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剣を司る者

五話

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 「不幸を語る事に意味などないが、アタシは……
  散々救ってきた人々に裏切られ、あまつさえ世界にとっての悪と言われた、
  それ自体はまだ良かった、しかし、問題はその結末のつまらなさ、だ」

 「つまらない……?」

 「そうだ、考えても見ろ、
  幸福を願った世界の結果が愚かな剣士一人生まれただけ、
  ならば、違う結果を求めるのは必定だろう」

 「そんな理由で……人を、斬ったのですか」

 「その果てに虐殺と歴史の終わりを迎えたのだ、
  つまらない結末に比べれば面白いものだ、アタシにとってはな」


 怒りとも、悲しみとも、後悔ともしれぬ独白にシルバは一瞬油断した。


 「しまったッ……!?」

 「随分と優しいお姫様だなッ!!」


 拮抗していた鍔ずり合いが綻び、刀が力を逸らして連撃を仕掛けた。

 剣の技量で劣るシルバは、打ち合いになれば劣勢になる。
 
 そのため黒鎧布による力で転移し距離を離すが、その転移にすら追いつく速さで彼女は追撃してゆく。


 「長話が過ぎたな、そろそろ終わらせようか」

 「―――望むところです」


 鎖の拘束すら追い付かない速度で駆ける。
 それに対応して防御を取り、隙を見て影を媒介に転移して死角に潜む。

 数巡のやり取りを経て、有利な距離を保っていた女神が構える。


 必殺必中、全てを断ち切る最強の居合を。


 瞬間、シルバも防御から攻めに転じた。
 溜めていた黒銀の魔力を解放して、銀月に注いで。


 「先程の焼き直しかッ!!いいだろうッ!!」


 否、シルバの銀月は変化している。

 死神と剣聖の加護による魔力の一撃。
 剣術大会で魅せた空を切り裂く剣戟、それは二つの力で進化していた。

 しかし、変わったのは彼女だけではない。

 女神の構えは深く腰を落とし、神風とは違う姿勢で新たな技を繰り出す。


 「私はッ……!!全てを救いますッ!!
  民もっ!!ヒースもッ!!そして……女神様ですら救ってみせますッ!!!」


 「とんだ狂言だなッ……!!!シルバぁッ!!!!」


 光が、全てを包む。

 シルバが振り下ろした黒銀の月は、凝縮された魔力を爆ぜて世界を壊す。
 向かい合った星を切るは、一筋の流星になった刀。

 流れ星となった居合は確かに空間を巻き込み、銀月ごと切ったはずだった。

 だが、振り払ったものは黒銀であり、女神は月に重なった雲を退かしただけ。


 「……………勝負は、つきました」


 そう、雲を払って見えるは銀の月。

 シルバは黒鎧布の力を使いきり、首に巻いたそれを焼き切って剣を向けた。
 銀月に宿った魔力は美しい色に戻って、刃を、デュランザメスの首に添える。

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