形を探せばいい。だから、頼みますよ。一つ命が失われるたびに、俺たちが世界を救う理由も一つ失われるんです」
その言葉を聞いて、貴族たちはシロウさんの要求を呑んだのだった。
しかし、どうやらフェルミンの危ういバランスを憂いていたのはみんな同じだったようで、ルールはトントン拍子に決まっていった。きっと、他の人たちも既に似たような事を考えていて、ずっときっかけを待っていたのだろう。
終わったのは、夜が明けた頃。施設を後にした俺たちは、二人の待つ宿屋へと向かっていた。ハチグサを捕まえに行ったときも二人だったから、もしかすると心配しているかもしれない。
「でも、盗賊たちは謀反を起こしたりしないでしょうか」
「対策はしてあるさ。それに、あぁいう悪い連中ってのは、世間のルールは平気で破るくせに、案外自分たちのルールに忠実だからな。普通の奴よりも、力関係ってのをしっかり理解してたりするんだよ」
「そういうモノですか。随分、詳しいんですね」
「昔、俺も似たような事を言われてな。その人の受け売りだ」
「シロウさんって、盗賊だったんですか?」
「いいや、違う。ただ、ガキの頃、俺はウェイストって街に居たんだ」
ゾクリ。背中を刺すような悪寒。
「で、でも、出身はタワリだって……」
「それは、嫁と出会ってからの話だよ。あそこがどんな街か、知ってるのか?」
当然だ。知らない訳がない。
全ての悪事の吹き溜まり、ウェイスト。そこには、まともな倫理観など存在しておらず、殺されても、足を踏み入れた者が悪いとまで言われるほどの無法地帯。通称は、魔王のいない地獄だ。
どれだけ腕の立つ冒険者であっても、あの場所の調査だけは絶対に請け負わず、そして王の支配だって届いていない。最低最悪の治外法権。この世界の、本当の闇。それが、ウェイストだ。
しかし、あの街には家庭などあるはずがない。そして、娼婦から生まれた子供は、へその緒を切り取るよりも前に、すぐに奴隷として闇市に出されると聞いている。
「……まさか」
「まぁ、そう言う事よ。だから、悪者のやり方ってのは、ずっと見てたってワケ」
言うと、シロウさんはいつものように優しく笑った。一体、この人はどれだけの……。
「ところでよ、キータ」
「は、はい。なんでしょうか」
俺が考えるよりも先に、声を掛けられてしまった。
「お前、実は俺と同じ事を思いついていてたんじゃねえの?」
……思ってましたよ。でも。
「盗賊を従わせる事なんて、俺には出来なかったですから」
それに、もし出来たとしても、自分に街の行く末を背負う覚悟が出来ただろうか。とてもそうは、思えなかった。
「シロウさんは、俺にも出来たと思いますか?」
「どうだろうな。まあ、キータは俺みてえな無能じゃねえし、何とかなったんじゃねえかって思うぜ」
一瞬、彼が何を言っているのかが分からなかった。この人が、無能だって?
「それって、どういう……」
「おっ、あそこにいるの、アオヤとモモコじゃねえか。迎えに来てくれたみたいだぜ」
そして、「行こう」と肩を叩いて、二人に向かって手を振ったのだった。
結局、シロウさんは、その答えを教えてはくれなかった。ただ、嫌でも言葉の意味を知ることになる最悪の事件が、そのうち起こるんじゃないかって。
どうしてか、そう思ってしまったんだ。
× × ×
「おうコラ!なぁに、白昼堂々ケンカやらかしちゃってくれてんですかぁ!?死なしますよ!おぉ!?」
本当に申し訳ないんだけど、悪魔と戦う訳じゃないモモコちゃんは、全然恐くなかった。それどころか、どこか言わされてる感が強くて、剣を抜いて睨み合う冒険者の二人も、少し困惑してしまっている。
そりゃそうだ。言ってみれば、モモコちゃんの怖さって理解の外側から本能に襲いかかってくるモノであって、シロウさんのように、理性に訴えてくる分かりやすい恐さとはある意味真逆の性質だもの。
「急にどうしたの?私たち、今から殺し合いをするから、少し下がっていてくれる?」
「まったく、女って空気よめねえなぁ」
「はい出た、流れるような女批判。私じゃなきゃ見逃しちゃうわ」
「うぅ……。シロ、じゃなかった。アニキ~」
呼ばれ、待ってましたと言わんばかりに、シロウさんを引き連れたハチグサが現れた。
「な……っ!?あ、あんたこの前の!勇者じゃなかったのか!?」
「勇者だが、この男の部下にもなったんだよ。なぁ、アニキ。こいつら、ウチの女にナメ腐った態度取ったんですけど、殺していいですか?」
「待て待て待て!勝手に絡んできたの、そっちだろ!?つーか、明らかに娘くらいの歳じゃねえか!あんた、ロリコンかよ!」
「お、俺の女……」
もう、めちゃくちゃだ。というか、俺の女なんて言ってないよ。
「落ち着けや、シロウ。シロートさんも、何も本気で殺し合いをしようと思ってた訳じゃあねェよ。なァ、お二人さん」
「え、えぇ。……な?」
「……そう、です。はい」
そして、ビビった冒険者たちは争いを止めて、それぞれが別の方向へと去っていく。そんな活動を、争いが起きるたびに繰り返したのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
TIPS
シロウの服装:防刃素材のグレーのシャツ・黒のベルト・黒の綿パン・黒いワークブーツ
シロウのカバン(リュック)の中身:着替え用のシャツ×1・下着×2・ひげ剃り・歯ブラシ×4・先割れスプーン×4・マグカップ×4・高級なナイフセット(一本しか使ってない)・コーヒーの粉・蓋つき鍋・日記帳・財布(中身は秘密)・家族の写真・メンバーのプロフィール(シロウ作)・小型テント・肉の臭み消し用のハーブ
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