天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

文字の大きさ
76 / 102
束の間の安息と追憶

九話

しおりを挟む

 「ぜんぶッ!!!ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ、憎いッッッ!!!!
  わたしがッッ!!!全て殺すッ!!!!ぜんぶなくしてぜんぶ殺すんだッ!!」

 「来なさい……王として、剣聖として君を救おう」


 初手、剣聖は落ち着いて動きを見た。
 否、そうせざるを得ない程の速度で少女は突貫し、滅茶苦茶な剣筋を振るった。


 「むっ……」


 およそ子供とは思えぬ威力に、気を引き締め直す。
 
 決して侮っていた訳ではないが、少女一人の力がいかにして歪んだのか、剣聖は微かな疑問を抱きつつ抜刀した。

 イィン……。

 迫りくる鈍らの直剣に相対するは、武器としての格が違う宝刀銀月。
 由緒ある至極の剣は、その刀身に銀の少女を映して流れる。


 「っく……」

 「悪くない、だが、あまりにも君の剣は憎悪に囚われている」

 「な、なにをっ…!」


 女神の祝福により、速さと力で圧倒している少女。
 
 しかし、歴戦の剣士であり剣聖でもある王の技量の前では打つ手も無く、数合の打ち合いを経て軽くあしらわれた。


 「そこまでだ、君がこれ以上剣を振るう理由は無い」

 「っつ……まだ、私は…私がッ!!殺さなきゃっ…!!
  みんなみんな殺されてっ……ひどい、事を…だからッ…!!」

 「―――そうか、君は……背負ってしまったんだね、
  だがもういいんだ、それは私の役目、今はただ剣を降ろしていいんだ」

 「やくめを……せおって……わたし、はっ……」


 そこで、少女はすすり泣いて膝を着く。
 戦いの意思は事切れ、この騒動も収まった。
 
 剣聖は静かに納刀しようと、銀月を鞘に戻そうとしたその瞬間。

 聴こえない筈の声を天啓の様に聞いてしまったのだ。


 『なんだつまらん、剣士一人ごときでお前の殺戮はもうおわりなのかい?』


 ちらつく雪があまりに遅く感じ、剣聖は瞬きを忘れて周囲を見渡す。

 と、戦意を失くしたはずの少女の様子はおかしく、滾る殺意が空気を震わせた。


 「なるほど……少女一人が賊を壊滅させたのは事実らしいな、
  魔女か魔族か……はたまた神の後ろ盾か、これは少々骨が折れそうだ」

 「うっ……あああぁぁッ!!!!」

 「―――その子を、解放させてもらおうか」


 世界が、動き出す。
 そして刃が眼前まで迫り、剣聖は仕切り直して弾く。

 幼く、体格も小さい少女の剣筋は見違えるほど研ぎ澄まされ、先程までのただ振り回すだけの攻めではない。

 フェイントを絡めた横薙ぎ、そこから派生される追撃。

 剣聖と言われた彼をも唸らせる剣術を魅せ、立ち合いは過熱していく。


 「この剣っ……!!よもや、神域の業だなっ……」


 過去、数々の戦場と修羅場を駆け抜けて来た彼が圧される。

 魔獣、火龍、凶悪犯罪者に反英雄。

 それらの強者が霞んで見える強さに、防戦一方を強いられた。


 「わたしがっ……みんなを、まもるんだっ……!!だからッ!!
  ころして、殺して、殺して殺してッッ!!殺して守るッ!!!」

 「違うッ!!君は決してそんな事を望んでいないはずだッ!!
  真に皆を守りたいのであれば、その力を殺す事に使ってはいけない!!」


 剣戟が加速し、刃が重なり合う度に火花が散って鉄が鳴る。

 殺伐とした音に合わせ、剣聖は少女を救うための言葉を乗せ、彼女の意識を引き戻そうと尽力した。

 ここまで、切り伏せようと思えば何度か機会はあった、が、彼は頼まれたのだ。
 
 少女を娘と言った、母の切実な願いを。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...