追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

文字の大きさ
29 / 71
フェルミンの第三勢力編

第27話 奥義の条件

しおりを挟む
 活動において何より功を奏したのは、ハチグサがやたらと演技の上手い男だったということだ。というのも、彼は盗賊へ堕ちる前は、劇団員を目指していたらしい。
 しかし、その入団試験で審査員に必要以上にボロボロに批評され、真っ当に生きる事を辞めたのだという。だからと言って、真面目に生きる人間を邪魔する理由にはならないとは思うけど。


「いやはや、自分の経験なんて、どこで役にも立つのか分からンもんでござんすねェ」
「それはそうだが、その喋り方はなんだ?」
「あっしの好きだった俳優に、トラサンっちゅう人がおってですねェ。その人の真似でさァ」
「……まぁ、よく分からんが。お前が楽しそうで何よりだ」


 そして、三日が経った頃。冒険者たちの中では、すっかりとゴクドーの存在が認知され、同じくして、シロウさんはロリコン勇者であるという噂も広がっていた。


「どうやら、彼らが派閥のリーダー同士だったみたいですよ。本当に、戦争が始まる一歩手前で食い止めたんですね」
「よかったっすね。でも、シロウさんはロリコン扱いですよ」
「しゃーねえよ。悪いな、モモコ。変な話になっちまって」
「……それは、全然いいんですよ。問題は、私がロリ扱いされてることです」


 本気で怒ってるのが、もはや笑えてくるくらい意味がわからなかった。この子、自覚してなかったの?


「いや、だってモモコは完全にロリじゃ……」


 瞬間、アオヤ君は彼女の表情から何かを察したように口をつぐみ、「てやんでぇ」と呟いてから目を逸らした。段々、彼女のツボを抑えてきたみたいだ。


「なにはともあれ、ゴクドーの存在はフェルミンを大きく変えました。これで、ようやく旅を再開する事が出来ますよ」
「そうっすね。なんか、早くバトルしたいっす」
「アオヤ君の口からそんな言葉が出るなんて、珍しいね」
 

 そんな話をしながら街の外へ向かっていると、その途中でマリンちゃんとセバスさんに出会った。どうやら、俺たちを待っていたようだ。


「みなさん、本当にありがとうございました。リク様含めた貴族の方々は、現在対応に追われてお見送りに来れなかったようですので、代わりにわたくしがお礼をさせていただきます」


 言って、セバスさんは深く頭を下げた。


「いいって、そんじゃな」


 それだけを残し、シロウさんは門の外へ出て行く。そして、マリンちゃんはアオヤ君に近づくと、こしょこしょと呟いてから頬を赤く染めて、小さく手を振っていた。


「何言われたの?」
「よくわかんないっすけど、大きくなったら僕のお嫁さんになるらしいです」
「へぇ、よかったじゃん。なら、必ず生きて帰ってこないとね」
「まぁ、悪い気はしないっすけど、僕はもっと、大人な感じの方が好みなんすよ」


 ……今、特大の死亡フラグを無意識に回避しなかった?


「ただ、マリンには死んでほしくないっす。なので、この前よりは少しだけやる気になりましたよ」
「へぇ、そりゃいい話だな。館では、何があったんだ?」
「あ、それはですね~」


 そして、アオヤ君の館の中で過ごした日の事を、興味津々に聞いていたシロウさんであった。この人、俺たちの恋愛事情に興味持ちすぎでしょ。


 × × ×


「アオヤ、行けそうか?」
「行けなくはないんですけど、なんかさっきからずっとおかしいんすよ」
「おかしい?体の具合でも悪いのか?」
「いや、むしろ気分は絶好調なんですけど、なんか幻聴的なモノが聞こえるんですよね」
「幻聴か。そりゃ変だな」


 次の街へ向かう途中、バトルがしたいというアオヤ君のリクエストに答えて、俺たちはダンジョンに来ていた。現在は、ボス部屋の手前。ここから見るに、敵は巨大なデビルカチョーみたいだ。


「はい。こう、ホーリーランスが話しかけてきてるっつーか」
「……あれ、なんか似たような事を、前にモモコちゃんが言ってなかったっけ」
「あぁ、それ多分、アオヤが奥義使えるようになったんですよ」
「えっ?マジ?」


 ピコン、と。彼の頭の上にビックリマークが浮かんだような気がした。


「マジだよ。私も同じような感じだったし、一回やってみれば?」
「そうするわ。シロウさん、ちょっとカマしちゃっていいすか?」
「いいよ。俺が着いてくから、二人は離れておいてくれな」
「わ、分かりました」


 言って、彼らはカチョーに迫ると、口上も聞かずに攻撃を始めた。


「あぁ、っべーっす!シロウさん!ちょ、こいつめっちゃボソボソ話しかけてくるんですけど!ゲイがどうとか言ってるんですけど!」
「ゲイって、あのゲイか?」
「分かんないっすよ!ちょっと、ホーリーランス!もう少しはっきり喋って!」

 
 そんなやり取りを続けていると、いつの間にかアオヤ君を中心に、青い風が渦巻いていた。次第に、声がハッキリと聞こえてくるようになったのか、彼は落ち着きを取り戻して、ゆっくりと目を閉じた。


「ボルグ?……あぁ、それが君の本当の名前なんだ。技は……、へぇ、そうなんだ」
「あいつ、なんで宝具と普通に会話してるんですかね」
「わかんないよ。というか、モモコちゃん随分落ち着いてるね」
「だって、シロウさんがここに居ろって言ったから……」


 まるで、夜の外出を父親に認めてもらえない子供のようだった。まぁ、実際認めて貰ってないし子供なんだけど。


 なんてことを考えながら、時折、援護射撃を挟みつつアオヤ君の準備が整うまでの時間を稼ぐ。シロウさんは、直接的な命令をしなかったが、代わりにタイミングを示すように俺に目配せをしている。俺たちは、最低限の労力でカチョーを捌けるほどに成長していたようだ。


「シロウさん、おまたせしました!行けますよ~」
「おう、じゃあ頼むわ」


 言って、迫っていた拳にホーリーセイバーの刃を叩きつけると、真っ二つに割れて体を避けた肉を掴み、その下を潜ってカチョーから離れた。


 瞬間、アオヤ君はホーリーランスを二回転させて、地面につけていた先端付近を掴んだ。そして、グッと強く地面を踏みつけると、槍のある右半身をその場に残して思い切り振り被る。青い風が、槍を包む。ホーリーランスに巻き付いているバンテージが旗のように強く揺らめくと、真空を纏ってその手を離れた!


「セイクリッド……ストライクッ!!」


 インパクトから、数舜だけ遅れて聞こえて来た雷のような炸裂音。放たれた槍は、一直線にカチョーを貫き、どてっぱらにぽっかりと穴をあけた。コルク栓を抜いた瓶の口のように、綺麗な丸い形は、ダンジョンの奥にまで長く続いている。まるで、そこには最初から何も無かったみたいだ。


「し、シロウさん!」
「やったな、アオヤ。こいつは、お前が本気で守りたいと思う人間が出来たから、使えるようになったんだ」
「やったぁ~!」


 跳ねて喜ぶ隣で、カチョーは自分の死にも気づいていない。まさに、神速の一撃。それに、技もちゃんと聖なる力っぽいのがグッド。


「でも、ホーリーランスはどこまで行っちゃったんですかね」


 言って、四人で穴の向こうをのぞき込む。背後からカチョーが襲ってきていたが、俺たちに攻撃する直前で、ドサッと地面に倒れた。


「……あ、かなり向こうだけど、穴の奥に刺さってるよ」
「へぇ、よく見えますね。私なら入れるし、ちょっと取ってきましょうか?」
「待て待て、こんな穴に入ったら、呼吸できなくて死んじまうよ。真上まで言って、掘り当てよう」
「分っかりましたよ~」


 そして、俺たちはダンジョンを後にした。ようやく、勇者パーティらしい戦力が整ってきたと言えるんじゃないか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

処理中です...