追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

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追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。編

第52話 追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た④

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「クロウ。早く治療してやんねぇと、死んじまうぞ」
「お、お前!逃げるなッ!」
「逃げねぇよバカヤロオ!気に食わねえなら、本当に殺してぇなら!ボスと戦ってるときにでも背中から刺しに来いよコラ!仲間ぁ死にかけてる時にしょうねぇことホザいてっと殺すぞクソガキィ!!」


 初めて聞いた。シロウさんの、本気の怒鳴り声。聞いた相手の女たちはおろか、モモコちゃんとアオヤ君まで思わず背筋を伸ばしている。


「そいつはテメーに惚れて、テメーに着いてきてんだろうが!それを勝手だとか、自業自得だとか言うんじゃねぇぞ!」
「お前には関係ないだろうが!」


 ……きっと、その場にいた全員が、が殺されると思った。殺気とか、怒りとか、そんな甘いモノじゃない。ここに充満しているのは、形容する言葉も見つからない、そんな冷たいナニかだ。


「ヒナに回復かけろ」
「なん……」
「いいからかけろ」


 言われ、スキルを発動する。すると、燃えた髪の毛と千切れた耳の一部以外が、即座に回復した。


「したか?」
「あ、あぁ……」
「じゃあ、歯ぁ食い縛れ」
「な……、グブッ!?」


 シロウさんは、生身である右手で、クロウの頬をぶん殴った。顔半分が消し飛ぶんじゃないかって勢いの、とんでもないパンチだ。
 体は、後ろに控えていたアカネとセシリアのところまで運ばれる。生まれ持ったタフネスのおかげか、気絶はしていない。しかし、セシリアは悲鳴を上げて、アカネは辛い現実から目を逸らした。


「そいつが死にかけてんのは、決闘の結果だ。そいつが本気で守りたいモンを守る為に、命を賭けて挑んだ戦いだ。そういう殺し合いには、俺ぁ文句言わねえよ。だが、終わって助かるってのに、そんな仲間ぁ放っておくたぁどんな了見してやがる。えぇ?」


 しかし、それでもクロウは何も言わずに目を逸らした。その態度に唇を噛み締めると、シロウさんは真っ直ぐにクロウを見据える。


「お前、俺にどうして追放したんだって、そう訊いてたな」
「……もう、言わなくていい」
「教えてやる」
「い、言わないでくれ。頼む……」


 もう、ここで終わらせてあげてください。


「お前には、才能がねぇからだよ。世界を救う為の素質が、何一つ備わってねえ。だから、お前を追放したんだ」
「……はは」


 乾いた笑いは切なく、しかしそれをしっかりと聞き届けてから、シロウさんは踵を返して背中を向ける。
 そして、クロウは静かに、ただ静かに下を向いて、目を覆うこともなく泣いた。


「俺は、お前に認められたいだけだったのに……」


 ……シロウさん。「俺が」って、そう言ってやらないと本当にクロウの旅が徒労に終わってしまうから、そう言ったんですか?それとも、これまでに俺が考えた追放の理由は、全て深読みのし過ぎなんでしょうか。


 まぁ、その答えは、今となってはどうでもいいですけどね。


「クロウ、ヒナが目ぇ覚ましたら、俺たちの戦いを見にこい。これから、俺たちはデビルジョームを殺しに行く。その戦いが、俺がお前にしてやれる最後の手向けだ」


 そして、彼は扉の外へ出ていく。モモコちゃんは、一瞬だけヒナを見て、その後を追っていった。


 脊髄反射で言い返してしまったのは、きっとみんな分かってる。ここまで思い続けた相手に目を向けてしまったって、そんなことは分かってる。クロウが本気でヒナを思っていないなんてこと、無いに決まってるって分かってる。


 だから、ただ幼いって、それしか思い浮かばなかった。


「ま、待ちなさいよ。クロちゃんとヒナをこんな目に合わせておいて……」
「黙った方がいい」


 言ったのは、アオヤ君だ。


「もしこれ以上邪魔するんなら、今度は僕があんたらをブチのめすよ。だって、冒険者ってそういうモンだから」
「あ、あなた……」
「安心しなよ。邪魔しないってんなら、僕たちは必ずあんたらを守る。だから、見にきなよ。僕たちのリーダーを、ホントに殺すべきかどうかを知るためにもね」


 予想はつく。冒険者になった奴隷や聖女に共通するのは、信じる者に裏切られた過去を持っている事だ。だから、それを救ったクロウを盲信してしまっても仕方がないし、それが悪い事だとは少しも思わない。
 でも、無知は罪だ。視野の狭さは罰だ。アオヤ君は、それを咎めたんだ。


 言葉を残して、俺たちは一瞥もくれずに二人を追った。すると、角の向こうから話し声が聞こえてきた。


「モモコ、どんな気分だ?」
「……最悪です。やらなきゃ良かったって思ってます」
「上等だ。その感覚を、よく覚えておけ。必ず、お前の人生に役立つから」
「はい。でも……っ」


 すすり泣くような声からは、強い後悔を感じる。年も近かったのだから、出会うところが違えば仲良くなれたかもしれない。届かない想いを話し合える、いい友達になれたかもしれない。そんな悲しみが、痛いくらいに伝わってくる。


「……キータさん。作戦、教えて下さいよ」
「そうだね」


 そして、俺たちは少しだけ遠くの壁に寄りかかって、天井を眺めた。


 みんな、本当に優しい。


 ……だからきっと、俺だったんだ。


 × × ×


 ようやくして落ち着いたのを感じると、俺たちは二人に合流した。彼女の目は赤いが、心は落ち着いている。


「それじゃあ、行こうか」


 悪魔を殺して、先へ進む。後ろには、血と硝煙と、亡骸だけが積まれている。遂には背中を見せて逃げ出し、奥へ奥へと向かう悪魔まで現れた。俺たちを奥で待ち続ける悪魔幹部は、一体どんな気持ちでいるのだろう。


 巨大な扉が、現れた。今までよりも質素で、ただ岩を削っただけの扉。悪魔の体に合うように作られた、それだけの扉。
 シロウさんが、強く踏ん張って開く。ゴゴゴと音を立てて、ゆっくりと。そしてとうとう、その奥には俺たちを待ち構える、これまでよりも更に巨大で、扉と同じサイズの戦斧を携えた、三面六臂の姿の悪魔が現れた。
 目は、明らかに恐れている。しかし、その怯えこそが強さに繋がることは、俺たちのリーダーを見れば分かることだ。


 間違いない。あいつは、今までのどの敵よりも強い。


「……部下は、逃した。ここにいるのは、我と貴様らだけだ」


 深呼吸をして、辺りを見渡す。


「我が名はラゾニエス。位はジョーム。魔王様に貰った大切な名前を、貴様らの冥土の土産にしてやる」


 口上など、少しも聞いていない。そんな言葉に耳を貸せば、一つ心が生まれてしまう。


「キータ、アタックだ。オーダーを頼む」
「了解しました。展開して、二人は武器の死角に。モモコちゃんはセンターで指示を待って。俺は、目を潰します」
「オーライ。じゃあ、行こうぜ」


 無機質だ。相手の方が、よほど体に血が通っていると思う。


「部下の弔いは、我が果たすッッ!ウォォォォォオオ!!」


 でも、世界を救うって、そういう事なんだ。責任と使命の上に、感情なんていらない。
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