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第10話 勇者たち
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夜の街では、その娼館の劇が一番人を集めていた。
酒場と宿屋を兼ねた建物の奥、小さな舞台。前線に近いこの街では、噂は早く、刺激は強いほど好まれる。客は内容を知ったうえで席に着く。それでも、確かめるように視線を向ける。
幕が上がる。
石の床に、女が膝をついている。
両手は後ろに回され、身動きは取れない。顔は伏せられ、肩が小さく揺れていた。
「……やめて……ください……」
女の声は、はっきりと拒絶を帯びている。
客席が静まる。
男の影が、ゆっくりと近づく。
「聞こえないな」
低く、落ち着いた声。
怒鳴らない。それがかえって、客の想像を煽る。
「お願い……本当に……」
女は顔を上げない。
声だけが、縋るように響く。
男は答えず、女の前に屈む。
距離が一気に縮まり、女が息を詰める。
「……いや……」
「そういう顔をするな」
指が顎にかかり、無理に顔を上げさせる仕草が、影ではっきりと分かる。
「……いや……見ないで……」
視線を逸らそうとする女を、男は逃がさない。
「殺していないだけ、慈悲だと思え」
淡々とした声。
女の身体が、床に倒される。
押し倒される影が重なり、客席がざわめく。
「……だめ……っ」
拒絶の言葉は続く。
だが、息が乱れている。
男の手が伸びる。
どこに触れているのかは見えない。ただ、女の反応がすべてを語る。
「……っ」
短い声。
悲鳴にはならない。
「声を、抑えるな」
その一言で、女の喉が震える。
「……あ……」
思わず零れたような声。
「……ちが……違うの……」
否定しようとするが、言葉の間に吐息が混じる。
「……や……だ……」
「本当に、嫌なら」
男は、そこで一拍置く。
「まだ、その声は出ない」
女の身体が、再び揺れる。
逃げようとする仕草はあるが、影は離れない。
「……っ、あ……あぁ……」
声が、確かに変わり始める。
拒絶だった音に、熱が混じる。
「……そんな……声……」
男の声は低いまま、感情を含まない。
「最初から、分かっていた」
女は、言葉を失い、息だけを吐く。
「……あ……っ、あ……」
喘ぎが、はっきりと続く。
客席に、熱が溜まる。
照明が落ちる。
音だけが残る。
乱れた呼吸。
抑えきれない声。
やがて、それも静まる。
幕が下りた。
客席には、納得した沈黙が流れる。
誰も続きを求めない。十分だった。
後方の席で、白い衣の少女が立ち尽くしている。
胸元の聖印を、強く握りしめていた。
「……こんなのが……」
声が、怒りで震える。
「こんな劇が流行るほど……酷い目にあってる聖女が、いるってこと……?」
隣の青年――勇者は、拳を握り締めた。
「見過ごせない」
短い言葉だった。
「救い出す」
舞台で快楽に堕とされた聖女は、
彼らの中で、もう疑いようのない現実になっていた。
夜の街では、同じ劇が、また始まる。
酒場と宿屋を兼ねた建物の奥、小さな舞台。前線に近いこの街では、噂は早く、刺激は強いほど好まれる。客は内容を知ったうえで席に着く。それでも、確かめるように視線を向ける。
幕が上がる。
石の床に、女が膝をついている。
両手は後ろに回され、身動きは取れない。顔は伏せられ、肩が小さく揺れていた。
「……やめて……ください……」
女の声は、はっきりと拒絶を帯びている。
客席が静まる。
男の影が、ゆっくりと近づく。
「聞こえないな」
低く、落ち着いた声。
怒鳴らない。それがかえって、客の想像を煽る。
「お願い……本当に……」
女は顔を上げない。
声だけが、縋るように響く。
男は答えず、女の前に屈む。
距離が一気に縮まり、女が息を詰める。
「……いや……」
「そういう顔をするな」
指が顎にかかり、無理に顔を上げさせる仕草が、影ではっきりと分かる。
「……いや……見ないで……」
視線を逸らそうとする女を、男は逃がさない。
「殺していないだけ、慈悲だと思え」
淡々とした声。
女の身体が、床に倒される。
押し倒される影が重なり、客席がざわめく。
「……だめ……っ」
拒絶の言葉は続く。
だが、息が乱れている。
男の手が伸びる。
どこに触れているのかは見えない。ただ、女の反応がすべてを語る。
「……っ」
短い声。
悲鳴にはならない。
「声を、抑えるな」
その一言で、女の喉が震える。
「……あ……」
思わず零れたような声。
「……ちが……違うの……」
否定しようとするが、言葉の間に吐息が混じる。
「……や……だ……」
「本当に、嫌なら」
男は、そこで一拍置く。
「まだ、その声は出ない」
女の身体が、再び揺れる。
逃げようとする仕草はあるが、影は離れない。
「……っ、あ……あぁ……」
声が、確かに変わり始める。
拒絶だった音に、熱が混じる。
「……そんな……声……」
男の声は低いまま、感情を含まない。
「最初から、分かっていた」
女は、言葉を失い、息だけを吐く。
「……あ……っ、あ……」
喘ぎが、はっきりと続く。
客席に、熱が溜まる。
照明が落ちる。
音だけが残る。
乱れた呼吸。
抑えきれない声。
やがて、それも静まる。
幕が下りた。
客席には、納得した沈黙が流れる。
誰も続きを求めない。十分だった。
後方の席で、白い衣の少女が立ち尽くしている。
胸元の聖印を、強く握りしめていた。
「……こんなのが……」
声が、怒りで震える。
「こんな劇が流行るほど……酷い目にあってる聖女が、いるってこと……?」
隣の青年――勇者は、拳を握り締めた。
「見過ごせない」
短い言葉だった。
「救い出す」
舞台で快楽に堕とされた聖女は、
彼らの中で、もう疑いようのない現実になっていた。
夜の街では、同じ劇が、また始まる。
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