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迷いと、後悔
十二話
しおりを挟むシュバルツが村へ訪れた翌日、彼は領主として襲撃の事後処理をまとめると、村に平穏を取り戻していた。
ミオや隣国の王子レッドの助力もあり、復興にかかる時間も迅速に済んで事態は収束しつつ、ヒースが抱える問題にも取り掛かっていた。
―――バシャっ!!
そんな中、冷水を浴びて祈りをささげる王女がいる。
早朝の空気が冷たく澄んで、決して楽ではない禊の一環。
それを表情すら変えず、真摯に、ひたすらに祈っている。
が、本人がいくら気丈にしていても、それを気にしてうろたえる人もいた。
「し、シルバ様っーー!!??そんな、いくらなんでも頑張り過ぎですよッ!!
それ以上はお身体を壊してしまいますっ!!早く屋内に戻りましょうっ!!」
「ミオ……そうですね、そろそろ戻りましょうか」
「そうしてくださいっ!!こんな朝早くにいないと思ったら、
黙って聖女の修練をしているなんて、心臓が飛び出るかと思いましたよッ!?」
「時間がありませんから、少しでも儀式が成功するようにこれぐらいしないと、
……それに、ミオだって怪我が完治している訳じゃないでしょう?」
「わ、わたしは大丈夫なんですっ!!
あとっ……黒き刃の皆様も手伝ってくれています、心配ないですよ!!」
「ふふっ、それなら良かった」
立ち上がってミオに歩み寄ると、濡れた衣が肌に張り付く。
あまり人前で見せられる恰好でもなく、ミオは慌ててタオルを手渡した。
「あーあー!!そんな恰好を殿方に見られたら大変ですっ!?
そのお姿を見た男性がいる、なんてヒース様に伝えたら鬼の形相で
見た人を消しにかかりますよっ!?」
「それは……容易に想像できますね」
ちょっと可笑しくて、笑ってしまう。
先ほどまで冷たかったはずの体温も、ミオとのやり取りでなんだか温まる。
先日まで何もできず、ただヒースの傍にいるだけしか出来なかった。
だが、聖女としての務めを果すことができると分かった以上、出来る範囲の修練を積み、全力で努力する。
ほんの少しでも、ヒースの助けになるように。
「おーう!!お二人さんッ!!随分と朝が早いなッ!!」
「レ、レッド王子ッ!?」
どこからか、上空から降り立って颯爽と現れたレッド。
彼は身軽に着地すると、ミオとシルバに声を掛けて気さくに話す。
「聞いたぜ王女様っ!!なにやら聖女として修練をはじめ―――て、る?」
「れ、れ、レッド王子ッ!?今ちょっとッ……また後でッ!?」
「ミオ……少し取り乱しすぎでは?」
「シルバ様もっ!?はやく戻ってくださいー!!」
当の本人は身体を晒すことに無頓着であり、恥ずかしがる素振りすら見せずミオに押されて部屋に戻る。
取り残されたレッドは、目を丸くしてその場に佇んだ。
「っふ……眼福だぜ」
髪をかき上げ、涼しげな風に吹かれて赤い王子は耽る。
その背後、死神めいた気配を感じた事を誰も知らなかった。
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