【R18】亡国の聖女は、魔王の最愛になりました。

白木ゆか

文字の大きさ
12 / 38

第11話 聖女の願い

しおりを挟む
ミレイアがその話を聞いたのは、昼の終わりだった。

部屋に入ってきたのは、リリスとセルフィ、それからガルド。三人とも立ったままで、椅子に腰を下ろす気配はない。用件だけを伝え、長居はしない――そういう距離の取り方だった。

セルフィが先に口を開く。

「人間側が動いてる」

それだけで十分だった。

「勇者と聖女の組み合わせ。前線の街に入った」

リリスが続ける。

「捕らわれた聖女の救出、という名目ね」

感情は乗せない。事実を置くだけだ。

ミレイアは、視線を落とした。
救出、という言葉が、胸の奥で別の意味にすり替わる。

助けられる。
連れ戻される。

神殿の石床。祈りの時間。役割を果たせなかった日の沈黙。
思い出そうとしていないのに、順番に浮かぶ。

「……そう、ですか」

声は静かだったが、指先が強張っていた。

四天王たちは、それ以上踏み込まない。
恐れている理由も、戻りたくない過去も、誰も口にしない。

セルフィが肩をすくめる。

「対処は、魔王様が決める」

それは確認ではなく、前提だった。

ガルドが短く補足する。

「生温い判断はしない」

リリスも頷く。

「城の方針は変わらないわ」

誰も、「大丈夫」とは言わない。
誰も、「心配するな」とも言わない。

それが、この場の誠実さだった。

話はそこで終わるはずだった。

三人が扉の方へ向きかけた、そのとき。

「……あの」

ミレイアの声が、思ったよりはっきりと落ちた。

自分でも驚くほどだった。

「……前みたいな……聖女の生活に……」

言葉が、途中で詰まる。

一度、息を吸う。

「……戻りたく、なくて……」

それでも、止まらなかった。

「……ここに……」

視線は上げられない。

「……ずっと、ここに居たい……」

部屋が、静まる。

誰もすぐには答えない。
だが、空気は重くならなかった。

リリスが、最初に小さく息を吐いた。
そして、ゆっくりと笑う。

「……そう」

それだけで、十分だった。

セルフィは、壁にもたれたまま目を細める。

「それは……嬉しいね」

軽口に近い言い方だが、からかいはない。

ガルドは一歩だけ前に出て、低く言った。

「それは、アシュレイ様に直接言うべきだ」

命令ではない。促しだった。

「俺たちが代わりに伝えることじゃない」

ミレイアは、わずかに目を見開く。

ガルドはそれ以上何も言わず、静かに頷いた。
否定も、確認もない。

リリスが扉に手をかける。

「言葉にできたなら、それでいいわ」

セルフィが続ける。

「後は、魔王様の領分だ」

ガルドは無言で一礼し、先に外へ出た。

扉が閉まり、部屋に静けさが戻る。

ミレイアは、しばらくそのまま座っていた。

口にしてしまった言葉が、胸の奥でまだ震えている。
怖さが消えたわけではない。

それでも――

ここに居たい、と思ったことを、
否定されなかっただけでなく、託された。

その事実が、静かに息をさせてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

処理中です...