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快楽調教7

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こぢんまりとした自宅の庭で…
月明かりを頼りに武士は水浴びをした。

立派な体格が入るギリギリの桶の中で
膝をつき、褌一つの姿で桶をあおる。
惜しげもなく月光に晒された肉体美と
整った顔の美しさはそれだけで一枚の絵に
ふさわしいようで人々に感動を与えるだろう。

しかしチラリと目をやれば…調教師によって
内股につけられた赤い歯形がくっきり見える。
水に沁みるわ、歯形の周りは紫色の痣に
なるわで散々だ。

ちょっと顔が良くて優しそうだからって
人を食い千切る勢いで噛むなんて…。
ちょっとあいつのことを好きになりそう
だったのに多分きっとそんなの思い違いだ。

「はぁ…。」

下唇を突きだしてふて腐れる。

これから長年恋慕っていたお館様の褥へ
向かうというのに…もしかしたら最後まで
シた…かも知れないのにお館様に
見せられない。

「……っ!」

いや、これも俺の油断が悪いのだ。
武士がねちねち引きずるなんてみっともない。
切り替えて、手拭いでさっぱり水気を取る。
一晩しっかり香を炊いた特別な着物に
着替え終わったらぼちぼち城に行こう。

この時は全て理想通りになると思っていた。

月を眺めつつ、逸る胸を押さえて
足早に城下町の街道を上っていく。

夜間城内への一般人の立ち入りは
普通、禁止されているが武士は別だ。
門番とも顔見知りだし、いつも通り城へ参る。

これからお館様に押し倒されますとは
とてもじゃないが説明出来なかったが
軽い世間話をして笑いを交わし、門をくぐる。
見上げればいつも以上に白色と群青色の
色彩の重なる城が美しい。

「えーと…。」

煙のくゆる松明を道標にこそこそ歩く。
決して他人には見られてはいけない。

そして今、主様は本丸には御座していない。
外周の二の丸の特別離れにて俺を待つ。
普段からそこは、お館様が眠れない夜に
読書をするため、よく足を運ばれている。
その時は決して誰も近づいてはならないが
俺だけは許可してもらっているのだ。
特別、俺だけ…ふふふん。

「んふふふ。」

お目付け役の視線をくぐり門を抜けて
慎重に、慎重に離れに近づく。

お館様も粋なことをされる。
昔から何かを企んだり、二人で逢うときは
必ずこの離れを使っていた。
そんな思い出の場所でこれから蜜月を
過ごすなんて…。ひどく興奮する。

障子に透ける薄明かりを頼りに戸の前に
屈むと、まずは懐から紺碧の和紙を取り出し 
隙間に滑り込ませる。
すると、コンコン、二回向こうから戸を叩く。
それにコンコンコン、コンと間を空けて返す。
それから扉がすう、と開く。

明かりに沿って見上げると目前に久しぶり
お逢いするお館様が微笑んでおられた。

「お館様…!」

「これ、二人で逢うときは幼名で
呼べと言ってあるはずだぞ。」

「し、失礼しました。み空丸様…。
お逢いしとう、ございました。」

「うむ、儂もだ。よく来たな藍乃介。
そこは冷えるだろう。こちらへ来なさい。」

「はい…!」

俺の手を握るお館様の手は柔らかい。
触れてもらうだけで、ぞくぞくびりびり
全身が甘く痺れてしまうようだ。

戸を閉めると小さな部屋は暖かい行灯の光で
隅の木目まで綺麗に照らされている。
壁には主が好む多様な書物棚が飾られている。

それから部屋の中央には褥が用意されていた。
お館様との夜伽…!

興奮のあまり気絶してしまいそうだが
しっかりするんだ藍乃介…!
この瞬間を何年も待ち侘びていたんだ!

「おいで。」

「はい♡」

手を繋いだまま褥に導かれ、その大きな
懐にすっぽり包まれ抱きしめられる。
ああ、紛れもなく幸せだ…。
このまま俺の全てをこの人に差し出したい。
しかし、内腿の痛みがそれを許さない。
シロのやつめ…今度文句くらい言いに行こう。

「儂の好きな、香が焚いてあるな。」

「は、はい…そうです♡」

幼少の頃から知っている特権だ。
気に入って下さったようで額の辺りで
すり、と主様は満足そうに笑ってくれた。

気づいてくれて嬉しい。
触れている部分の熱で溶けてしまいそうだ。

「あ…っ。」

俯いて感傷に浸っていると、顎をクイと
上に向けさせられ、お館様の唇と重なる。

「ん、ん…♡」

温かくて柔らかい。
唇を重ねた隙間から甘い声が漏れてしまう。
知らなかった、口づけが上手だったなんて…
知らない部分を深く知るほど、
ますます好きになってしまう…!

「ふ、あ…み、そらまる…さま…♡」

押されると自然に体が布団の上に倒れる。
その上にのしっとお館様が覆い被さった。

「儂に抱かれる準備は出来たか?
一騎当千の鬼武将が主に泣かされる
覚悟は出来ているか?♡」

「俺のっ…♡」

俺の全てはあなたのものです…!と
思わず全部言うところだった、危ない。
袴に擦れる内腿の痛みを一瞬忘れていた。
男に押し倒され、押印された朱色の歯形。
これをあなたに見られる訳にはいかない!

「…いえ、まだ熟していないようです。
もっと完全になってから…あなたに全てを
捧げとうございます…♡」

「そうか、怪我をしては大変だ。
儂は気が長い。華が咲くまでじっと待とう。」

「ありがたきしあわせでございます…。」

ちく、と胸が痛む。
心から信頼している主人に嘘をついた。
卑しい自分は優しい主に感謝するしかない。

そうだ…!
咄嗟に思いついたことを進言した。

「み、み空丸様さえ宜しければ…
この藍乃介…く、クチで愛撫致します。」

シロと何回かやったばかりだが
何とかしてお館様を悦ばせたかった。

「口淫か。面白い、やってみせよ。」

「はいっ…!♡」

勢いよく体を起こして身構えるが、急に思い
ついたことなので覚悟は全然出来ていない。
上手く出来る自信はないが、お館様に喜んで
貰いたい一心で震える手を抑え、主人の帯を
ほどく。

「ふえっ…♡」

驚きのあまり素っ頓狂な声が出た。
お、大きい…嘘だろ、これで通常状態か?
お館様の御自身に目を丸くした。
この状態でも口に含むのでやっとだ。

もしもこれ以上大きくなるなら?
とてもクチでなんて出来ない…!
い、いや、出来ないんじゃない…やるんだ俺!
怯える心を気合いで奮い立たせた。

「…!」

子供の腕ほどあるお館様のお館様をそっと
両手で支え、顔を寄せた。

「んちゅっ…♡」

「ほう…男のクチでも柔らかいものだな。」

先端、幹、根本、ふぐりを順番にゆっくり
舌を這わせた。「なるべく美味しそうに
飲み込みなさい」シロの低く囁いた言葉が
頭をよぎる。

「ふ、あっ…♡ん、ぷっ…ぷちゅ…♡」

何度かなぞって屹立が硬度をもったら
先端に唇をすぼめて当てる。
シロに言われたように、指導されたように…
なるべく吸いついて…頬肉を密着させ、
美味そうに無味の陰茎にしゃぶりつく。
今にも顎が外れそうだが、絶対歯を立てない。

「ん、むっ、ん、ん、…ん、んっ…♡」

喉奥は無理をしない。
唇を離さないよう、隙間ができないように
とにかく一心不乱に頭を上下に振る。
先端からぬるりと先走りが漏れて
口の中に独特の味が広がった。

「おお…うっ。」

時々、裏筋にふぐり、肉帽子の縁に舌を
這わせるとお館様が小さく呻く。

「おお…そんな技まで知っているのか。」

「ぷちゅっ…、ちゅ、るっ…♡」

最初、シロには下手だと笑われた。
男の感じる部分なんて分からないと
いじけたら自分にもあるだろうと言われた。
同じような部分が感じるのだから
まずは自分の悦ぶ部分を知りなさいと
何度も舌で責められたっけ…。

あの時は大変だったが、今こうして俺の口で
お館様を悦ばせて膨らませていると思うと
それだけで幸せだ。

「むんぐっ…♡」

張り切って褌をきっちり締めすぎたようだ。
自分のモノも固くなり、布を押し上げる。
興奮してきた…!

お館様の赤黒い大蛇がクチの中で
むくむく膨らみ限界まで反り返る。

「うう、もう出るぞ…っ。」

「ん、んぐっ…ん、んーっ…!♡」

終盤を察して一滴ひとしずくも溢すまいと唇をすぼめて
密着させた。

「出るっ…!」

「んぶっ…♡」

先端から勢いよく噴き出した大量の精は
俺の喉を孕ませようと駆け巡る。
あまりに量が多すぎて飲み込む前に逆流し
鼻の方から少しむせた。ああ勿体無い。

「けほっ、げほ、げほごほっ…う、ぐっ…」

水中に溺れたように空気を久しく感じる。
顎から濃厚な精が伝う。
苦くえぐみがあるものを手の甲で丁寧に
拭い舐め取った。悦んでもらえたかな?

「み空丸様…♡きもち、よかったですか?」

甘えるようにすり寄るが…
ぐいっと体を突き放された。

「…?」

「ああうん。良かったぞ。全くのでは
なくて安心したぞ。お園より上手いが
うーん、金を払うお蜜ほどではないかな。
もっと練習してくるのを楽しみにしている。」

「は、はい…。」

お館様の態度はいつもと変わらない。
優しい主人だ。
だが、目の前に出された手は近づくことを
許してくれない。頑張って飲んだのに…
シロは必要以上にべったりくっついてきて
「極上でしたよ♡」なんて褒めてくれるのに…

「み空丸様…?」

心配になって尋ねると主様はすぐに答えた。

「ああ汚れているからな。もう下がって良い。
今度逢瀬が出来るときはいつものように
伝達係を走らせよう。愛しているぞ、藍乃介。
だがお前が使えないなら城に戻ってお鶴でも
呼んでおタノシミといこうかな。」

「………は、い…。」

胸がぽっかりしている…。
高ぶっていた自身もすっかり萎えた。
頭が動かない。この時をよく覚えていない。
ただ命令された通りに下がる。
のろのろ、だけで挨拶を済ませると
戸を閉めて外に出る。
そしてその場でぐったり項垂れた。

「………。」

…お館様はいつも通りだった。
優しい笑顔だった。
おかしいのは俺か…?

「……!」

そうか、俺か。
俺が準備出来てないばかりに実はお館様は
失望されていたのかも知れない。
だから、だから拒絶された。だから俺はーー

「ひ、うっ…。」

顔が熱い。怒りが込み上げてきた。
口の端がわなわな震えている。
向かう場所は一つだ。
意を決して、鋭い眼で月を睨む。

「ぐすっ…、う、あいつめ…っ!」

こっそり城を抜けたら、闇夜の城下町を
一人、走り抜けた。
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