追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

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正義の正しさ編(最終章)

第62話 背景なんて、ない

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「キータさんッ!」


 モモコちゃんは、既にホーリーロッドを構えている。逆巻く炎は、彼女の涙をも巻き込む。その色は、桃色でもなく、黒でもなく、一点の曇りもない透き通った白色だ。


「爆破準備、セットだ」


 矢を受けた堕天使を見て、周りの悪魔が集まってくる。シロウさんは、剣を地面に突き刺して立っていたが、その背後には迫る影。矢を射出して守る?……否。俺は、モモコちゃんの炎の突破口を開かなければいけない。


「ウォォォッラァッ!!」


 飛び込んで、その影、レヴァスとシロウさんの隙間に入り込み、バフを受けたままの体で固い爪ごと腕を突き刺して落とした。


「スイッチ……」


 次を放とうとするアオヤ君の腕を掴んで、自分と入れ替え投げる。瞬間、バフをシロウさんに切り替えて、更にスペルアローでモモコちゃんを襲う悪魔の頭を貫いた。


「舐めるなァ!腕の一本や二本、貴様らにくれてやるッ!!」
「来い……」


 もう一方の腕を繰り出して、シロウさんの肩ごと抉り取る。しかし、ヒットしたのは左肩だ。


「まだまだァッ!!」


 更に、背後へ伸ばしていた長い尾で、分厚い胸板を貫いた。シロウさんには、あれが見えていた。だから、アオヤ君を後ろへ投げたんだ。
 三度、轟音。どこかから放たれた弾丸は、シロウさんの脳天を決定的に貫く。瞬間、戦いの音が、全て消え去った。それを感じたのは、二人も同じハズだ。


 そして、尾を引き抜いたと同時に、もう枯れ尽きた最後の血を飛沫上げて、シロウさんは笑ったんだ。


「……たの、んだ」


 確かに、俺はその姿から目を離さなかった。


 ……ずっと言えなかった事が、一つだけありました。本当は、あなたに認められる事以外に、何もいらなかったんです。あいつと俺は、実力以外に何一つ違いなんてありません。
 そんな、人を羨む事以外に自分を慰める術を知らなかった俺に、使命を与えてくれたから。嫉妬しか知らない俺に、役割を与えてくれたから。何者でもなかった俺を、仲間だと呼んでくれたから。


 今、再び思いました。あなたに憧れて、本当に良かったって。


 だから、あとは任せてください。


「……ククッ。クッハハハハ!!バーレニィ!ボルスロイ!ラゾニエス!そして、命を散らした我が部下たちよ!俺はやったぞ!あの勇者をこの手で屠ったのだッ!お前たちの雪辱を……っ?」


 シロウさんの、奥義。イアイ。敵の攻撃を受け流して、一瞬で幾太刀の剣を見舞う、一対一における最強の技。対策されれば二度と決まる事のない、最も奥にあった俺たちの最終手段。


「そんな……っ。まお……さ……」


 レヴァスは、体を細切れにさせて堕ちた。血が噴き出したのは、肉体が崩れた後。一欠片の迷いもなく、ただ純粋に剣を振り抜いたからだ。その速度に追いつけなかったヤツは、自分が死んでいることにすら気が付かなかったんだ。
 あの巨大な剣を、残光すら見せずに振るうその技は、真に戦う事を極めた、究極の奥義だ。


 生き返らないのは、それに意識を奪われたからだろう。


「ブチかませ、モモコちゃん」
「ヘヴ……、フレア……」


 モモコちゃんは、炎を繰り出す誘爆で生じたエネルギーをも飲み込んで、不死の体を焼き尽くす。そして、最後に残ったのは、復活を待つ焦げた悪魔の体と、地面に突っ伏して逃れようとする堕天使だけだ。


 歩み寄って、ナイフを拾う。そして、静かに立つと、ヤツは諦めたように俺を見上げた。


「キ、サマ……。なに、もの……だ?」


 シロウさんに、託された。でも、俺はあなたの代わりになんて、絶対になれません。だから。


「俺は、キータ。背景なんて、ない」


 そして、その胸に深々と、ナイフを突き刺す。辺りの悪魔は、もう起き上がる事は無かった。


 血みどろの戦いの痕跡の中に、巨大な銀の剣が刺さっている。その傍らには、ボロボロの体にしがみ付いて泣く二人の姿がある。きっと、俺が何を言っても届かない。それくらい、深い悲しみに落ち込んでしまっているのが、声にならない声を聞いて分かった。


 今攻め込まれれば、きっと俺たちは全滅する。そんな事は、分かってるんだ。


 でも、どうしてだろう。


「シロウ……さん」


 俺は、もう何一つ、疑う事が出来なかった。


 × × ×


 どれだけの時間が過ぎたのかは分からない。ただ、いつの間にか血は乾いていて、涙も枯れて、誰も声をあげられないでいた。


 そんなときだった。突然、足音が聞こえたのは。


「……死んだのか」


 見上げると、そこには短い黒髪に、切り裂かれたマントを雑に羽織った、一人の戦士が立っていた。


「くっくっ、ざまぁないな。俺の見立て通りだ、シロウは絶対にセンムクラスまでしか届かない。俺には、分かっていたんだ。だから、あの時情けなく縋ってくればよかったのに」
「ク、クロウ、お前何しに来たんだよッ!シロウさんを侮辱するなんて僕が許さないぞ!今すぐ……ッ!?」


 立ち上がったアオヤ君は、クロウの顔を見て言葉を失う。


「俺が、ここに来るまでにどれだけ大変だったと思ってるんだ。攻撃の通らない悪魔を相手にして、殺す以外の方法で戦って。お前の言うとおり、何度も心を折られたんだ。それを乗り越えて、ようやく、ようやく……」


 その涙には、誇りがあった。


「……くっ。あ、あははっ。なぁ、ど、どんな気分だよ、お前ら……。あっはっは。ほんと、ざまぁないよ。あぁ、ざまぁないね。弱いクセに、頼らないでさ。俺が復讐する前に、勝手に殺されやがってさ。俺がいれば、こんな奴らどうとでもなったのに。俺が、おれ、が……」


 歯の軋む、音が聞こえた。


「俺が、どれだけお前に認められたかったと思ってんだよ!!勝手に死んでんじゃねぇよ!!ふざけるなッ!!お前のために、俺がどれだけ苦労を重ねたと思ってるんだ!!お前、自分で言っただろうが!!認められる努力は誰も否定してないって!!だったら!!今すぐ起きて俺と戦え!!俺を認めるまで死ぬんじゃないぞ!!約束を守れよッ!!俺と戦えよッ!たたかェーッッ!!!」


 回復スキルを何度も掛けて、何度もシロウさんを呼んで。それでも、叫びは届かない。
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