【R18】亡国の聖女は、魔王の最愛になりました。

白木ゆか

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第10話 勇者たち

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夜の街では、その娼館の劇が一番人を集めていた。

酒場と宿屋を兼ねた建物の奥、小さな舞台。前線に近いこの街では、噂は早く、刺激は強いほど好まれる。客は内容を知ったうえで席に着く。それでも、確かめるように視線を向ける。

幕が上がる。

石の床に、女が膝をついている。
両手は後ろに回され、身動きは取れない。顔は伏せられ、肩が小さく揺れていた。

「……やめて……ください……」

女の声は、はっきりと拒絶を帯びている。
客席が静まる。

男の影が、ゆっくりと近づく。

「聞こえないな」

低く、落ち着いた声。
怒鳴らない。それがかえって、客の想像を煽る。

「お願い……本当に……」

女は顔を上げない。
声だけが、縋るように響く。

男は答えず、女の前に屈む。
距離が一気に縮まり、女が息を詰める。

「……いや……」

「そういう顔をするな」

指が顎にかかり、無理に顔を上げさせる仕草が、影ではっきりと分かる。

「……いや……見ないで……」

視線を逸らそうとする女を、男は逃がさない。

「殺していないだけ、慈悲だと思え」

淡々とした声。

女の身体が、床に倒される。
押し倒される影が重なり、客席がざわめく。

「……だめ……っ」

拒絶の言葉は続く。
だが、息が乱れている。

男の手が伸びる。
どこに触れているのかは見えない。ただ、女の反応がすべてを語る。

「……っ」

短い声。
悲鳴にはならない。

「声を、抑えるな」

その一言で、女の喉が震える。

「……あ……」

思わず零れたような声。

「……ちが……違うの……」

否定しようとするが、言葉の間に吐息が混じる。

「……や……だ……」

「本当に、嫌なら」

男は、そこで一拍置く。

「まだ、その声は出ない」

女の身体が、再び揺れる。
逃げようとする仕草はあるが、影は離れない。

「……っ、あ……あぁ……」

声が、確かに変わり始める。
拒絶だった音に、熱が混じる。

「……そんな……声……」

男の声は低いまま、感情を含まない。

「最初から、分かっていた」

女は、言葉を失い、息だけを吐く。

「……あ……っ、あ……」

喘ぎが、はっきりと続く。
客席に、熱が溜まる。

照明が落ちる。
音だけが残る。

乱れた呼吸。
抑えきれない声。
やがて、それも静まる。

幕が下りた。

客席には、納得した沈黙が流れる。
誰も続きを求めない。十分だった。

後方の席で、白い衣の少女が立ち尽くしている。
胸元の聖印を、強く握りしめていた。

「……こんなのが……」

声が、怒りで震える。

「こんな劇が流行るほど……酷い目にあってる聖女が、いるってこと……?」

隣の青年――勇者は、拳を握り締めた。

「見過ごせない」

短い言葉だった。

「救い出す」

舞台で快楽に堕とされた聖女は、
彼らの中で、もう疑いようのない現実になっていた。

夜の街では、同じ劇が、また始まる。
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