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束の間の安息と追憶
九話
しおりを挟む「ぜんぶッ!!!ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ、憎いッッッ!!!!
わたしがッッ!!!全て殺すッ!!!!ぜんぶなくしてぜんぶ殺すんだッ!!」
「来なさい……王として、剣聖として君を救おう」
初手、剣聖は落ち着いて動きを見た。
否、そうせざるを得ない程の速度で少女は突貫し、滅茶苦茶な剣筋を振るった。
「むっ……」
およそ子供とは思えぬ威力に、気を引き締め直す。
決して侮っていた訳ではないが、少女一人の力がいかにして歪んだのか、剣聖は微かな疑問を抱きつつ抜刀した。
イィン……。
迫りくる鈍らの直剣に相対するは、武器としての格が違う宝刀銀月。
由緒ある至極の剣は、その刀身に銀の少女を映して流れる。
「っく……」
「悪くない、だが、あまりにも君の剣は憎悪に囚われている」
「な、なにをっ…!」
女神の祝福により、速さと力で圧倒している少女。
しかし、歴戦の剣士であり剣聖でもある王の技量の前では打つ手も無く、数合の打ち合いを経て軽くあしらわれた。
「そこまでだ、君がこれ以上剣を振るう理由は無い」
「っつ……まだ、私は…私がッ!!殺さなきゃっ…!!
みんなみんな殺されてっ……ひどい、事を…だからッ…!!」
「―――そうか、君は……背負ってしまったんだね、
だがもういいんだ、それは私の役目、今はただ剣を降ろしていいんだ」
「やくめを……せおって……わたし、はっ……」
そこで、少女はすすり泣いて膝を着く。
戦いの意思は事切れ、この騒動も収まった。
剣聖は静かに納刀しようと、銀月を鞘に戻そうとしたその瞬間。
聴こえない筈の声を天啓の様に聞いてしまったのだ。
『なんだつまらん、剣士一人ごときでお前の殺戮はもうおわりなのかい?』
ちらつく雪があまりに遅く感じ、剣聖は瞬きを忘れて周囲を見渡す。
と、戦意を失くしたはずの少女の様子はおかしく、滾る殺意が空気を震わせた。
「なるほど……少女一人が賊を壊滅させたのは事実らしいな、
魔女か魔族か……はたまた神の後ろ盾か、これは少々骨が折れそうだ」
「うっ……あああぁぁッ!!!!」
「―――その子を、解放させてもらおうか」
世界が、動き出す。
そして刃が眼前まで迫り、剣聖は仕切り直して弾く。
幼く、体格も小さい少女の剣筋は見違えるほど研ぎ澄まされ、先程までのただ振り回すだけの攻めではない。
フェイントを絡めた横薙ぎ、そこから派生される追撃。
剣聖と言われた彼をも唸らせる剣術を魅せ、立ち合いは過熱していく。
「この剣っ……!!よもや、神域の業だなっ……」
過去、数々の戦場と修羅場を駆け抜けて来た彼が圧される。
魔獣、火龍、凶悪犯罪者に反英雄。
それらの強者が霞んで見える強さに、防戦一方を強いられた。
「わたしがっ……みんなを、まもるんだっ……!!だからッ!!
ころして、殺して、殺して殺してッッ!!殺して守るッ!!!」
「違うッ!!君は決してそんな事を望んでいないはずだッ!!
真に皆を守りたいのであれば、その力を殺す事に使ってはいけない!!」
剣戟が加速し、刃が重なり合う度に火花が散って鉄が鳴る。
殺伐とした音に合わせ、剣聖は少女を救うための言葉を乗せ、彼女の意識を引き戻そうと尽力した。
ここまで、切り伏せようと思えば何度か機会はあった、が、彼は頼まれたのだ。
少女を娘と言った、母の切実な願いを。
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