追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

文字の大きさ
70 / 71
正義の正しさ編(最終章)

第66話 旅の終わり

しおりを挟む
 白い炎は、地獄の底をゆっくりと灼いている。その熱で汗が滲んで、一滴が右の耳の穴へと吸い込まれた。瞬間、ぼんやりと鈍い音が聞こえ始める。微かだが、クロウが何かを言っているようだ。


「……ヒナとセシリアには、悪い事をしてしまったと思ってる」
「なに?」
「多分、あいつらはお前と同じなんだ。きっと、俺が死んでしまった後でさえ、それだけを抱いて溺れてしまう。彼女たちにそうさせてしまった責任を、今になって感じる」


 震えているのは水滴の振動によるものなのか、クロウの声色なのか。それは分からない。


「……重いな」


 そして、突如下から巻き上がるように魔力が噴き出した。当然、それは本来人が認識できるようなものではない。クロウが持つ圧倒的な量によって、空気を歪めているのだ。


「何を言い出す。我々悪魔は、魔王様がいなければ喜びも悲しみも得ることはなかった!」
「アカネは、本当は俺が心配だったんだろうな。シロウやキータと違って、不安定で責任を知らない俺を放っておくことが。本当に、ありがとうとしか言えないな」
「従うことの何が悪いか!縋ることの何が悪いかッ!尽くす事の喜びを知らぬ貴様が、それを受け止める力の無い貴様が!我々の想いを軽々しく……」
「だから、決めたよ」


 俯いて、一瞬だけ俺を見る。会話が噛み合わずブランドの言葉に食い入るように答えているのは、恐らく何も聞こえていないからなのだろう。


「お前を殺す。そして、あいつらごとこの世界の未来を背負う」
「戯言を抜かすなぁアァァァァッ!!貴様のような湧いて出たような者が……」
「世界は、俺が守る」


 ……。


 剣を引きずって、ゆっくりとブランドに向かう。それを迎え撃つ為の攻撃は、もはやこの地獄を壊しても構わないという覚悟を秘めている。怒れるように生える太い角と空気を震わせて生まれた紫電が、胸の前で向かい合わせるように構えた手の間に吸い込まれ、空気の渦と雷が反発し結合し、破裂寸前の透明な雷雲を作り上げた。


「これがプラズマだ!科学の粋を結集したこの力を、貴様らに防ぐことが出来るか!!」


 黒い炎を吸収し、吸い上げた周囲の機械も破壊し、鉄の破片までも高濃度に圧縮すると、紫電は勢いを増してけたたましく乾いた音を響かせる。やがて、抑えきれずに空気に伝うほどのエネルギーを押し込んだ時、ブランドは再び咆哮を上げて業火のプラズマを解き放った。


「……セイクリッドバスター」


 そう呟いたとき、鈍い銀色のホーリーセイバーが輝き出す。その色を見たからか、アオヤ君はモモコちゃんの身体を抱え後方へと飛び立った。


「俺は、この世界最強の戦士、クロウだ」
「終わりだッ!!このミジンコ共めがぁァァァァッッッ!!!」


 雷轟。しかし、その攻撃はクロウが振り抜いた剣の一撃によって四散。後に訪れた衝撃波がすべてを吹き飛ばす。
 ホーリーセイバーは、光を放って砕けた。欠片は散って広がったが、周囲の風は一点に吸い込まれていくように静かに、そして速やかに動きを変えていく。


「キータさん、ありがとうございます」


 アオヤ君の言葉の後、彼を踏み台にして宙に躍り出るモモコちゃん。すぐさま、聖なる炎がホーリーロッドをの宝玉に召喚される。風に乗ったホーリーセイバーの欠片を吸い込んだとき光は極限に達して、それを操る彼女の姿は真っ白で神々しい天使のように見えた。


「まだだ!!我々が貴様らなんぞに!!負けるハズがないんだぁぁぁぁ!!!」


 体内で生み出したのか、目から細長い光線をモモコちゃんに放つ。しかし、貫いたのはそこにある偽りの形。俺たちの、白い幻影ホワイトミラージュ。スキルを通して、あの心から信じられる声が、確かに聞こえてきた。


――ブチかませ。


「セイクリッドプロミネンスッッ!!ウォラァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」


 止めどなく溢れる聖なる炎は、悪あがきの紫電を躊躇なく飲み込み、中心に向かって渦を巻く。熱によってパチッと、耳の中の水が蒸発したのが分かった。


 もう、音は聞こえない。耳鳴りだけが俺の意識を支配して、見えている景色すら錯覚なんじゃないかって、そんな気分に陥ってくる。しかし、とうとう炎が燃え尽きて、そこには何も残されていないことを目の当たりにしてから、ようやく全てが終わったことを実感した。


「……じゃあ、帰ろうか」


 ただ、それだけ。余韻に浸ってる暇が無いことは、まもなく炎に沈むこの場所を見れば明らかだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

処理中です...