追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

文字の大きさ
17 / 71
キータの誓い編

第16話 奥義、覚醒

しおりを挟む
 × × ×


「よっし、じゃあダンジョン攻略、行ってみようか」
「なんか、緊張しますね。大丈夫でしょうか」
「どうだろうな。実は、俺もタタキアゲとバトルすんのは初めてなんだよ。一見してヤバそうなら、とっとと逃げちまおう」
「それがいいですよ。僕、絶対死にたくないっす」


 そりゃ、あれだけ儲ければ死にたくないよな。今日のアオヤ君は、いつもとは気合の入り方が違う。


「私は……」


 その反面、モモコちゃんは少し元気がない。クロウと再会して以来、ずっとこんな調子だ。


「大丈夫か?モモコ」
「は、はい。その、大丈夫です」


 言って、彼女はホーリーロッドを抱き締めると、シロウさんの顔色を窺うように見上げてから少し後ろを歩き始めた。


「モモコ、ちょっとおかしくないすか?昨日の修練中も、ずっと上の空でしたし」


 理由は、何となく分かる。きっと、彼女はクロウと自分が重なるポイントを見つけてしまったんだろう。それを表すように、彼女は戦闘が始まっても、努めてシロウさんの傍を離れず、指示を待って丁寧にスキルを唱えていた。


 そんな調子で攻略を続けていて一息ついた頃、シロウさんが俺のところへやって来て、囁くように言った。


「なぁ、キータ」
「なんですか?」
「ちょっと、モモコと話して来る。アオヤと休憩しててくれ」
「分かりました」


 彼は、少し離れて座っているモモコちゃんの隣に腰を下ろして、何かの話を始めた。随分と身振り手振りを交えているようだが、モモコちゃんはやはり元気が無く、申し訳なさそうに頷くばかりだ。
 ……そのまま、十分くらい経った頃。


「よし、じゃあモモコ。おいで」


 シロウさんは、涙ぐむ彼女の頭を撫でて立ち上がると、手を引いて部屋の外へ向かって歩いて行った。


「あれ、どこ行ったんすかね」
「さぁ。モモコちゃんの悩みを聞いていたみたいだけど」


 静寂。時折、どこかを歩く魔物の足音が聞こえるだけで、他には何もない。不気味さすら感じるその空間で俺たちは立ち尽くしていたが、その瞬間は、突然訪れた。


「ギャアアアァァッァァアアアァ!!ギャッ!ギャッ!ギャアアァァァァ……」


 あり得てはいけないような、この世に存在しえないような、そんな苦しみを訴えるシャインの叫び声がダンジョン内に響いた。あまりの恐ろしさに、何事かと驚いて武器を構えると、二人が出て行った通路の向こうにユラユラと動く影が見えた。
 そして、段々と影の輪郭が整ってきた時、そこに現れたのは。


「お待たせしました」


 逆巻くオーラで身を包み、チリチリと周囲の空気をきながら毅然きぜんと歩く、深紅の火炎を操るモモコちゃんだった。


「行きましょう、二人とも。私、今日は絶好調です」
「……えっ?も、モモコちゃん?いや、あの、モモコさんですよね?」
「何を言っているんですか?キータさん。当たり前じゃないですか」


 その後を追って、何故か全身をすすだらけにして、顔もかなり焦げ付いているシロウさんがやってきた。そして、「待たせたな」と俺たちに手を振ると、ふらつきながらもこちらへ向かって来た。


「悪い、キータ。ライケアを掛けてくれ」
「は、はい。ライケア。……一体、どうしたんですか?それに、さっきの叫び声は……」
「あぁ、それなんだが……」


 治癒を受けて、深呼吸をしたシロウさんは、息を大きく吐いてから答えた。


「モモコが、奥義を使えるようになった」
「……はぁ!?」


 全然状況が飲み込めない。そりゃ、アオヤ君も腰抜かすよ!


「モモコ、全然元気が無かっただろ?」
「え、えぇ」
「それに、あいつホーリーロッドで本気出したこともなかっただろ?」
「そう言えば、そうですね」


 確かに、仲間になる前の戦闘でしか、彼女の全力のスキルは見ていない。


「だからストレス発散に、全力で、何の気負いも無しに、全ての恨みとか辛みを乗せて、今使える最強のスキルをぶっ放してみろって言ったんだ。そしたら、覚醒した」
「いやいやいや。……マジすか?」
「マジ。で、俺も巻き込まれた。もう一歩脱出が遅れてたら、完全にバーベキューになってた。はっはっは!」
「ちょっとォ!シロウさんが命捨てるようなマネしちゃダメだって、結構ガチのトーンで話しましたよね!?なんで舌の根乾かないうちにポイ捨てしてんですか!」
「三人とも、何をしているんですか?」


 突然言われ、恐る恐る見ると、彼女は感情があるのかないのかよく分からない顔で、コテンと首を傾げた。


「あれ、どうするんですか?明らかに状況悪化してますよ」
「……とりあえず、ボスの部屋までは行ってみるってのはどうだ?」
「正気っすか?タタキアゲどころか、僕らまで消し炭にされますよ」
「だよなぁ。しゃーねぇ、今日のところは一回引き上げ……」


 シロウさんが呟いた時、地底にあるはずのダンジョンが大きく震えだした。


「もう!今度は一体何なんですか!」


 叫び、シロウさんたちが入って来たのとは別の方向を見ると、通路の向こうから女性の悲鳴が聞こえて来た。あれは、何かヤバそうだ……!


「……マジですか。宝具無しで、カチョーに挑戦してる冒険者がいますよ」


 考えてみれば、占いの結果を知らない冒険者は普通にシュニンか、ヤバくてもカカリチョーがいると思っているんだ。


「ど、ど、どうするんすか?」
「助けに行くに決まってる。悪いが、撤退は無しだ」


 言って、シロウさんは一も二も無く走り出し、モモコちゃんもそれに続いた。二人とも、いきなりカッコよくならないでくださいよ!


「仕方ない。アオヤ君、行こう!」
「りょ、了解っす!でも、死にたくねぇ!マジで死にたくねえっすよォ!」


 俺だって同じだよ。でも、もうやるしかないだろ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

処理中です...